第24話 ベビーラッシュ セバスチャン領

 俺はクリフォード領主の街近郊で湖の畔、風光明媚な場所に世界樹教のクリフォード領分社を作ることにする。

 世界樹教の布教のために、クリフォード領民に分社建築のお触れを出す。

 その日は、クリフォード伯爵の領主一族、エンマ様と俺の妻、ドワーフ親方、レベッカの父親等が来賓客として座る。

 クーナ叔母様が結婚式の時に着た白い天照大神のような衣装を着て、大麻(おおぬさ)を立て、世界樹の枝を捧げ持ったエルフ族の巫女と鈴を手に持ったエルフ族の巫女達を連れてくる。

 最初に、クーナ叔母様が大麻をふるうなか、俺と来賓客を代表してクリフォード伯爵、エンマ様が鍬入れの儀式を行う。

 次に、クーナ叔母様が世界樹の枝を受け取り、捧げ持って拝礼後、鍬を入れた場所にそっと刺す。すると、世界樹の枝が神々しく光り輝きながら大きな祠が出来上がる。祠の中から扉が少しづつ開き、それに合わせて光があふれだしていく。

 祠の中から世界樹の女神様が光り輝きながら降臨する。

『この世界を統べるをのこが現れた。皆このをのこに従えば、この世界の統一と永久の繁栄を、栄耀栄華を約束しようぞ!』

と女神様の思念が頭の中に聞こえる。エルフ族の巫女が鈴を鳴らしながら踊る。

 女神様が祠の中に戻っていく。

 皆感激の涙で顔を濡らし、祠の前で額ずき、その後、皆俺に臣下の礼をとった。

 俺は16歳になった。世界樹教を立ち上げた日から、妻たちの産み月である十月十日を迎える。

 俺の6人の妻たちが産気づき、同日同時間に子供を産んだ。

 その原因が、カイとソウジの天才児グループと傷害問題を起こした弟グループ6人が共同で蒸気機関を考え、火魔法が使えるエクスの爆裂娘が思い切り温度を上げて水蒸気爆発を起こしたのだ。

 9人はエクスが咄嗟に土魔法の壁を作ったので怪我は無かったが、その音に驚いたのか俺の6人の妻たち産気づき、同日同時間に子供を産んだのだ。

 シオリの子供以外は全て女の子だった。シオリの男の子をタロウ(俺の前世の名前をどうしても付けたいと名付けた。)、アンナの子をアフロディーテ、セリナの子をセシール、レベッカの子をニーズ、アンドレの子をラシール、クリスティの子をクリスティナと名づけた。

 前世で俺は結婚どころか栞とキスもしていないのに、6人の子持ちか。現世は、織田信長ではないが『人生50年~』なので、俺ぐらいの年で子供を持つのはざらだそうだ。

 俺はとりあえず、爆発現場に行くと9人とも、みんなうなだれていた。

 失敗は成功の母、まずは、怪我がないか、この実験の目的を尋ねる。

「カイとソウジが沸騰している薬缶の蓋が動くのを見て、蒸気機関が出来ないか考えた。水蒸気がどれだけの力があるのかを鍋に水を入れ、ドワーフ親方に頼んで密封して火にかけた。エクスにお願いして火力上げてみた。」

俺は、ドワーフ親方が噛んでいるのか!最初から怒るのを止めておいて良かった、皆の頭を撫でながら

「よくやった!後は爆発力の検証をすること。検証の内容を論文にすること。今後は危なそうな今回のような実験をする時は、俺かエンマ様、クーナ叔母様にも連絡するように。」

皆ホッとして怒られずに誉められてやる気を出していた。誉める子は育つ!

 世界樹の右横にある社務所の隣で温泉旅館の反対側に、俺達の子供の為に乳児院と幼稚園を建てる温泉施設が使えるからだ。基本的に乳児院は乳児と母親が休む部屋や糸継や機織り、紙漉など出来るだけ軽作業をできる部屋も併設した。この世界働かざるもの食うべからず。弱肉強食の社会である。

 人口の流入が止まらない。仕事があるから良いが、隣の領地どころか魔王領からも流入してくる。住民基本台帳の整備が追い付かないとダイスケやスミから嬉しい悲鳴があがる。俺の嫁6人も手伝っている。またエクスも接触テレパスが使えるので、頑張って医学を勉強しながらエンマ様やシオリの補助者として健康診断を手伝っている。

 そんな中、隣の領地セバスチャンからの難民が窮状を訴えてきた。隣の領地の元書記官の息子だという若い男が俺の前に膝をつく、彼の右腕は肘から無くなっており血のにじむ包帯を巻いている。彼は名前をコウディと名乗った、彼は

「領主に父親が殺され、姉が領主の館に連れて行かれた。その際、抵抗したら俺の右腕が切られた。領主の館には変態の領主と3人の大男の息子がいる。領主はわざわざ女性の体の手足を切って弄(もてあそ)び、飽きたら息子達に下げ渡す。息子達はその女性を八つ裂きにしてしまう。

 姉は死んでしまっていると思うが、何とか姉の仇を取りたい。」

と言われる。俺は今回もエンマ様と向かう、お供はエクスとキリガクレ兄妹とクレナイ、エルフ族の巫女だ、駅場車でクリフォード領主の街につく歩いて20日程の距離が7日間程で着く、クリフォード領主の街で泊まって全員騎乗して向かう。

 無駄話だが、一日で人は30キロ、馬は80キロ程進むから、人で20日だと、600キロ、馬で7日と半日かかることになる。閑話休題。

 元書記官の息子コウディは馬に乗れないと言っていた。この世界には馬具など無く裸馬なので誰も乗った事がなかったのだ。馬に馬具をつけて騎乗したら、片腕がないのに上手に乗りこなしている。

 クリフォード領主の街から歩いて20日程でセバスチャン領主の中間の村がある。その中間にある村までは悪路であった事から馬で9日程かかった。村はほとんど無人だ、力なく村の家の前で座っている老婆に声を掛ける。彼女は

「領主の税金が酷く高くて、税金を払えない家の女や女の子を連れて行く。村から村人が逃げ出してしまう。」

と説明した。

 この領地は山や森に囲まれ。田や畑は細分されて大きな田畑が無い、作業効率が悪そうだ。水も上手く田畑に行かないようだ。

 付近にはたくさんの野生馬の群れや牛が何頭ものんびりと草を食んでいるのが見られるが、その馬や牛を有効に利用していないようだ。

 領主の館のある街に4日程かけて着く、以前のクリフォード領より貧困状態が酷い、飢餓状態で街のあちらこちらで人が倒れている。ただ街の隅で、何人かの男が集まって領主の館を見て不穏な状態だ。その手には武器を持っている。武器を持つている手に力がこもって白く見える。領主の館には明々と明かりが灯り、館の中から嬌声が聞こえてくる。

 街の隅に集まっていた男達が領主の館に向かって歩き出す。すると倒れた人達も起き上がり杖をつきゾロゾロと館に向かう、何軒かの家人が松明を持って出てくる。家にある鎌や鍬、鋤を持っている。

 松明で領主の館付近の枯れた木に火をつける。準備しているのか、その横には薪があり、その薪に火をつけて領主の館に向かって投げつける。

 館の正門を何人かで押し開ける。火のついた薪がどんどん投げられる。落ちている石を拾って投げる。

 領主の館から腐臭を放ちながら太ったブタ顔の身長2メートルを超える大男が大きな両刃の剣を振り上げて出てくる。その後ろから同じようなブタ顔の大男が1人は斧を持ち、もう1人は鎚矛(メイス)を持って出てくる。

 3人の大男は周りにいる領民達を何のためらいもなく打ち殺していく。これは不味い、俺は思わず3人の大男と領民の間に立つ。3人の大男は邪魔だとばかり俺に襲いかかる。

「ビシュッ」

という音がしてエンマ様が石弓を撃ち大男の大剣を持つ手に矢が刺さる。

 ところが、大男は痛がる様子もなく大剣を振り回す。大男の矢が刺さた所から血が出ていない!大男から腐臭がする。こいつはゾンビか?

 大男は俺を切ろうと大剣を頭上に振り上げる。俺はそれに合わせて無双直伝英信流の月影の要領で愛刀を抜き打ちで、大男の振り下ろす両小手を横に切り飛ばす。大男は切られたのが分からなかったのか、そのまま振り下ろす。目の前の俺が無傷で立っており、自分の両手が無いことに驚く、切られたところから血が一滴も出てこない、やはりゾンビか、俺は大男を真二つにする。

 後ろに斧を持った大男が振り下ろすと同じ様に殺られると思ったのか、斧を横に振りながら、俺に近づいてくる。今度は、新陰流の開抜の要領で、右足を前に大きく踏み込み、斧の軌道を見切り、そのさらに下になるよう体勢を低くして、大男の踏み込んだ足首を切り飛ばす。

 斧の大男は、つんのめるようにして首を差し出す。その首を落とす。

 今度は鎚矛を持った大男が、持っている鎚矛を投げてくる。大男の腹には何本もの鎚矛が差してある。それを次から次へと俺に向かって投げつける。こいつは阿保だな、腹の周りに差した最後の鎚矛まで投げてきた。

 大男は腹の周りの鎚矛を探す。俺は愛刀を下げて大男に近づく、大男はブヒブヒ言いながら後退する。大男の首を切り飛ばす。

 大男達は切られた体を引っ付けようと動き始めた。俺とエクスで大男達を焼いていく。

 3人の大男を焼いていると、大男達とよく似た、太った金ぴか男女が出てきた。金ぴか男は

「我は、この領地の領主セバスチャンである。いつまで騒いでおる。息子どもよ、この者達を成敗せい!」

俺は、切り飛ばして、くすぶる大男首二つを金ぴか男女に向かって投げる。金ぴか男女はその首を避ける

「おやおや、息子さんたちの首を避けるとは。」

金ぴか男女は、その首を見て、腰を抜かす、金ぴか男女からも腐臭がする。俺は金ぴか男女の両足を切り飛ばす。血が出ない!ゾンビだ

「わが名は世界樹帝国、初代皇帝カールである。お主達に代わって、この地を接収統治する。」

と宣言し、金ぴか男女の首を切り落とし、火葬にする。

 俺は、領主の館を攻撃していた領民の代表的な者がいるか呼びかける。領地の正副の税徴収官を名乗る壮年の男性二人が出てきた。

 その代表者の男性達は、

「彼らは領主の弟で、本当の領主は領主の館に幽閉されている。」

と言う、俺達は代表者を連れて領主の館に入ろうとするが、エルフ族の巫女の持つ世界樹の枝が黒く変色する。そこから下がると元に戻った。呪われた地だな。俺と代表者だけで領主の館に入ることにする。

 領主の館に入るとすぐ大広間があり、大きなテーブルの前に、生気の無い何人かの男女が椅子に鎖で繋がれて座っている。その男女の四肢が無い!ゾンビ化も始まっているようだ。

 テーブルの上には何か禍々しいものを感じる肉料理が置かれている。

 代表者が腹が減っているのかテーブルの肉を口にする。テーブルの上にはその肉が何かを表す頭が飾ってある。何とそれは恨めし気な顔をした女性の頭部だ!

「ヤメロ!それは人肉だぞ‼」

と俺は女性の頭部を指差して怒鳴る。代表者はそれを見て、肉を吐き出してえぐむ。

『オヤオヤ何という化け物領主の館だ、次は何が出てくるか?』

等と思い、大広間の人間の肉が調理されているのを見て気持ち悪がっていると、隣の調理場から頭にシェフの帽子を被り、両手に大きな肉切り包丁を持った背の異様に高いカマキリのような顔をした男が出てきた。男は残酷な巨人オーガーだ!

「オヤ、俺様の作った料理にケチをつけるのか。」

と言って、肉切り包丁を振り回しながら俺達に近づいてくる。

「オヤオヤ、よく見ると美味しそうな食材がいるな、どう料理してあげましょうかしら?」

と薄く横に割れたような口から、チョロチョロと長い舌を出して口の周りを舐めだした。

 なんだこいつ、気持ちの悪い、カマキリシェフの振り上げる腕を月影の要領で抜き打ちで切り飛ばす。やはり、血が出ないこいつもゾンビだ!

 両足も切り飛ばし、うつ伏せに倒れたところを首を切って頭を落とす。切った部分を火魔法で焼いておく。

 するとまた調理場からブクブクに太り、腐臭をプンプン臭わせてガマガエルのように目をギョロつかせた大女が出てくる。

 その手には女性の腕が握られ、反対の手にはカマキリシェフの持っていたような大きな肉切り包丁に血を滴らせていた。

「あんた料理がまだよ!この腕どうやって料理するのよ!」

と低い濁声でわめく、カマキリシェフが切られて倒れているのを見て

「何やってのよ、アンタ、アンタが料理されてどうするのよ!」

「やったのはアンタね、これでもクラエ!」

と言って、持っていた腕を俺に向かって投げつける。その後を肉切り包丁を振り上げてガマガエル女が俺に向かってピョンと飛んでくる。

 俺はそれにあわせてガマガエル女の抜き胴で切る。ガマガエル女の上体と下体が真っ二つになり、上体が床に立った状態で落ちる。ガマガエル女は何事かわめくと腕の力で宙を飛び下体に重なり元に戻すと逃げ出そうとする。俺はガマガエル女の真っ向から竹割で二つに割ると断面を火魔法で焼く。それでも、体を無理やり抱きしめて元に戻そうとする。

 俺の後ろからエクスがカマキリシェフとガマガエル女を火魔法で焼いていく。

 エクスは俺に

「代表者の人が青い顔をして出てきたので、見に来たの。そこに座っている人達も駄目ね、ゾンビ化が始まっているは。地下牢へはその調理室を降りたところにあります。どうします御主人様?」

俺は、魔素を広げる。地下牢の中に5,6人、ゾンビ化していない人がいる。

 俺とエクスは調理場に入る屍累々という状態だ、俺はエクスの目を覆って火魔法で屍を焼いていく、異臭が充満する。調理場の横の階段を下りて地下牢に行く。

 俺は階段を下りながら魔素を広げる、階段の陰に誰かいる。悟られたと思ったのかゴブリンのような小男が手斧を両手で持って振り上げて飛びかかってくる。手斧がガツンという音を立てて階段の梁に刺さる。斧にぶら下がるゴブリンの手と首を切り裂く、エクスがゴブリンの手や首、胴体を火魔法で焼く。

 地下牢に降りると俺は火魔法で丸く火の球をつくり床に転がす。小さな蜘蛛、百足等の虫達が燃えていく。エクスが

「ヘェ~!火魔法でこんな魔法も使えるんだ‼私も今度やってみよう。」

地下牢から、ゾンビ化していない人だけを助け出した。

  










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る