第5話 ある女性の話

わからない



わからない



子どもを見殺しにするのは悪のはずだ



でもそれで反逆者になる?



それを行った反逆者は悪か?



わからない



反逆者は悪のはずだ



反逆者は存在していてはいけないはずだ



反逆者は



反逆者は



反逆者は……



混乱する私に話しかけてくる人が居た



「あら、ここに普通の人が来るなんて珍しいわね



ずっとここで立ち止まっているみたいだけれど迷子にでもなったのかしら?」



その人も金色の羽を持つ反逆者だった



また金色の羽だ



いや、反逆者には金色の羽を持つ人しかいないのか



だって楽園へ行かない人が反逆者になるのだから



ぼんやりとそう考えていると彼女はくすりと笑ってこう告げた



「迷子さん。よかったらうちで少し休んでいかない?」



私はその言葉にこくりと頷いた



混乱した頭は休息を求めていた










彼女の家は少し大きめの一軒家だった



家に入ると羽無の青年が私と彼女を出迎えてくれた



青年は少し微笑んでからお茶を入れてくれた



温かなお茶で少し休息が取れ混乱も少し治まった



けれど混乱した原因である反逆者のことはまだよくわからない



そうだ、彼女も反逆者だ



私は思わず彼女になぜ反逆者になったのかと尋ねていた



彼女はその問いに少し驚いた様子だったがお茶を一口飲みゆっくりと語り始めた











わたしは楽園には行ってないの



なぜかって?



彼が『羽無』になってしまったからよ



だから彼のいない楽園になんて行きたくなかったの



翼が金色になっても虹の橋を渡らなかったからわたしは反逆者になってしまった



初めは少しの変化だった



わたしの瞳はもともと青色だったんだけど



ある日鏡を見たときに少し紫色みたいになっていたの



それで自分が反逆者になりかけていることに気づいた



まだ完全に赤になってはいなかったのだけどこのままでは時間の問題だった



だからわたしは彼と一緒に逃げた



わたしたちは逃げている途中で別の反逆者と出会ったの



その人はこの村の住民で人のいないところを旅していたんですって



その人にこの村の存在を教えてもらって今はここで暮らしているわ



もちろん彼もいっしょにね



彼はいい人よ



『羽無』なのにいい人がいるのかって?



たくさんいるんじゃないかしら



だってどんな理由であっても人を殺したら翼はなくなってしまうのだから



彼は人を殺してしまったわ



別に殺そうと思ったわけじゃなくて不運な事故だったの



彼が車に乗っているときに小さな子が飛び出してきた



彼は急いでブレーキを踏んだのだけど間に合わなくてそのままその子は死んでしまった



もちろん注意はしていたし危険な運転をしていたわけでもない



その子の親もうちの子が飛び出したのが悪かったんだと言っていたわ



けれど人を殺してしまったことに変わりはないから彼は『羽無』になってしまう



『羽無』は楽園に行くことができない



これは絶対のルールよ



けれどこういう理由で『羽無』になる人だっているの



悪人でも何でもない彼を捨てて行く楽園なんか全然楽園に思えなかった



彼と一緒に居たかった



あなたはこれを『悪』だと言いますか?











またこの人も別の理由で反逆者になっていた



『悪』ってなんだろう



『羽無』も『反逆者』も『悪』のはずだった



『世界』に逆らうやつも『人を殺した』人も『悪』だ



でも彼女は?



彼は?



さっきの親は?



子どもは?



今までに見たこの村の住民は?



『悪』?



私にはそれの答えが見つけられなかった




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