第11話【今そこにある危機】

 救世主の船員たちが案内されたのは、城内にある大広間だった。

 天井は高く、所々がガラス張りで落ちかかった陽の光が広場に差し込んでくる。祭壇らしきものもあり、どこか教会を彷彿とさせた。

 案内人の執事らしき初老の男が、頭を下げて姿を消す。

 桃也たちは船員たちの後ろの方に立っている。長椅子が並んでいるが、誰も座る者はいない。王様の登場に皆かしこまっているのだろうか――。そんなことを考えながら座るのを我慢する桃也と、おかまいなしに腰を下ろしくつろいでいるマキナ。

 

 やがて初老の執事が戻ってくる。

 続いて現れたのは、いかにも王様といった風体の口髭を生やした男。二人の兵士を両脇に連れ、祭壇の前に立つと威厳たっぷりにマントを翻す。


「救世主諸君、待たせてすまない」

 王様は穏やかな声で言った。

「ヴェスパリア王国へようこそ。私が王のジャグラスだ」


 ディバインに倣い船員たちは皆頭を下げる。王だとというのに傅いたりしないのかと桃也は不思議に思ったが、救世主にはそれなりの立場というものがあるのかもしれない。


「さっそく本題に入らせてもらうが、我が国は今未曾有の危機に瀕している。強大なマナを有した異教徒たちによって我が国——いや、世界が滅ぼされんとしているのだ」

 王は神妙な面持ちを崩すことなく続ける。

「君たち救世主諸君には、ぜひ奴らを殲滅してもらいたい。どんなやり方でも構わない。必要な兵力、物資ははいくらでも用意しよう。武運を祈る」


 救世主たちに緊張が走るのが桃也にも分かった。だが、ディバインやガーロイは百戦錬磨だからか余裕の表情である。そして、ルーキーであるはずのマキナも同じ。

 

「すまない。いきなり発破をかけて悪かった」

 その他大勢のルーキーたちの緊張を察してか、王がフッと短く息を吐いて笑みを湛える。

「長旅はさぞ疲れたであろう。せめて今夜くらいは羽根を休めてくれ。我々が敬意をもって、諸君らをおもてなししよう」


 その言葉に安堵の表情を浮かべるルーキーたち。誰よりも肩の荷を下ろしたのはキッドである。


「異教徒たちに関する詳しい情報は、ディナーの時にでもするとしよう。それでは、私はこれで失礼する」


 兵士を連れて王が去っていく。

 初老の執事がバトンを受け取って言う。


「大浴場の準備まで今しばらくございます。それまでは部屋で休むなり王都を散策するなりご自由にお過ごしくださいませ」


 緊張の糸が解け、ルーキーたちが雑談を交わし始める。 

 一礼して去っていく執事を桃也が見送っていると、柱の陰から誰かが覗いているのが見えた。


「?」


 背の低い、ドレスらしき服を着た女の子——。

 その姿がはっきりと捉えられる前に、彼女はサッと柱に隠れてしまう。


(今、目があったよな……?)


 だが、彼女の全身が隠れることはなかった。柱から見えているのは、たわわに膨らんだ双丘――。


 そう、おっぱいである。


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