第21話 結婚式とレベッカの父(魔王国第二大臣)

 雪が解け始めた時に結婚式を執り行うことにした。この世界では結婚をすると宣言するだけで結婚式をする事はない、この世界では初めての結婚式を挙げるというのでエンマ様(前世で結婚式を挙げられなかったので)は張り切って花嫁衣装等をどうするか等とクーナ叔母様や女官長、女官達を交えて相談していた。

 結婚式を挙げる1週間前に、レベッカの父親で魔王国第二大臣レオナルドが落ち武者のような格好で、その妻(第二夫人だが)臣下の将軍等、男女総勢250名を引き連れて現れた。

 俺は、エンマ様やクーナ叔母様、レベッカやシオリ等とまだ建設中であるが帝国城内の謁見室で魔王国第二大臣達と謁見を執り行った。

 魔王国第二大臣は臣下の礼を取った後、

「魔王城は、二人の魔王候補、ヘンリケ王子派とヘンフリ王子派に分かれて王位を争っておりました。私はヘンフリ王子派についていたのです。エンマ様やシオリ様が出ていってから武力衝突がたびたび起こり、1ヶ月ほど前についに本格的な武力衝突が起こりました。ヘンフリ王子派内部で裏切りが相次ぎ、我々の魔法もヘンリケ王子派の風魔法に敗れ、ヘンフリ王子も打ち取られ、我々は敗走したのです。

 3ヶ月程前に神々しい光の柱が見えたこの地に、引き寄せられるようにして落ち延びてまいりました。

 確かに我々はエンマ様やシオリ様を害する派閥に加わりました。

 どうかご慈悲を持って我々を許し、我々を受け入れて下さい。」

と言って、ガックリと首を垂れた。エンマ様は

「妾もシオリも恨んではおりません。妾が養い子として育てたカールに助けられてこの地におります。

 カールは妾の元夫で前魔王の子でないことは第二大臣も知っておりますね。

 カールがこの地を世界樹帝国の拠点とすべく現在、奮闘しているところです。妾は、この地の主であるカールに従うのみです。」

エンマ様は俺に発言を譲る

「現状では直ちに魔王城への侵攻は、人的、物的においても無理です。時間がかかるかもしれませんが、魔王城は攻略するつもりです。」

と説明し始めると、第二大臣の主席将軍が俺を指さしながら立ち上がり

「ああだこうだと言って、戦争する気が無いのだろう。

 この腰抜けが!

 女ばかりに囲まれて戦うことも出来ない臆病者だ!」

 と言って剣を抜き、俺に突き付ける。その剣は鍛造刀だが、たいしたものではない。俺は魔素を体に纏って、右手で剣を横から叩くと簡単に折れた。俺はそのまま将軍の懐に入って投げ飛ばして、将軍の胸を足で踏んで押さえる。

「貴公、少し無礼ではないか。まあ貴公の剣でも分かるように弱点を突けばこのように鉄の塊でも簡単に折り飛ばすことができる。

 無駄死には極力抑えなければならない。」

と言うと将軍は俺に足で胸を押さえられているのに、

「兵の命がそんなに大事か!魔臓も持たぬ、臆病者だ!」

俺は、魔臓を隠していた。しかしこの将軍は

「やっぱり貴公は無礼者だな。少し礼儀と教養を覚えた方が良いようだ。

 しばらく寝ていろ。」

と言いながら将軍の顎を蹴って気を失わせる。

「ところで、大臣殿は如何お考えで、まあ、今回の謁見の儀はこれで終わりにしたい、今後のことにつては明日でも協議することにする。こいつをここから連れて行ってもらおう。」

と言って本日は謁見を終え、第二大臣達は郊外で野宿した。

 ところが翌日の早朝、レベッカが父親の第二大臣レオナルドを連れて面会を求めてきた。第二大臣レオナルドは青い顔をして

「将軍が私の第二夫人を連れて出て行った。将軍の部下50名程も夜陰に紛れて出て行った。将軍達は魔王城戻ったものと思われる。

 この地が女性ばかりの地で弱点も知られたと思う。すまないことをした。

 しかし、将軍と夫人が出来ていたとは。夫人にも裏切られてしまった。」

と言ってガックリとしていた。このことがあり、第二大臣レオナルドは再度臣下の礼をを取りここで、居住することを求めてきた。

 第二大臣レオナルドの配下残り200名の基本台帳の作成と、健康診断をしてカルテも作成した。今回のことで膿が出尽くしたのか、悪意を持つものはいなかった。

 住居は、住居地区や帝国城地区にある温泉旅館を利用して住んでもらった。

 そんな出来事があった後だが、俺と6人の妻たちの結婚式を世界樹教の社でとり行うことにした。

 エンマ様が前世で挙げたかった神式の結婚式をまねて、俺は紋付き羽織り袴、紋は当然世界樹教の紋を付けた。6人の妻たちは白無垢の打掛姿に、頭をすっぽりと覆った綿帽子、いわゆる角隠しを被った。俺は思わず

『シオリや三人娘の魔族の角の角隠しか...。』

と考えたらシオリに

「また、不埒な事を考えて、結婚式ですよ。」

と言って怒られて、頬をつねられた。つねった手を離すとき、頬にキスされた。

 それを見ていた皆に次々と頬にキスされた。俺の頬がキスマークで赤い花のようになった。

 クーナ叔母様が白い衣装、絵本の古事記の天照大神のような衣装を着て、神式の結婚式ふうにとり行う。三々九度を行い、クーナ叔母様が大麻(おおぬさ:榊の枝に紙垂⦅しで⦆をつけたもの)をふりながら、

「この世界の統一と永久の繁栄を、子宝に恵まれ、我ら子孫の繁栄を。」

と声を出して祈る。俺を中心に6人の妻たちが社から世界樹の前に出て額ずき、世界樹を両手で触れながら、クーナ叔母様が唱えた同じ内容の

「この世界の統一と永久の繁栄を、子宝に恵まれ、我ら子孫の繁栄を。」

と声を出して唱えると、世界樹が輝き、世界樹を中心として神々しい光の輪が広がっていく。

 警戒、警備している者以外、全員で馬車に乗って帝国城の謁見室で披露宴を行う。披露宴では、俺は肩章を付けた軍服(世界史のペリーの提督服に似せて作ったもの)を着て、妻たちは色鮮やかなドレスで着飾った。

 エンマ様もクーナ叔母様も、母親の結婚式の定番の衣装五つ紋付きの黒留袖で、エンマ様は以前贈った簪を刺し、紋も合わせて蝶の紋にした。クーナ叔母様もエンマ様とシオリが時々簪を刺しているのを見て欲しがったので世界樹の紋を入れて贈った簪を刺している。

 簪をもらっていない他の嫁達にもせがまれて現在制作中だ。

 披露宴では新たな領民になった者にも参加してもらい、酒を成人に振る舞い、子供達にはリンゴジュースを振る舞った。料理や紅白の饅頭が入った重箱を分ける。

 酒も、この世界では濁酒しか無かったが、清酒を作った。成人には冷酒の入ったガラスの2合徳利と御猪口を付けて配る。

 子供達にはジュースはガラスの大きめのコップで配った。

 饅頭も重箱すら無かったが、これも景気対策。

 後で官営の酒店や菓子店を世界樹教のガラスの土産店の隣に作った。

 6人の妻たちの白無垢姿やドレス姿を描いたり、彫刻を彫ってもらおう。日本では仏教美術が、ヨーロッパ諸国でキリスト教による宗教画や彫刻が発展した。社の中に彼女達を飾ろう。その他に美術品が増えた場合を考えて、世界樹を中心に社の反対側に美術館を作り渡り廊下でつなごう。

 彼女達のドレスなどに使われた、刺繡や彩色の技術はエンマ様やシオリが開示し指導したものだ。俺も鉛筆だけでなく、色鉛筆もアンナに作ってあげたので彩色の技術が発達している。

 短期間で約500名近くの人口がいきなり増加した。衣食住の食と住は何とかなっているが、衣が問題だ、皆逃走で衣が汚れ継あて状態になっている。着替えもほとんどない。隣の領地の領主クリフォードの街に行き衣をそろえなければ、今回の同行者はエンマ様とサルとノキザル、エルフ族の巫女がついて行く事になった。

 6人の妻は身重で子供が産まれるまで、世界樹教の社務所や隣の温泉旅館で住む事になった。エンマ様は風土病のため余命わずかであることから、好きに生きたいと、俺と旅することを希望した。

 俺とエンマ様、サルとノキザル、エルフ族の巫女も騎乗して、荷物を運ぶ馬3頭で出発した。

 まず手近なサル達と出会った村を訪ねる。田植えや畑作の時期なのに、村に行くまでの間にある田畑が踏み荒らされ開墾する村人達がいない。村に入ると村の中にも何軒かあった立派な館のような家が燃え落ちて無くなっている。他の家も扉が壊されたりしている。村人もほとんどいない、村長の家に行く、ここも焼け落ち女中が所在なげにぼんやりと座っている。女中に話を聞くと

「代替わりした領主の野郎が、いきなりこの村を襲い、村長や奥さんをものも言わずに命を奪い鍋釜や金銀全て掻っ攫っていきやがった。」

と言って、オイオイ泣きはじめた。俺は女中に幾ばくかの金を渡して、ここから見える世界樹の大木を指差して

「あの木の下に村が出来つつある。ここが住みにくければ、そこへ行って見るがよい。」

と言って次の村に向かった。次の村はもっと酷い有様で、乞食同然の姿で村人達が力なく横たわり、餓死者も埋葬されずに路上に放置されている。

 この地方の領主クリフォード領の街にたどり着いた。重い空気が街全体を覆っている。餓死者まではいないようだ。商店を訪ねても物価が異常に高い。エンマ様は久しぶりに街一番の宿に泊まりたいと言っているが、その前に街一番の商店によってみる。

 商店に入ると、最初は俺を若僧とみて生意気そうな丁稚が対応しにきていたが、丁度店に出てきたオーナーが俺を見る。オーナーの目が俺の差している愛刀に目がいき俺に

「何か、凄い拵えの刀を持っているね。一寸見せてくれないか?」

俺は愛刀(守り方)に手をかけると愛刀から

『私を売っても大丈夫。私には少し未来が見えるから。』

と思念が伝わる。俺の横でベールを被ったエンマ様から驚きの気持ちが伝わる。

 俺は腰から愛刀を拵えごと抜き取り、口に布を咥えて鞘を払い愛刀を抜きだす、柄を返して刃を自分に向けて愛刀を立ててオーナーに渡す。オーナーも俺を見て真似て、口に布を咥えて愛刀を取って、愛刀の刃を明かりに照らす。オーナーも丁稚も愛刀の出来栄えに驚いている。

 当然のことである。この技術力の低い世界ではこれほどの太刀は決して打てない。拵えも鍔の彫金や目貫の彫金、頭金や鐺の彫金の技術等も無いものである。オーナーは

「欲しい!是非この刀を売ってくれないか。売ってくれ!金ならば好きなだけ出す。物々交換でもいい。この店にある上等な絹の布1千反あるこれならどうだ。」

絹10反で金1粒だ。金100粒か等と考えているとオーナーは太刀を売り渋っていると思ったのか。

「絹の布1千反に麻の布1万反これならどうだ。」

麻10反で銀1粒だ。麻1千反で銀100粒、金1粒、麻1万反で金10粒か等と考えているとオーナーはまだ売り渋っていると思ったのか

「絹の布1千反に麻の布1万反、そこにある端切れや動物の革、最近売り出した、ここにある針と糸すべて、これを運ぶ馬10頭、街1番の宿代食事代を付ける。これ以上は無理だ。」

と言うので、俺はオーナーに愛刀の鞘を渡す。オーナーは「ホッ」としたようにその鞘を受け取った。

 街一番の宿屋にオーナーが指示をして、俺達が連れて来た馬3頭と、商店から貰った運ぶ馬10頭の13頭で、街1番の宿代に絹の布1千反に麻の布1万反、端切れや動物の革、針と糸すべてを運び込んだ。

 エンマ様には、この宿で一番大きな控室のある部屋でエルフ族の巫女とノキザルが控室に入った。絹の布1千反等で1部屋が一杯になった。俺とサルはもう1部屋に入った。

 





 

 

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