第26話 セバスチャン領の跡始末と骸骨再び

 グランドール辺境伯爵領から帝国城に向かって石畳の直線道路を作ったので10日程で世界樹のリンゴの木までついた。

 この旅で一番大変だったのが、アックスとアクシャだ、滝に出会うたびに子海竜2頭を共同して何度も持ち上げた。巨人族も絶滅危惧種だそうだ。同族ではあまり出会わないうえ、お互い美男美女だ。旅が終わった頃、俺のもとで二人一緒に働きたいと頼まれた。

 一応二人とも俺に臣下の礼をとった部下だが、クリフォード伯爵にもグランドール辺境伯爵も了承してくれた。

 湖の畔にある世界樹のリンゴの木のもとまで来た。

 桃の木の精霊の西王母様がリンゴの木の精霊アトランティ様を呼び出す。

 アトランティ様は、銀髪に金の冠を被り、白いドレスに金のベルトを締め、手にリンゴの杖を持った、ギリシャ神話に出てくるような少し頬が赤い美少女だ。

 アトランティ様も最近では俺達が来なくなって寂しくなったので、世界樹の側に行きたいと思っていたようだ。アトランティ様も世界樹のリンゴの木を枝にして、代わりに世界樹の枝を埋めるとたちまちリンゴの木となった。 

 湖竜を呼び出しまず預かってきた子海竜の兄妹を湖竜に渡す。湖竜に対岸に渡らせてもらう。

 世界樹教の社に向かう、西王母様とアトランティ様、俺達が社に入るとセリナ、エルフ族の巫女が社の中で座って待っている。

 世界樹に向かって西王母様とアトランティ様、嫦娥と姮娥の双子が近寄り世界樹に手を添える。世界樹の中から世界樹の女神様が光り輝きながら降臨する。すると西王母様の持つ桃の木が光り輝き社の右側に、アトランティ様の持つリンゴも光り輝きながら社の左側に大樹となった。世界樹の女神様が西王母様に

『西王母よ西王母の分身である桃の木により呪われた地を浄化したまえ。』

と告げる。その時、世界樹の女神様がセバスチャン領にエルフ族の巫女が再度新しい世界樹の枝を持って先行していたが、その世界樹の枝を通じて反乱の連絡があったと告げる、その内容は

『セバスチャン領の領主一族が呪われた地の封印を破り、領主の館に入った。帝国から送った食糧も領主の館に運び込まれた。領主の補佐をしていた、元書記官の息子コウディとユリアナの姉弟と、正副の税徴収官も捕まり地下牢に入れられたらしい。』

との事であった。そこまで告げると世界樹の女神様がリンゴの木の精霊アトランティ様を連れて世界樹に入っていった。

 西王母様は桃の木から枝を手に取ると、呪われた地に向かうと告げる。

 セバスチャン領反乱の鎮圧、今回は強襲を主体としたい。

 俺は転移の出来るエクスと転移でセバスチャン領に行くことを告げると、西王母様と嫦娥と姮娥も転移が出来るので一緒に行くという。

 他に5人連れていけると言うので、サルとオオザル兄弟、キリガクレとキリ兄妹とクレナイを連れて行く事にする。全員で手を繋ぎ、セバスチャン領の世界樹の枝のもとに飛ぶ、エルフ族の巫女は世界樹の枝を抱えて領主の館近くに座っていた。

 エルフ族の巫女は西王母様を見ると額ずき、彼女は

「3日後、地下牢に囚われている元書記官の息子コウディとユリアナの姉弟と、正副の税徴収官を公開処刑する。」

と告げる。俺とエクス、流石に西王母と嫦娥と姮娥も転移は魔素を使い切っていたため、領主の館近くの空き家に入り一晩休む。翌朝、セバスチャン領主の館に強襲を掛けることにする。

 その間にサルとキリガクレ、クレナイが先行しセバスチャン領主の館にこもる人員を確認、門扉等の解錠の準備をする。

 翌朝魔素が回復した俺とエクスはオオザルとキリと共に、門扉を解錠された領主の館に潜入、先行するサル達と共同して館内にいる反乱に加担した者を一人一人無力化していく。

 館内には地下牢にいる4名とセバスチャン領主家族を含めて45名、無力化した者を地下牢に放り込み、地下牢にいた元書記官の息子コウディのほか3名を救出し、外で待つ西王母様のもとにキリが案内する。

 最後に領主一族を捕縛する。地下牢に入れていた者も含めて41名を館から連れ出し、領主の館の外の木に数珠つなぎで縛り付ける。

 領民達を呼び集め、帝国が送った食糧を館から持ち出させ、元書記官の息子コウディのほか3名で分配させる。それを見ていた領主の妻と次男は

「領民など飢えさせればよい。」

等とまだ世迷言を言っているので、張り倒す。

 俺は、食糧の分配が終わり集まっている領民に領主の館を破棄し、跡地は墓地公園にすると告げる。

 領主の一家を含む41名に領主の館を破棄させようとすると、西王母様が俺に

「館内から、邪気を感じる。館内のものを出してはならぬ。そのままエクスと一緒に火を放ちなさい。嫦娥と姮娥、エルフ族の巫女よ、世界樹の枝や桃の木の枝、リンゴの木の枝を持って館を四方から囲みなさい。忍者衆よ九字護身法が出来るであろうから館を囲み九字を切れ。」

と告げる。それを聞いて嫦娥と姮娥、エルフ族の巫女が領主の館を四方で囲む。

 サル達が九字護身法の「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」と唱えながら両手で印を結びながら館を取り囲む。

 俺は領主の館の窓めがけて火の雨を注ぐ、エクスは火魔法と爆裂魔法を組み合わせて館を火の海に沈めていく。西王母様が

「何やら邪悪なものが出てくるぞ気を付けよ。」

と言ったその時、火の海から黒く大きなムカデがギチギチと言いながらはい出てくる。それを見て領民達は逃げ散った。西王母様が俺に

「こ奴を細切れにしたうえ、跡も残さず燃やし尽くせ。」

と告げる。俺は火の海からはい出てくる大きなムカデの頭を切り飛ばし、細切れにしながら火の海に沈ませる。頭部を切られたムカデの痕から頭部が再生してくる。それを俺は切り飛ばし細切れにし、火の海に沈める何度か繰り返すうちに、ムカデの尻尾が見えて、尻尾が攻撃してくるので尻尾も切り飛ばし火の海に沈める。

 その時、縛られていた領主の妻が、どうやって抜け出したかは分からないが

「わが分身に何をする。」

と言ってムカデに向かって走っていく。

 ムカデに領主の妻が食われると思ったが、領主の妻がムカデと融合してムカデ人間となっていく、最後のあがきでムカデ人間となった領主の妻が俺に向かって突進してくる。そいつもたやすく切り飛ばして細切れにし火の海に沈め、火の雨を降らせる。

 すると、領主の妻の隣にいた次男がムカデ男に変身を始める。そいつの首も切り飛ばし細切れにして火の海に沈める。

 轟音と共に領主の館が火の海に沈んでいく。領主の館の跡には大きな穴があく、館の火が雲を呼び、雨が降り始める。四方に散っていた嫦娥と姮娥、エルフ族の巫女が穴の周りに枝を土の上に置くと桃の木やリンゴの木となって生え始める、西王母様のもとに嫦娥と姮娥、エルフ族の巫女が集まり西王母様の後ろに跪く、西王母様が世界樹の枝を置くと社が出来上がり、領主の館の跡の穴が水を満々と貯えた青々とした湖となる。

 隠れて見ていた領民達が集まり俺達や社に対して拝み始めた。

 今回の件について、内乱罪や外患罪は当然死刑である。しかしながら...⁉

首謀者は領主の妻とその次男とみるべきであり、セバスチャン領主と長男その他の者は死刑にすべきか?西王母様に任せるか?俺は西王母様を見ると、仕方がないというように体を輝かせて、社の上の空間に立つ。

『世界樹帝国に反逆せし領主と、その他の者よ。今回の件に関してはムカデ人間の姦計によるものである。今後決してこのような事がないようにし、世界樹帝国に忠誠を誓え!それが出来ない者は、ムカデ人間と同様に火に包まれて亡くなるであろう!』

と言って、嫦娥と姮娥を従えて、世界樹教の本拠の社に飛んでいく。

 領民達はそれを見て顔を青ざめさせて社を拝むのだった。

 それから時が過ぎ俺は21歳になり、子供達も5歳になり全員学校に入学した。

 俺はヘラクレスタイプで身長も190センチの大男で体重は90キロ程だ。

 帝国といっても拠点とクリフォード領とセバスチャン領、グランドール辺境伯爵領だけだが、その充実に努めた。

 内政的にはまず法律の制定を行う。

 憲法の制定、識字率の異常に低い現世において、聖徳太子の憲法17条では前世の人でも難しい、前世の平和憲法では現世の弱肉強食の世界ではとても無理だ。難しい内容で、あまり多くを記しても分からないと思う。

 国教を世界樹教と定めること。富国強兵を主体と考えた中央集権国家の設立だ。爵位の制定。納税の義務(4公6民制の制定)。軍の制度、兵役義務(屯田兵制度の制定)。教育を受ける権利。度量制度の制定。貨幣制度の制定等だ。

 その他法律関係は、刑法の制定、刑訴法の制定、少年法の制定、民法の制定、戸籍法(住民基本台帳の制定)等だ。

 具体的には、世界樹教は以前からのとおり、セリナが世界樹教の教祖となり、クーナ叔母様が巫女長、エルフ族の娘達や希望者が巫女となった。

 軍制(司法⦅警察を含む⦆・軍隊)では、大総統を俺がして、副総統にレベッカの父親のレオナルド、グランドール辺境伯爵の二人にした。

 学校を卒業した11歳から15歳までは兵役の義務の一端として近衛に入隊させる。学校の成績優秀者、または特殊な能力を有して者等は大学に通いながら近衛に入隊させる。

 また特に屯田兵制度を推進している。巨人族のアックスとアクシャは結婚して1戸建ての家を与えて田を耕してもらっている。開墾用の牛や犂、自動田植え装置や自動稲刈り装置も貸し出すようにしている。

 なお、二人の間には双子の男の子が生まれて今では2歳児だ。

 巨人族の2人を見て、関心を示した人が集まり屯田兵制度が進んでいる。

 教育を受ける権利としては、学校兼大学の校長をエンマ様、同副校長をシオリとした、二人とも実際は一人で?前世では医学部に主席で入学した才媛だ。エンマ様の健康状態が心配だ風土病で余命わずかだったはずだが・・・?

 学校制度は子供が産まれると乳児院に入れるか自分で育てるかを選び、5歳児から10歳までは全員が学校に入学し、学費、食費等は全て無料とした。

 学校は全寮制で3食、おやつ付きにした。全寮制はこの時代では子供は労働力として酷使され10歳まであまり育たないこと、10歳で一応成人とみなすからだ。全寮制もある程度教育の重要性が帝国民に理解できるようになったら解除するつもりだ。

 学校の上は大学として、専門的な分野だけでなく、10歳以上で年齢に上限は設けず、制度に漏れた文盲の人で勉学をしたい人、専門的知識を深めたい人等にも門を広げた。就学期間は一応5年とした。

 国会議事堂(立法、行政)の大総統を俺がして、副総統にクリフォード領主のクリフォード伯爵、ダイスケの二人にし、庶務をダイスケの妹スミ、補助に俺の嫁の弟グループ6人、亜人のアンダがあたった。

 次に、すべての事業を国営化することにして国内の充実に努めた。

 天才児グループと弟グループが共同で研究していた蒸気機関が成功し、住居の拠点から国会議事堂、馬牛の拠点を経てクリフォード領、セバスチャン領、湖を挟むが世界樹のリンゴの木からグランドール辺境伯爵領へと蒸気機関車が走ることになった。

 国営鉄道が開通された。歩いて1ヶ月以上かかっていたのが1日で目的地に着く、人の移動、物流が活発になった。

 燃料には以前放棄した拠点の近くにある露天掘り出来る石炭を使った。

 ガラス工房も発展し、顕微鏡や天体望遠鏡、望遠鏡等も作成し科学の発展に貢献している。国営天文台が設置される。

 ガラスで作った温室もでき、温室栽培も発展した。寒がりな天馬が温泉付きのガラス張りの温室の運動場が気に入り、天馬族の王も遊びに来た。

 動植物や鉱物の図鑑が作成される。帝国図書館が設置された。

 姥捨ての風習で捨てられ老人達に地方伝承の昔話を集めて書籍化し、絵本を作成た。

 世界樹教の社の反対側に美術館を建て、社務所の反対側には音楽堂も建てた。

 染色技術や裁縫技術が発展し、ファッションショーまで行われ、ファッション雑誌等もできた。

 俺もエンマ様とシオリも特に前世の記憶を開示しているわけではないが、天才児グループ等が武器を凄い勢いで開発している。

 他の領や魔王城からも飢えた難民の流入が多い。その隙間を狙ったように事件が起きた。

 身分を偽りセバスチャン領に住民となったオサダの息子ケンが学校に侵入して子供を人質に取ったのだ。その人質の子から、ケンは俺達の子供が5歳児になり入学したのを知って侵入し殺害するつもりだったらしいと聞いた。

 侵入したのは昼食の時間で全員が食堂に集まっるはずだったが、亜人の女の子が忘れ物をした等と言って5歳児の教室に1人で戻ってケンと遭遇し捕まったのだ。

 俺は、学校の周りを近衛で固める、子供達を寮に戻し出入口を近衛で封鎖する。サル達忍者衆を招集する。

 しばらくすると天才児グループのカイが4人ほどの兵を連れてくる。

 銃、それもスコープ付のライフル銃を持ってきた。蒸気爆発からヒントを得て、爆弾や大砲、銃器を作成していたようだ。これを使いたいという。

 やらせてみるか?配置だけさせてみるか?実戦ではまだ使用されていないものだ安全性は?等と熟考の末、許可を与えた。4人がそれぞれ配置に着く失敗したら突入できるようにサル達も配置に着く、双眼鏡で状況を確認する。俺はあげた手を振り下ろす。

 「タン」「タン」と乾いた発射音が4発分響く、教室の窓ガラスが4枚砕ける。サル達が教室内に飛び込む、すぐに亜人の女の子を抱えてサル達が慌てて飛び出してくる。その後を追うように轟音と共に教室の窓から火が吹き出す。

 俺も体に魔素を体に纏わりつかせて、現場に向かう。火の吹き出す教室の窓に向かって水魔法で雨を降らせ、雹を降らせて室内の温度も急激に下げる。窓枠に飛び乗り天井の火も指先から水を出して消していく。サルが俺の横に立ち、

「女の子を助けようとした時ケンの顔がずれて骸骨が見えた。それで慌てて逃げ出した。」

と説明した。骸骨の陰が忍び寄る背筋に冷たいものが流れる。

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