第8話 冒険者予備校の予選トーナメント始まる!
王都の冒険者予備校は魔法の部と剣士の部にわかれており、魔法の部の受験の受付で魔力検査の水晶が使われる。
俺は水晶を使うと全魔法が使えるのがばれてしまうから、剣士の部で入学試験を受験する事になっている。
魔法の部では何が不味いって?全魔法が使え俺の魔力量が10歳で王様や皇帝級だったら出自も調べられるうえ、王宮で魔法使いとして一生涯飼い殺しだ・・・!
冒険者予備校は10歳から30歳まで受験する事が出来る。
冒険者予備校は貴族の子弟の教育の場であり、また有力な部下を探す場所でもある。そんなこともあって冒険者予備校の試験はかなり高齢の者も受験しに来る。
今回の冒険者予備校の試験を10歳児で受けるは俺を含めて3人いた。
剣士の部門で受験するのは俺だけだが、魔法の部門で受けるのがカンザク王家の第2王女ユリアナと宰相で公爵令嬢のセーラの二人だそうだ。
冒険者予備校の試験は予備選と本選があり、魔法の部も剣士の部も予備選はトーナメント方式で20の予備選の山が作られる。予備選で優勝すれば入学できるが学費や寮費を支払わなければならない。
その後、本選として予備選の優勝者と準優勝者を交えて総当たり戦をする。
それに、ベスト8に入れば予備選の準優勝者でも入学できるうえに学費も寮費も王国持ちだ。
本選の優勝者はカンザク王国から報奨金という名目の優勝賞金として金1千ギリと冒険者ギルドからDランクの冒険者カードが与えられる。
準優勝者は準優勝賞金500ギリとEランクの冒険者カードが与えられるのだ。
この優勝賞金や準優勝賞金を狙って冒険者予備校の入学試験を高ランクの冒険者や、冒険者予備校の卒業生でも良い就職口が無かった者が何度も受験することがある。今回も何人かいると噂している。
入学試験の当日、冒険者予備校で受験の手続きを終えると、俺達は冒険者予備校内にあるコロシアムのような場所に連れていかれた。
そこで、くじ引きして山分けがされていく。
冒険者予備校の試験は1週間がかりで行われる。予備選が4日、本選の総当たり戦が3日間だ。試験は王国の領民達の娯楽の場であり、試合に賭けが行われる。
今日俺はくじ引きの結果、第二試合会場の第2試合から試験の開始だ。
今日は1回戦のみで第二試合会場の一山には受験生が128人程が集まっている。今日1日では第二試合会場では64試合あり、第二試合会場の優勝者になるためには7回勝たなければならない。
第二試合会場の1回戦の相手は15歳位の両刃の木剣を持った身なりの良い男の子だった。振りが遅い、出小手をピシリと決める。木剣を取り落として小手の痛みで泣き出した。審判の老人が「勝者、スグル」と宣言する。
何時の間に来たのか客席でカナサキ支部長とキャロルが喜んでいる。俺に賭けたな。倍率は1対25でかなり儲けたようだ。
今日は1回戦だけだったので、冒険者予備校の受験受付のお姉さんから指定された宿で泊まる。一泊の料金が朝食と夕食込みで5ギリで負けた時点で宿から追い出されるそうだ。
食事は量が多いが香辛料などで味が濃い目で俺向きではない。
1回戦で勝っただけで酒を飲んでへべれけになっている大男がいる。酒は宿泊料に含まれて飲み放題だそうだ。宿の主人が渋い顔で大男を見ていた。
俺は、他の人の試合を観戦して遅れてきたこともあり、屋根裏部屋に入ることになった。
観戦した中では宿で酒を飲んでいた大男を除けば、特筆すべき相手はいなかった。噂では優勝賞金を狙っている一人だそうだ。
翌日も2回戦だけで32試合だ、俺の出場は第1試合で相手は20歳位の貴族の息子で取り巻きが肩をもんだりしている。
そういえば、昨日はこの貴族の息子が相手の肩を木剣で砕いて勝ったそうだ。
それもあって今日の倍率はなんと1対150で今までにない高配当だそうだ。俺もかけたいが受験生は試合の賭けをしてはいけないそうだ。
貴族の息子が木剣を構える。構えただけで、肩を砕くほどの腕前ではないと気がつく。
マジックの種は木剣だな、審判が確認した木剣を取り巻きに手渡したときに、取り巻きが鉄芯入りの木剣と交換したのだ。
力任せに振り回してくる、相手にする気が無いので、少し遊んでやる。
貴族の息子が肩で息をし始めた。その後も俺を無理やり叩こうと鉄芯入りの木剣を振り回しているので、貴族の息子の足がガクガクし、腕も上がらなくなった。
鍛え方が足らんな!ついには焦れたのか最後の力を振り絞って大振りで俺の頭を狙って振り下ろす。
叩かれる筋合いはないので体を開いてかわす。鉄芯の重さで地面を叩く。その木剣を上から俺が木刀で叩く、折れないで曲がり鉄芯が剥き出しになる。
審判が異常に気が付き「ヤメ」と宣告しようとする。貴族の息子は曲がって剥き出しになった鉄芯で俺の喉を突いてくる。
俺は突き返し突きで返す。
貴族の息子の木剣が曲がった分だけ俺の喉に届かず。俺の木刀が貴族の息子の喉を突く。
貴族の息子は喉を押さえて苦しがる。貴族の息子の取り巻きども3人が剣を持って会場に乱入してくる。3人の剣を木刀でへし折る。
驚いている3人の頭を殴って昏倒させる。
審判は俺の木刀も仕掛けの有無を確認してから俺の勝を宣言する。
客席でカナサキ支部長とキャロルが今日も喜んでいる。俺に賭けたな。
当然のことであるが、貴族の息子と取り巻きども3人は冒険者予備校の受験資格永久剥奪の処分を受けた。貴族の息子に肩を砕かれた相手は、その父親の某大貴族から高額な慰謝料が支払われた。
貴族の息子は某大貴族の嫡男で次期当主であったが、今回の件で王国から廃嫡の処分を言い渡されたそうだ。取り巻きどもはその大貴族の次期当主になる次男に取り入ろうとしたが相手にされず、王都カンザクから姿を消したそうだ。
今日も2回戦だけで、昨日と同じ指定された宿に入る。宿代の一泊5ギリを支払う。通常の宿代は10ギリで素泊まりだそうだ。
カンザク王国や冒険者予備校から宿に幾ばくかの補助が出ているので、朝夕の食事が付くそうだ。俺は夕食を取ると部屋に行く、今日の試合で敗れた人が宿から居なくなったので、昨日の屋根裏部屋から少し良い部屋になった。
昨日も勝って飲んでいた大男が今日も酒を飲んでへべれけになっている。
翌日も3回戦だけの16試合だが、俺の試合は無かった。俺の前日の試合を見ていた相手がビビッてしまい試合放棄したそうだ。勝ち名乗りだけ受ける。客席のカナサキ支部長とキャロルが悔しそうにしている。
昨日と同じ宿に泊まる。また少し良い部屋になった。大男は今日も酒を飲んでいる。他人事ながら大丈夫なのかなこの人は?
今日は予選4日目、予選の最終日で4回戦以降の決勝までの15試合を行う。俺は4回戦から順当に決勝戦で優勝するまで4試合しなければならない。
4回戦の相手は冒険者予備校の卒業生で良い就職口が無かった者だそうだ。
木製の長い矛を振り回してそれなりに迫力はあるが、残念ながらそれだけだ。
派手な分だけ隙が多い、俺の面を打とうと長い矛を振り上げようとしたところをピシリと出小手を叩く。「勝者、スグル」と審判が宣言する。
この腕では良い就職口の無いのがわかる。修行のし直しだ!
5回戦の相手は20歳後半の男だ。何でも地方の村の剣術道場の次男で棒術を使うそうだ。
俺も前世では警察官として全国や県の逮捕術の大会で長物、杖を使った。杖道も五段の腕だ。
相手の男は棒を振り回し始めた。
派手に見えるが隙が多い、ただこの男の回す棒の回転速度も速く修行の練度は高い。回した勢いを利用して俺の頭部を目がけて棒を打ち降ろし、地に叩きつけた勢いで跳ね上げて俺の腹部を突いて来た。
俺は突いてきた棒に添わせるように木刀を男の腹部目がけて突きかえす。
相手の男はそれを嫌って、引き剥がすように腰を振り横から木刀ごと俺の脛を叩こうとする。
俺は無双〇伝英〇流の脛囲いの要領で、相手の棒を木刀で受け止める。
棒の勢いが強い、咄嗟に木刀の先を地面に突き刺す「ガツ」と音を立てて棒と木刀がぶつかて止まる。
俺は剣先を相手に向けて下から振り上げる。地面の土が相手の顔面に向かって飛ぶ、相手が手で払おうとしたのが隙になり、そのまま剣先で相手の腹部を突く。
審判の爺さんが間髪入れず「勝者、スグル」と宣告する。
6回戦は長い金髪をした女性だ、俺より1歳上の11歳だと聞いている。
その女性は両手に木剣を持って現れた。片手の木剣の柄に輪っかが付いており指をかけて回し始めた。
思ったとおり回している木剣を俺に向けて投げつけてきた、それに合わせて持っている木剣で面を打とうと向かってきたので俺は木刀で相手の胴を抜く。
今回もきれいに面ぬき胴が決まる。相手の女性が白目を剥いて泡を吹いて倒れる。胸から伏せたお椀が落ちて頭の髪がずれる?
女性ではなくて男性だ!
何でも彼は冒険者予備校の在校生で、彼はある大物貴族の妾腹で、正妻に命令されて正妻の娘、義妹の代りにいやいや入学試験を受けたものだそうだ。
彼は放校処分になり、正妻の義妹は冒険者予備校の受験資格永久剥奪の処分を受けた。妹思いの彼は受験資格が剥奪されていないので次年度冒険者予備校を受験し合格したそうだ。
大物貴族は今回の件で王国から叱責の処分を言い渡されたそうだ。
最後の第二試合会場の決勝戦になった。相手は宿でいつもへべれけになっている賞金稼ぎの30歳代の大男だ。両手に大斧を持って入って来た。
大男なので間合いが遠い、大斧も木製なのでそれほど体力を使っていないようだ。
ただ、顔色が悪い・・・馬鹿だね!飲みすぎだよ!試合会場にまで酒を持って来て試合の合間に飲んでいる。
大男の戦い方のスタイルは酔拳のような軟拳でなく、巌も砕く剛拳と表現するのがピッタリの人なのに、大男は少し足取りがおぼつかないようだ。
大男も不味いと思ったのか、早く試合を終わらそうと突っかかってきた。
無駄話だが、剣道の昔からの言い伝えの中で『突きには出よ』とか『打って見ようが負けのもと』等とある。閑話休題。
俺は、大男が直線的に動き始めたのに合わせて前に出る。大男は右手の大斧を防御に左手で俺の首を刈るようにして振る。
大男の誤算は大男自身が酒を飲まないで素面で、もう少し大きい男と対していれば上手くいっただろうが、いかんせん酔っているうえに10歳児のチビを相手だ。
目標が狂ってしまい、俺は首をすくめることもなく、大斧が風を切る轟音をあげて頭上を通過していく。俺は大斧が通過すると大男の懐に入り、そのまま飛び上がるようにして喉を突く。
大男は斧を捨て、でかい体にも似合わずバク転をしてそれを避ける。
俺は、そのまま大男に突き進む。
審判が「ヤメ」と試合を止めて「勝者、スグル」と俺の名前を告げる。
武器を攻撃を避けるため俺に向けて投げたのではなく、逃げる為に武器を捨てた試合放棄の棄権行為とみなされたのだ。
大男は飲みすぎと急な動きでその場で吐いて大の字になってしまった。
かくして、俺は第二試合場の優勝者になった。相手の二日酔いの大男はベックといい準優勝者になったのだ。
さあ、明日からは冒険者予備校の本選だ!
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