第28話 風魔法使い達

 俺は元気になったエクスも連れて、住民の拠点に馬車で向かう。

 住民の拠点に着くと、サルとキリガクレが中央塔にある牢に風魔法使い達を幽閉している告げる。エクスの事で忘れていた⁉

 中央塔の牢の中に黒色のフード付きマントを頭からスッポリと被り、右肩には俺の撃った石弓の矢が刺さったままの風魔法使い達が肩を押さえている。矢を引き抜こうとすると、矢尻の返しで周りの筋肉組織や血管ごと引きちぎられるうえ、とても痛がるのでそのままにしているのだ。

 俺は、矢を引き抜くと矢尻の返しでもっと怪我が酷くなるので、矢を押し込んで抜き取る。周りで見ていたサル達が青い顔をしている

 フード付きマントを取ると、金色の髪をしてアンナとよく似た顔をした女性と、同様な髪をした2人の女性が現れた。

 彼女達は貫頭衣にサンダルを履き、背には二対の羽が生えていたが、途中から無残に折れており、首には隷属の首輪が巻かれている。アンナは

「義姉さん⁉アマハ義姉さんなの?」

アンナとよく似た女性が、怯えたような顔でアンナを見る。俺は肩の傷の手当てをする。3人の治療を終えて尋問をしようとすると、隷属の首輪が禍々しく光る。3人が悶え苦しみ始める、貫頭衣で暴れられても・・・。

 3人を拘束したまま世界樹のもとへ向かう、世界樹の前でまずアンナの義姉を見る、彼女を囲んで俺とエンマ様とシオリ、アンナの4人で隷属の首輪を解除することにした。

 ところが、世界樹様と桃の木の精霊の西王母様、リンゴの木の精霊アトランティ様が現れて、この場で解除をするのを止めるように言われる。

 理由は、彼女達の契約書が無く、契約者でもないからだ。もしこのまま解除しようとすると死んでしまうらしい。

 世界樹様達は巫女をやっている嫦娥と姮娥、それとエクスも呼んで、世界樹のむろの中に全員で入り、解除を試みる。しかし、世界樹様達3神ではまだ難しい。後3神、桜と梅と榊の3神を連れて来て欲しいと言われる。

 桜と梅は北の大地、双斧将軍のアックスの故郷にある、榊は南の大地、戦斧女将軍アクシャの故郷にある。2人を連れてその大地へいけ、連れて行くのは双斧将軍のアックスと戦斧女将軍アクシャの間にできた2人の子供とエクスだけだ。

 特に、北の大地にある北の巨人王国に行くのは俺とエクスのみだ。俺は2メートル近い大男だが、巨人族の中では小さい部類でいないわけではない。普通の平均身長150センチ程の人族が行くと奴隷として捕まる可能性がある。無駄な争いをしたくない。エクスは亜人で巨人族の集落に普通に暮らしているから大丈夫だそうだ。

 では、俺一人で天馬に乗って北の巨人王国に行ったとしても、桜も梅も榊の精霊達、なかでも梅の木の精霊は、桃の木の精霊西王母様と同じように、桃源郷のような結界を作り出てこないので、連れてこれないでしょうと言われた。

 この天使族の3人は私のむろの中で預かっておく、むろの中では所有者の命令が届かないので苦しまずにすむようだ。

 天使族3人を除く俺達は元の場所に戻る、面白いことに世界樹様のむろの中に入る直前にいた所に戻るのだ、エクスが社務所の中から出て走ってくる。

 俺とエクスはまずアックスとアクシャを呼びに行く。アックスとアクシャに事情を話すと二人は了解してくれた。

 アックスとアクシャは、彼ら巨人族も絶滅危惧種であることから、アックスの故郷である北の大地にある北の巨人王国に行き親族の中で希望者を募り、アクシャの故郷である南の大地にある南の巨人王国に連れて行って欲しいとのことだ。

 アックスとアクシャに巨人族の土産に何がいいかを尋ねると、俺の打った斧や戦斧を多数欲しいと言われる。

 ドワーフ親方達が多量の砂鉄を集め、たたら製鉄で玉鋼が大量に出来ているのでドワーフ親方達と斧と戦斧10本づつ計20本を打つて土産の準備をした。

 俺とエクスが天馬の仔馬の中でも優秀な馬に馬具を着け、騎乗の人となる。アックスとアクシャの双子の男の子アポロンとアリュートスはまだ2歳児なのに、エクス程の身長と体重なので馬に揺り籠付の馬車を引かせる。俺達の乗る馬や土産と食料、着替えを載せた荷車を引く馬等10頭、双子の乳用に牛2頭を連れて向かう。

 アックスとアクシャは大きすぎて当然、天馬の仔馬でいくら優秀な馬でも乗れないので、麻のシャツとズボン、革の編み上げの靴を履いて手には太い樫の杖をついた姿で出発する。

 アックスとアクシャは、昔履いていたサンダルだと足の指先を痛めるので、編み上げ靴は足の指先も痛めず調子が良いと10足ほど土産に持って行く。他には染色技術が発達したので彩鮮やかな麻や絹の布10反づつ、友好のため清酒も持って行く事にした。

 帝国城からクリフォード領を経てセバスチャン領までは石畳の直線道路が続き、所々に水車小屋が建ち、田園地帯が続く、途中の村々の領民が増え、領民の顔も明るく子供達も元気だ。最近では学校の全寮制を廃止し、各街や村に学校を設け、朝食と昼食を出すようにした。

 セバスチャン領から出ると極端に道が悪くなる。森林地帯から草原、砂漠地帯へと変わる。先頭をアックスとアクシャが歩く、流石は巨人族だ、歩くだけで道が出来ていく、俺やエクスが道を魔法で作る必要が無いほどだ。その後ろをエクスの騎乗する馬と双子を載せた馬車や馬達が続く、俺は最後尾を進む。

 砂漠地帯は砂丘や、岩山が混在し背の低いサボテンが所々生えている。全体的に赤い大地が続く、前世のオマーン国にあるサラーラの乳香の木のような木も所々で生えている。

 遠くにオアシスが見える。オアシスの周りは草原とヤシの木が何本も生えている。オアシスに着くと、アックスとアクシャが双子と一緒に水浴びをする。俺もエクスと水浴びをした。

 俺は、ヤシの木に登り、ヤシの実を落とす。アックスがヤシの実を割ってジュースを双子に飲ます。どんどん落としアックスがヤシの実を割ってアクシャやエクスに渡す。ヤシの実が無くなったので隣の木に飛び移る。ヤシの実をその木も落とし終わり、落としたヤシの実を荷車に放り込む。

 今日は、このオアシスでキャンプする。荷車の間にテントを張ってゆっくりと休むつもりがアックスとアクシャの様子が変だ、いやエクスの様子もおかしい。

 エクスの口からヤシの甘い香りが漂ってくる。俺はエクスの飲んだヤシの実のジュースを舌に落としてみる、媚薬だ媚薬効果でおかしくなったようだ。エクスが体に絡みついてくる。俺も相手にしてやる。フット思い出した。双子の兄弟は?エクスが抱きついて離れないので、抱いたまま立ち上がる。

 双子が何かを追いかけている。湖に向かってハイハイで追いかけている。俺はエクスに軽くキスして降ろし愛刀を手に取り双子に向かって走る。それは、大型のワニだ、双子の一人がワニの尻尾を掴む、捕まれたワニは赤ん坊を食べようと大きな口を開けて身を躍らせる、愛刀を抜こうと構える。赤ん坊が手を上下に振るとワニの体が地面に叩きつけられる。ワニは今度は必至で逃げようとする。今のが面白かったのかキャキャ笑いながらワニを地面に打ち付ける。

 湖の中から、もっと大きいワニがもの凄い勢いで口を開けて出てくる、今度こそ危ないと思い刀の柄に手をかける。双子のもう1人がワニの横顔を平手で軽く叩く「ビタン」

という音と共にワニの顔が変な方向に向く。その子もワニの尻尾を持って体を地面に叩きつけて二人でキャキャ笑い合っている。

 アックスとアクシャが物音を聞きつけて出てくる、ワニを玩具にしている子供を呆れて見ていた。

 翌朝エクスは真っ赤な顔をして起きてきた。アックスとアクシャはすっきりした顔をしていた。

 オアシスを過ぎて山を越えると、谷間に城が見えるアックスの故郷の北の巨人王国城だ。セバスチャン領からここまで馬で1ヶ月ほどかかった。

 雑学だが人は1日約30キロ、馬は1日約80キロだから約2400キロで、人が歩けば80日かかることになる。閑話休題。

 北の巨人王国領に入り衣服を整える。アックスは革の鎧に鉄板の肩当から青色マントを取り付け、太い革製ベルトに何本かの棒手裏剣を飾りのように差し、その両側の腰に斧を下げ、刃渡り3メートルはある両刃の剣を右肩から柄を出し左腰に鞘尻が出るように背負っている。頭には鉄板の入った青色の鉢巻きを巻き、腕には鉄板の入った小手をつけ、足は編み上げのぶ厚い鉄板の入ったブーツを履く。

 アクシャはアックスとほぼ同じいでたちで赤色のマントで、腕には光り輝いた戦斧を持ち、左肩から両刃の剣を背負い、頭には赤色の鉢巻きを巻いている。

 俺も同じようないでたちで、マントの色は黒色で、肩から棒手裏剣の刺さった革製のベルトをかけ、腰に愛刀を差し、右肩からは刃渡り120センチの日本刀を差す。

 俺の横でエクスは当初、貫頭衣等着たくないと言っていたが、深紅の貫頭衣を着て尻尾を出した亜人の姿になっている。腰には太い深紅のベルトに左腰に刃渡り65センチの日本刀を差している。金髪の髪を深紅のリボンでまとめ、足元は革製のサンダルを履いている。

 北の巨人王国城の城下町にたどり着く、巨人族が闊歩している。その中でもアックスとアクシャは頭一つ高いくらいだ。アクシャの赤色のマントや俺の横を歩くエクスの深紅の貫頭衣が非常に目立っていた。馬車の左右の窓から双子が顔をのぞかせて興味深げに町の様子を見ている。

 また、俺達が乗る馬具を着けた馬や、荷車を引く馬10頭や牛2頭を俺達の周りに群がった巨人族は物珍しそうに見ている。

 北の巨人王国城の前でアックスが立つ、俺とエクスは馬から降り、アクシャは双子を両腕に抱え、大きな戦斧を俺に渡す。城の大きな城門がガラガラと上がっていく。城門の中にアックスとよく似た身長と顔をした父親と頭一つ小柄な母親、彼の妹や弟2人が立っていた。

 父親はこの地の王で、腕に大きな斧を持つ彼は

「後にいるのが、お前が臣下の礼を取った世界樹帝国の皇帝か?我と戦え!」

アックスは、俺を見て「戦ってくれ。」と言いながら、俺の持つアクシャの戦斧を受け取る。

 俺は背に背負った日本刀を抜き出す。父親は

「そんな、玩具で俺の斧が受けれるか!」

と言って俺の頭に振り下ろす。俺の体が斧で真っ二つになる。いや、俺は一歩後退して俺の残像を斧が切り裂き、その勢いで地面に突き刺さる、俺は斧の柄に右足で固定し日本刀で柄を切る。柄が切られた勢いで俺の方に父親の体が泳ぐ、父親の首を左腕で固定し、右手の日本刀を背の鞘に戻す。すかさず、左手で襟首を掴みなおし、右手で腹を押すようにして力業で後方へ投げ飛ばす。

 どさりと父王が腰から落ちる。父王は腰をさすりながら

「アックスの父親でアナトスだ、無礼な真似をした。」

と言って、俺に右手を差し出した。俺は父王に右手を差し出して起こす。

 その日は歓迎の宴会が行われた、俺の持ってきた斧や戦斧は特に好評で武骨で重いだけの斧や戦斧と違い繊細だが力強く、北の巨人王国の斧と俺の斧を打ち合わせると刃こぼれもしないで北の巨人王国の斧に食い込んだ。

 また、土産の清酒を5樽ほど持って来ているので、これも土産に用意した少し大きめのグラスに注いだ、これでも巨人族の手には御猪口程度の大きさにしかならなかった。北の巨人王国には濁酒しかなかったので、この清酒も気に入られたようだ。

 女性達には色鮮やかな絹や麻が気に入り、アクシャのマントの赤色やエクスの貫頭衣の紅色の違いに驚いている。

 中々和気あいあいと宴会が進んでいったが、父王のアナトスがアックスの双子の片割れを寄こせと言ってごね始めた。何でも

「アックスお前は、長男で俺の跡取りで、次期北の巨人王国の王となるはずだった。それが家から飛び出した。今お前が俺の孫、それも双子の男の子を連れて来た。そのうちの一人を俺の後継者、次期北の巨人王国の王にするのだ。」

と言っているのだ。前途多難だね⁉ 


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