第2話 転機

 俺は元警察官で殉職してこの世界に転生したらしい・・・空想小説の中だけの事かと思った。

 仏教経典にも転生の話はあるが・・・輪廻転生か?


 産道を通って生まれ変わる時に、前世の記憶が産む母親の苦しみを受けて綺麗に消されるという・・・ところが俺には60年間の前世の記憶が残ったままだ。


 俺はインドの高僧ダ〇イ・〇マが転生者だと話しを聞いたことがある。それで転生は同一世界に転生するものと思っていたが、別の世界、それも魔法世界などフィクションの世界に転生するとは。

 これを考えるとまた混乱する。・・・現状を肯定しよう。


 俺は前世の警察官としての磨いてきた注意力を使って状況把握に努める事にした。

 部屋の状態はともかくとして使用人と思われる何人かの女性や男性が出入りすることから、かなり裕福な家庭だと思われる。


 俺が赤ん坊に転生して数ヶ月経つが、その間に若い女の夫とおぼしき男性をまだ見ていない。

 言葉については、若い女や使用人は見た目は金髪青眼の外国人なのに日本語で話をしている。

 それで話している内容は分かる・・・・。


 俺は言葉がまだうまく出ない。もし言葉が出せても、出さないようにしなければならない、どうも俺は生まれて間もないらしい。

 生まれて間もない赤ん坊が言葉を使えば不気味なはずだ・・・俺にも経験がある。


 無駄話だが、前世で俺が駐在所勤務中、真夜中軽くジョッキングしていていきなり


『お前誰や⁉』


と声を掛けられ周りを見まわすが人影が無く、黒い年老いた猫が目を光らせて俺を見ていた。それくらい不気味なはずだ!・・・閑話休題。


 俺が暮らしている部屋は石造りの部屋で20畳ほどの広さがある殺風景な部屋だ。

 唯一家具と言えば、その部屋の中央に俺の寝ている木で出来たベットが置かれているだけだ。

 背中が痛くなるほどの硬いベットだ。・・・う~ん赤ん坊だから文句も言えない!

 それに汚い掛布と言ったが、この世界では貴重品で寒くなると毛皮で体が覆われる。


 そんな殺風景な石造りの部屋にも石造りの暖炉が設置されて、天井からはランプが下がっている・・・下がっていたのはやはりランプだった。


 建築様式はあまり洗練されたものではなく、石積みに大きな石の屋根を載せただけのようで、横穴式住居より少しマシと言う程度だ。

 それでも使用人から『離宮』と呼ばれるだけあってドアなどはかなり頑丈にできているのだが、窓にはガラスが無い!夜になれば窓の大きさにあった木の蓋を閉めるようだ。

 雨や強風の日は木の蓋は閉めっぱなしで暗い・・・ランプと暖炉の明かりだけが頼りだ。


 これだけで文明文化の程度は・・・あまり高くないようだ。・・・今のところ絵本も読んでもらったことは無い。


 しかし、この世界では


『魔法』


が使えるようだ。

 使用人の女の子が


「火」


と唱えるとランプに火がともる。


『火魔法』


と言うらしい。

 ただ、ランプを灯せるのは、この部屋に出入りしている使用人の中では、この使用人の女の子だけのようだ。

 また、俺のオムツを変えるときは、二人の使用人が取り替える。

一人が


「温水」


と唱えて、暖かい水でお尻をきれいにして、もう一人の使用人が


「温風」


でお尻を乾かすのだ。

「温水」を使えるのが『水魔法』で、「温風」を使えるのが『風魔法』と言うのだそうだ。

 これでは科学は必要ない、文明文化が進まないわけだ。

 ランプの火を灯せる女の子がいないときは、


「明」


と唱えると、明かりの塊が宙に浮かぶ、『光魔法』と言う魔法で一度唱えると、一時間程明かりの塊が宙に浮いている。

 この魔法は重ね掛けが出来て、明かりを明るく照らすことができるようだ。

 単なる解放部分の窓にも風魔法をかけて風のカーテンでもつくれば雨風の日でも窓を開けることが出来るのに。


 俺はそんな風に周りを観察していたある日、この世界には使える魔法の種類や、その強さがわかる水晶があり、その水晶で俺の使える魔法と魔法の力を測られた。

 母親の「スエコ」様が私の手に


『魔法を測れる水晶』

を持たせる。


 俺もわくわくだ!

 どんな魔法が使えるか楽しみだ!・・・う~ん魔法を使えないなどとは考えてもいない!!いないはずだ!!!


 俺の手に持った水晶が次第に虹色にそれもとても見ていられないほど光り輝いた。


『虹色』・・・全属性、つまり全ての魔法が使える事を表し、光の強さは魔力の強さを表すらしい。

 ちなみに、

『赤色』は火魔法

『青色』は水魔法

『黄色』は土魔法

『緑色』は木魔法

『白色』は風魔法

『燈色』は光魔法

『黄金色』は時空間魔法

『銀色』は怪我などを治す治癒魔法

『黒色』はゾンビなどを産む暗黒魔法

があるそうだ。

 庶民は全く魔法を使えず。

 貴族階級しか魔法を使えないそうだ。・・・庶民で魔法が使えれば御貴族様になれるが最初はどんなに魔法や魔力があっても一代限りの騎士爵からだ。


 わき道にそれた話を戻すが、一般的に貴族は魔法一種類を使える、二種類以上の魔法を使える人はまれで、全魔法を使えるのは王侯貴族と呼ばれるほんの一握りの人しかいないそうだ。


 二種類以上の魔法を使える場合は、『魔法を測れる水晶』がその使える魔法の色でまだらに混じり合って光るそうだ。

 母親は、俺が全魔法が使え、そのうえとても強力であることが判りとても喜んでいた。

 俺の魔法が凄いものであると目撃した使用人どもが金を貰っている御貴族連中にご注進に走ったようだ。

 そのおかげで俺が全魔法と高い魔力量を持つと分かった翌日には、鋭い目をした老人のような男性が俺の部屋に入ってきた。


 その老人のような男性は母親の夫であり、この国


『ヤマト帝国』


の皇帝だそうだ。

 皇帝は老人のように見えるが、実はまだ三十代後半で、この帝国の状況から心労でかなり老け込んだらしい。


 俺の母は、この男、皇帝の第二夫人だそうだ。

 正妻にはまだ嫡男が生まれていない。正妻に男の子が生まれるまでの間は、俺が嫡男だそうだ。

 それで皇帝は、俺に

『スグル』

と正式に名付けて、

『皇太子』

の地位を授けてくれた。

 その皇帝が代々嫡男に渡す守り刀を俺に与えてくれた。


 俺がもらった守り刀は


『ライジン(雷神)』


と言う名前の魔刀だそうだ。

 皇帝がそのライジン(雷神)を太刀造りの鞘から放って見るとその刀身は、刃渡り2尺6寸4分(約80センチ)東〇国〇博物館所蔵の名物童〇切安〇とそっくりだった。

 この世界は両刃の直刀が主で、日本刀そっくりの片刃の剣は滅多にないそうだ。


 皇帝がその魔刀の峰を俺の額に乗せて、俺の名乗りと皇太子への任命、そして守り刀の付与を言って鞘に雷神を戻し刀掛けに置くとすぐ部屋から出て行った。・・・いそがしい男だ。

 その雷神だが刀掛け・・・俺にとってはベットに続いて二つ目の家具だ。・・・鹿の角で出来た刀掛けが暖炉の上に置かれた。


 俺の認証式・・・皇帝の息子と認められて皆が出ていくと、何と刀掛けから雷神がフラフラと俺の胸の上40から50センチの高さで止まって浮いているのだ。

 俺が空に浮くライジンを


『不思議な刀だな?』


と思って見ていると、ライジンから


『わが名は雷神、我と契約を結ぶか?』


と聞いてくる・・・!?

 確かに俺の頭の中に声が聞こえ、それが宙に浮かぶ雷神からのものだと解る。

俺は・・・ラッキー!ファンタジーきた!!!急いで


『契約を結ぶ!その為には如何すればよい?』


と思うと、雷神が


『両手を出せ。』


というので、両手を上にあげる。

 雷神が自ら鞘を払って、抜身のまま両手に乗る、掌が薄く切られ血が流れる⁉・・・いや血が流れないで雷神に吸い上げられる。ほんの束の間の間であったが、雷神が


『我は、其方の守り刀となった。初代様以来の契約者じゃ。』


と言う。

 それ以来、俺以外の人が雷神に触れようとすると、雷神の名前のとおり、雷がその人に向かって放たれ、触れることが出来なくなった。

 俺の掌には雷の文様が残り、今まで守り刀と契約した初代様以外、誰も使うことのできなかった雷神魔法が使えるようになった。・・・う~ん俺全魔法が使えるはずだが??????


 俺は、魔法が使える事を知ったその日から母親や使用人が使う魔法の様子をよく見るようにした。

 室内にキラキラした何かが漂っているのが見える。

 魔法を発動しようとするとキラキラしたものが集まり魔法が使えるようだ。

 俺が魔法を使うさまを興味深げに見ていると、雷神が


『キラキラして見えるのが、それが魔素だ。

 普通の人には見えないのだが貴様には見えるようだな?

 魔法を唱えると魔素が集まるのだが、魔素を集める力が、魔力である。

 使える魔法はその人が生まれつき持っているものだが訓練しなければ使えない。

 我と契約したことににより、主は雷神魔法を使えるようになった。

 このように後から付与されるものもあるが、その人の素質による。

 魔法が使えるようになるには、まず魔力を上げなければならない、それは個人の努力しだいだ、勤勉に励め。』


と、魔法の説明と、その後は練習方法を教えてくれた。・・・う~ん雷神は俺の魔法の家庭教師か?

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