第4話 拉致
俺が皇帝から皇太子の地位を取り上げられ御継様になったのだが、いつのまにやら話が大きくなり廃嫡されたことになった、その途端母親の使用人たちの動きが慌ただしくなった。
それでも俺は毎日魔法の練習だ。
魔素自体は体の大きさに比例して溜めることが出来るのだが、3歳児程度の体では溜められる量は微々たるものだ。
今のところ魔素をいかに多く集められるかどうかが課題だ。
それで身体強化と風魔法を使って情報収集に
それで分かったのだが、使用人が正妻(皇后様)に俺の現状を連絡し、その使用人が正妻から聞いたと周りの使用人に
「皇后様がが暗殺者を放つ。
御継もこれでおしまいだ。
黙って皇太子の象徴の守り刀を渡せば良いものを、いらぬ抵抗をするから暗殺してでも守り刀を奪う事になったようだ。
それでも離宮内で御継を殺すのは不味いので城の外
魔の森
まで連れて行って殺すそうだ。
それに殺せなくても魔の森では3歳児が生き残るのは不可能だからな。
御継を連れ出した犯人は不思議な守り刀に何処かに連れて行かれたということにするそうだ。・・・話は合わせておけよ!
御継の母親にはその間眠ってもらう為、睡眠薬を入れた食事を採らせるからね。」
等というちょっと無理な物騒な話を広めていた。
母親については、隣国にあるエルフ族の王族の関係者の娘だから安易に暗殺は出来ないそうだ。・・・俺はその息子だぞ!?
そんな噂を聞いて10日もしない日、朝から周りの者がこそこそと、それでも慌ただしくしている。
不穏な予感がする。
その夜、やはり母親は一服盛られて深く眠っているようだ。
どうやら今日が俺に対する拉致暗殺の決行日、命日になるのか。
いつもはいない数名の使用人の女が俺達の住む離宮にいた。
拉致の手引きをするつもりだろうがこんな女など無視だ!
慌ただしい一日が終わる。
太陽が地平線に沈み就寝時間だ。
緊張する!俺が拉致られる!!暗殺されるんだぞ!!!
噂話を聞いた段階で盛大に魔法で御出迎えしようと思っていたのだが、雷神が
『ここで、使用人や暗殺者を殺っても、正妻は二の矢、三の矢と次々と暗殺者を寄こすだろう、今は気持ちを押さえろ。
それに
「赤子の手をひねる」
と言う言葉のある通り、3歳児の中では魔法の力はトップだろうが筋力や体力ましてや体にため込める魔力量は赤子、持久戦になったらやられるぞ!
それに魔の森までは生かされるようだから我慢しろ。』
と俺に頭の中に声で忠告された。
確かに俺は赤子、魔法では魔素が豊富な場所ならば魔法勝負も良いのだろうが、普通の場所では体にため込める魔力量も重要な要素だ。
その上、体力はゼロに近いいくら魔法で体力を強化したところで
「ゼロに何を掛け算してもゼロか!」
それに全員を倒すのは無理だ。
歯ぎしりする思いで様子を見ることにした。
魔法のライトやランプの灯が消され暗闇が離宮を包み込む。
俺は何時も通り寝たふりをしながら風魔法を使って周りを探知する。
何か引っかかった!
暗闇の中忍び寄るいつもとは違う足音が離宮に近づいてきた。・・・大きな魔獣いや前世の記憶にある馬を引いた者が離宮に歩み寄ってきたのだ。
離宮の扉の前にその足音が止まる。
『コツ』『コツ』
と小さくドアを叩く音が聞こえ、いつもはいない使用人の女がドアを開ける。
外から来た者だけが、今度は俺の寝ている寝室のドア前に立った。
外から来た者の
『ゴクリ』
と喉を鳴らす音が聞こえると静かに様子を窺いながら寝室のドアが開けられる。
窓は夜になると蓋がされる。それで寝室の中は真っ暗だ。
廊下の常備等の明かりによって暗殺者が見えた。
暗殺者は狩人のような格好をした若い男だった。
若い男は揺り籠のような物を持って周りを気にしながら寝室に入って来た。
その男は正妻(皇后)の弟で宰相の五男、女たらしの穀潰しで有名な男だ。
俺が皇太子だったころは正妻が時々俺の
野郎の目が血走っており、殺気を振りまいている。
俺は火魔法を攻撃で使おうと思ったが雷神から忠告を受けているのでここは我慢する。
野郎は持っている揺り籠の中に俺を入れる。野郎は俺の上に浮いている守り刀を取りあげようとすると、守り刀から雷神の名のとおり雷光が輝く。
野郎は「チッ」と小さく舌打ちしながら、雷光を受けた手を押さえる。野郎は守り刀ごと俺を布でくるむと、部屋から連れ出した。・・・俺ごと包めば雷神も雷光を出すわけにはいかない上手く考えたものだ。
俺は布で周りが見えず、風魔法を使おうにも布でくるまれているので魔素が集められないので使えない。・・・体内の魔力量を下手に減らすわけにはいかない。
この布魔素を遮断する魔法陣が描かれているようだ。
それに魔素を取り込んで行動する雷神が一緒にこの布に包まれて沈黙した!・・・肝心な時に使えない奴だ!!
そのおかげで何処をどう通ったかわからないまま、城の外に出ていた。
城の外に出る時に門衛の兵に野郎は誰何されたが奴は
「皇后様の用で外に出る。」
と言って城外に出てしまった。・・・夜間なのだから持ち物ぐらい検査しろよ!
城の外に出ると俺は馬の背に揺り籠ごとくくり付けられ、城下街を通る。
布がくくり付けられた弾みでずれる、そのおかげ顔にかかった布がずれ周りが見えるようになった。・・・顔だけでは十分に魔素が取り入れられない。・・・う~ん、曇りの日の太陽発電みたいなものだ。
星空が見える、城下街は深夜で道には人っ子一人いないようだ。
城下街を野郎は馬に乗り
『ポクリ』『ポクリ』
と真っ直ぐに最短距離で抜け出る。
城下街を囲む城壁の裏の城門にたどり着く、城門を守る兵士達が見て見ぬふりで俺達を通す。・・・これでヤマト帝国の帝都、俺の母親と永の別れか!?
城壁を抜けると田園地帯に出る。
馬に乗って一昼夜走る。
その間に何か所か村落があり、その都度彼の部下などのなかで子供を産んだ女の人から貰い乳をする。
俺がビイビイ泣いて変に注目を集めたくないようだ。
馬に揺られて二日目、田園地帯を取り囲むような万里の長城のような城壁を抜ける。
その時も城壁を守る兵士達が見て見ぬふりで俺達を通した。・・・これでヤマト帝国とも永の別れか。
田園地帯を抜けると深い森が見えてきた。
この森を
「魔の森」
と言うらしい。
いくら魔の森と言えども、他の人に俺を殺すところを見られるのがまずいと思ったのか更に深い森の中で、ひときは大きな木のそばまで俺を連れて来た。
野郎は
「お前がいなくなれば、責任を取らせる形でお前の母ちゃんは城から出される。
城から出された時お前の母ちゃんを玩具にしてやるよ。」
等と言いながら、野郎は俺の入っている揺り籠を大きな木のそばに置く。
野郎は腰に下げた両刃の剣を抜くと俺を突き殺そうとする。
俺は母親を玩具にすると聞いたとたん、野郎の股間に向かって特大の火魔法の火の塊を放ってやった。
野郎は悲鳴をあげてのたうち回る。
野郎は水魔法が使えるのか、自分の股間に水をかける。
今度は野郎は水魔法で氷の槍を作りあげて俺に向かって放つ、野郎は魔法を放つと持っていた両刃の剣を振り上げて俺の頭に向かって振り下ろす。
俺は野郎の氷の槍を火魔法の火の塊で相殺するが、野郎の剣まで手が回らない。
それに何故だか魔素の集まりが悪い!・・・し!しまった!!魔素を遮断する布を
何と愚かな布切れ1枚がこの世のお別れになるとは!
俺の短い第二の人生もこれで終わりかと思った時、なんと俺の懐にいた守り刀が野郎めがけて飛んで行き腕に切りつけた。
野郎と守り刀が何合か切り結ぶのを見ていたが、守り刀の方がはるかに強いのが一目でわかった。
前にも言ったが俺の前世は警察官で剣道七段、若い頃は剣道の特錬生で、全国大会にも何度か出場したことがある。
その俺から見ても守り刀の強さには目を見張るものがある。
野郎は守り刀があまりにも手強いので、乗っていた馬の所まで逃げ戻ろうとする。
追っていた守り刀がある一定の位置まで行くと止まって俺のところまで戻ってくる。
野郎は馬から離れて俺に近づいてくる。守り刀は戻った位置まで飛んで行くがそれ以上は進まない。
野郎はその位置を見極めてから、ニヤリと笑い
「そうだな、一ヶ月程したら様子を見に来てやるか。この魔の森で生き延びられるかどうか、魔獣や獣に骨まで食われてあの世に行ってしまえ。空もお前の為に今にも泣きだしそうだ。あばよ元気でな...!」
と捨て台詞をはいて馬に戻ると後ろも見ないで走り去っていったのだった。
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