第23話 クリフォード領 後始末

 全員を縛り上げた所で、抜忍の女の子が、親玉ハデ男が隷属の首輪の契約書を持っている。その契約書を取り上げて、その契約書に貴方の血をかけて下さいと訴える。親玉ハデ男の懐を探ると、禍々しい気を放つ三枚の契約書が出てきた。俺は、愛刀で掌を切り、三枚の契約書にかざし、血を滴らせる。三枚の契約書から黒い煙が立ち上り1枚から出る黒い霧は抜忍の女の子の首に、もう1枚は大男の首に、もう1枚は木の人形で出来た男の中にいた爆裂魔法を使う女の子の首に纏わり付き、黒いきらめきをを上げながら消えていく。

 抜忍の女の子が、貴方がこれからの御主人様です。私は、このクリフォード領の状況を探るように、ユキムラ様に言われて潜入したのですが、骸骨の顔の男たちに敗れて隷属の首輪を着けられたのです。私の名前はクレナイと申します。御主人様。クレナイが臣下になった。

 エンマ様は倒れた大男の足首に治癒魔法をかけるが太すぎて治らない。

 俺はエンマ様に針と糸を出して血管や筋、皮膚を縫うかと言うと、いいわね、私も前世の記憶がだいぶ戻ったのよ、医者を目指していた腕を振るうか、でも、実際は貴方の方が経験が多いかもと言って二人で大男の足首を縫い傷薬を塗って、晒しを包帯代わりに巻いた。太い木を二本添え木にして足首を固定する。エンマ様が治療魔法をもう一度かけてみる。血管と神経が上手くつながったようだ。

 大男は俺とエンマ様の前に膝をつき臣下の礼をして

「是非、私を臣下にしてください。」

巨人族で美丈夫の大男、双斧将軍のアックスが臣下になった。

 サルが連れて来た爆裂魔法使いは、6歳の北欧系の顔つきをした、金髪の美少女だ。美少女は火魔法、水魔法、木魔法、土魔法、風魔法、治療魔法の全魔法が使える。木の人形の中で木魔法で人形を操り。その中から爆裂魔法を使っていた。俺のカウンターの爆裂魔法で、燃え始めた木の人形の中から出ようともがいていたところをサルに助け出されて捕まった。それで、おとなしくしていたのだ。

 最初はすねた様にしていたが、エンマ様が頭を撫でながら火傷の後の治療魔法をかけたら。エンマ様に引っ付いて離れなくなった。爆裂のエクスが臣下になった。

 サル達に親玉ハデ男以下を見ているように言って、俺とエンマ様とおまけのエクスで領主の館内を他に誰かいないかを探した。エクスはいつもはクレナイと一緒に館の塔内に軟禁されていた。隷属の首輪を着けていると、契約者どころか他の者が悪戯を仕掛けたりして肌を合わせると隷属の首輪が燃え上がり、着装者を殺してしまう。また、御主人様を殺そうとしたり、病気や怪我、寿命で死んでも同様に死んでしまう。それで誰にも会わないようにしていたらしい。

 しかし、領主の館の中には誰もいない、誰かいる気配はするのだが。魔素を広げようとすると。何か結界のようなものがあり、壁や床で止まってしまう。壁や床に色々な魔石が埋め込まれているようだ。エンマ様もこのような使い方初めてだと言って見ている。

 折角なので壁面を削り出して飾りのようすればいいのにと思いながら他の人を探した。

 謁見室でやたら広い部屋の真ん中で住人に似てやたらでかい(芸術文化が進んでいないので大きいが豪華と考えらえている。)椅子がある。エンマ様がエクスに抱き付かれたりしているので疲れてその椅子に

「あ~ぁ、疲れたわ。」

と言って座ると、椅子がガタンという音とともに沈んでいく。俺もやたらでかい椅子に飛び乗る。そのままドンドン椅子が沈んでいく。『魔法か?』と思っていると、エンマ様が

「魔道具ね、風魔法を使った付与魔法の道具よ。これは、失われた技術ね!」

と、説明する。地下5階ほど下がった所でガクンと椅子が止まる。

 俺達が椅子から降りても、椅子が上へあがることはなかった。俺とエクスが火魔法で松明に火をつける。エンマ様も火魔法を指にともす。エンマ様が俺を見て

「貴方と、この旅をしてから、火魔法が少し使えるようになったのよ。」

と言って艶然と笑って、松明に火を灯す。周りが明るくなる。地下牢になっていて、何人もの男女がやせ細って、力なく壁に寄り掛かったり、寝ている。エンマ様を見て初老の痩せた男性が

「エンマ様⁉クリフォード家の領主クリフォード伯爵で御座います。」

と声をかける。エンマ様が俺に牢の鍵を探して、と言われて牢の通路を探すが見当たらない、上にあがって探すかと思って椅子を探ると後ろに鍵が下がっている。エンマ様に声を掛けて鍵を放ろうと椅子の肘掛けに体重がかかると椅子が上がっていく、上にあがってから椅子の肘掛けを引き上げると椅子が下がっていった。

 俺達は牢屋に入っている人達を助け出して椅子を使って上にあげ、親玉ハデ男の一族やゴロツキ達を代りに牢に入れる。

 牢屋に入って全員を謁見室に集める。エンマ様は無駄にでかい椅子に腰を降ろし俺達はその後ろに立つ。領主のクリフォード伯爵以下が膝をついて臣下の礼をとる

「クリフォードで御座います。ここにいる者、エンマ様の配下になって粉骨砕身勤めます。」

「大儀である。妾と妾の子のシオリは魔王の地位を巡り争いに敗れて、養い子として育てたカールに助けられました。カールは妾の元夫で元魔王の子でないことはクリフォード其方も知っておりますね。カールは先代魔王の息子であり、世界樹様が認める、世界を統べる者である。妾の子シオリの夫である。カールは隣の地に世界樹帝国を建国途上であります。妾に対する忠誠心を、このカールに賜りますよう、お願いします。カールの世界樹帝国の発展のため助力を乞うのみです。」

と締めくくる。

 俺は世界樹教のクリフォード伯爵領分社を作るため、街近郊で湖の畔、風光明媚な場所を探しておく。後で大々的に分社の社殿建築でもするか。

 クリフォード領は領主のクリフォード伯爵にしばらくの間は任せることにして、一旦、帝国城に戻ることにする。大男の双斧将軍のアネックスがでかい松葉をついてついて来た。領主のクリフォード伯爵の長男クリフ17歳と次男クルス14歳も世界樹教と世界樹帝国を見てみたいとついて来た。

 拠点に向かい始めて三日目、アンナとシオリ、セリナが世界樹を通して思念を送ってきた。『ダイスケが切られた、至急エンマ様と戻って。』というもので、俺は、サルに

「エンマ様とすぐ、世界樹教本部に戻るサルは後を頼む。」

人を連れての転移は初めてではあるが、エンマ様を抱いて世界樹の元へ転移した。転移途中で魔素切れを起こしかける、時空の狭間で漂うのかと思った時、エンマ様にエクスが捕まっていて、

「へ~!これが転移魔法、ご主人様、魔素切れを起こしかけているのね。私の魔素を分けてあげるよ。」

といって俺に抱き付き、唇を合わせて、舌を俺の口の中にいれてきた。

 舌から魔素が流れ込む、魔素が補充されると世界樹の元へ転移した。

 いきなり現れた俺達を見て、世界樹に手を着けて、思念を送っていた、アンナ達は驚いた。それに俺はエンマ様を抱いているうえ、エンマ様の上に乗った犬に顔を舐められている俺を見てあきれていた。

 エンマ様は俺の腕から優雅に降りると、アンナ達とダイスケのいる病院に向かう。俺は顔を舐めている犬の顔を見ると、顔がエクスに代わっていく。

「私も魔素切れで!私は魔素切れをおこすと犬の姿になるの、私は亜人で犬族よ。御主人様、どこかで寝かせて?眠いの。私が10歳になったらこのお返しにお嫁さんにしてね!」

俺はエクスを抱いて世界樹に手を着ける。世界樹から隷属の首輪について情報が流れた、何とか外せそうだ。

 俺は社務所の隣の温泉旅館に連れて行って寝かす。寝かしているうちに、俺も魔素切れで倒れる。

 翌朝、アンナとシオリが温泉旅館の部屋を覗きに来る。エクスは獣人から北欧系の顔つきをした、金髪の美少女に戻っており、その美少女を布団の上からとはいえ抱いて寝ているのを見て、ふたりに頭をはたかれた。

 アンナとシオリの両方から腕をとられ、背中にエクスが貼りついた状態で世界樹教病院に入院中のダイスケを見舞う。ダイスケからの概要は

『学校で問題が起きた。俺の妻になった3人娘の弟グループ6人がドワーフ族の子供や獣人のアンダをいじめていたらしいのだ。

 今回は年度に行う最初の学校でのテストで、3人娘の弟グループ6人は名前も書か無いで提出したらしい。獣人のアンダが満点でドワーフ族の子供も成績優秀だったらしい。

 その結果3人娘に怒られたり、馬鹿にしていたドワーフ族に馬鹿にされ、意趣返しと不満の爆発で、アンダの肩が触れた等と言いがかりをつけ、無礼だと言って、レベッカの弟のレオナルドが俺が与えた日本刀で切りつけようとした。その際、側にいたダイスケがアンダをかばって切られた。』というものだ。

 それを聞いて原因の一つは俺だと反省した。

 魔王城内や城下街でも、年齢にかかわらず剣を下げていたので、学校の生徒に日本刀を与えてしまった。今後は、学校の生徒は剣道場に預けることにしよう。

 その他の原因としては、識字率の異常な低さ。貴族意識による差別。種族による差別など、差別意識によるものだ。そこで宗教を利用して差別意識を解消するか。

 問題は、命に係ることをし弟グループ6人の処罰についてだ、前世と違い現世には少年法など無い。刑法どころか憲法もない。刑法は為政者の恣意で勝手に決めれるが、これは如何なものか。法律を作るか。

 無駄話だが、刑法不遡及の原則というのがある。いわゆる後出しジャンケン禁止の原則だ。お隣の国で親日家の財産をどうしても没収したくて、後から法律を作り没収した。無体な!閑話休題。

 現世では殺生与奪の権限は貴族にある、しかし、それは国王、帝王が爵位を与えた時だ、俺は一人叙爵(じょしゃく:爵位を綬与する事)や、陞爵(しょうしゃく:爵位を上げる事)もしたこともない。

 今のところ、魔王国での刑罰は、打ち首、放逐、百叩きくらいだ。

 それに照らすと今回はアンダに対する殺人未遂、ダイスケに対しては傷害?過失傷害?どちらにしても魔王国では打ち首か、放逐それを知ってかエンマ様やクーナ叔母様、6人の妻が最初から罪一等を減じるように願ってくる。

 俺とすれば原因の一つが俺にあることだし、少年法を作って適用したい。

 この国は世界樹教の帝国だ、世界樹様に下駄を預けるか。その前にエンマ様とアンナと一緒に弟グループ6人に帝国城の謁見室で会う、予備審だな。

「エンマ様も俺も、貴公ら6人も魔王国の出身者だ、法律は魔王国の法律が下地になるそれでよいな。」

「それでは、切りつけられた者が死んでいれば、貴公らは打ち首だ、幸いなことに切りつけられた者は、命に別状は無かったとはいえ他人に重傷を負わせた。そうなれば、放逐だ。貴公らの弁明を聞こう。」

・・・しばらくして切りつけたレベッカの弟のレオナルド

「俺達は貴族の子だ!殺生与奪の権利があるはずだ。無罪だ!」

やはりな、俺は

「この国は俺の国だ、誰が誰に爵位を与えた。その前に貴族と言うならば、貴族とは何かを貴公らに問う。10日後に貴公らの弁明を聞こう。これにて予備審を閉廷する。」 

 10日後、世界樹を背に俺やエンマ様、クーナ叔母様、6人の妻達が座り、俺達と世界樹の前に弟グループ6人を引っ立てる。丁度クリフォードの長男クリフと次男クルス等が着いたこいつらにも見てもらおう。俺は弟グループ6人に

「貴公らの弁明を聞こう。」

・・・しばらくして、レオナルドが

「帝王よ、私が間違っておりました。貴族になってもいない者が、他の者を傷つけてしまいました。関係ないものに重傷を与えました。これは全て私の不明の致すところです。私以外の弟や他の4人の者は私に付き合っただけです。どうか他の者にはお慈悲お願い致します。」

・・・?俺はレオナルドに

「私の宿題である貴族とは何かの答えは。」

「私達は、貴族とは勉強しないで他の者を使役すればよいと考えておりました。勉強を怠り、試験で恥をかいたという思いだけでした。私達は姉にも手伝ってもらって、貴族とは何かについて論文を書きました。どうぞ御笑覧下さい。」

 俺は、弟グループ6人の論文を手に取り、世界樹の前の机に置く、俺やエンマ様達と世界樹に手を置く、少し皮肉そうな顔をした世界樹の女神様が神々しく光り輝きながら現れ

『妾がその方らに判決を言い渡す。その方達に3年間、学校の寄宿舎で過ごし。朝から晩まで勉学に励む事を命じる。今回は無知故のことである。自己の無知を恥じよ!』

と判決してくれた、実は女神様に妥当な線をお願いしたのだ。

 判決後数日してからエクスとアックス、クレナイの隷属の首輪を取り外す儀式を行った。

 儀式化することで世界樹教を布教しやすくなると言う事と、隷属の首輪等と言う人権を踏みにじる行為を防止することが目的だ。

 住民達が見守る中、世界樹の前でまずエクスを囲んで俺とエンマ様とシオリ、アンナの4人で隷属の首輪を解除することにした。世界樹の女神様が神々しく光り輝きながら降臨する。

 俺達4人でエクスの周りを女神様の暖かな光の輪に包まれる。俺達はエクスの隷属の首輪から神経などに絡みつく黒い蔦のようなものを1本ずつ剥がしていく、心臓と脳にも侵入している、それらを慎重に剥がして、隷属の首輪を取り外す。隷属の首輪と彼女の契約書を火魔法で焼いて灰にする。松葉杖をついたアックスも同様に隷属の首輪を取り外す。ついでに足の怪我も完治させる。最後にクレナイの隷属の首輪を外して契約書と一緒に火魔法で焼いて灰にして、女神様が世界樹に戻り儀式は終了した。








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