第18話 移築とエルフ族

 俺は、15歳になった。最近は朝起きると身長が急激に伸び体重も増加して、今現在は身長が175センチ程で、体重も75キロ、筋肉質でアポロンタイプというよりもヘラクレスタイプになっている。

 この世界では身長5メートル級の巨人族を除いては、人族等の平均は身長150センチ程だ、人族等の中でも俺は大男の部類であり、俺の身長はまだ伸びそうだ。

 懸案事項として馬や牛が増え、学校の運動場が馬や牛の運動場になり衛生上の問題が起きていることと、臭いがきつくなってきたことである。その問題を解決するため、現在の拠点を馬や牛の拠点として、山側に住民用の住居を移築することにした。

 山々が色付き初めて、寒気が強くなる。山から森林が続き所々で湯煙がみえる。この森林には以前倒したことのある灰色熊が生息している。平均体長は5メートル程で、以前俺が倒した体長8メートルの奴はボスで20頭ほどのグループ・リーダーだ。そのグループを5つほどをまとめるのが、これも以前俺が倒したことがある体長10メートルの大ボスだ。

 俺は住民用の住居を移築できるのに適当な場所がないか、探しながら山に向かう、今回はウルフとループスの2匹の狼を連れて行く。

 腰には愛刀を下げ、長さ30センチほどで鉄棒の先を尖らせただけの棒手裏剣を30本背負子に入れ、5本を差した帯を肩からかけている。ウルフとループスが低くうなる。何かが来る。俺は魔素を体に纏わらせていく、視覚や聴覚が上がっていく、遠くで女の子の「キャー!」という絹を引き裂くような悲鳴が聞こえる。続いて熊の「グオーッ」という大きな声が聞こえてくる。

 俺は木々の枝を足場にして飛ぶようにして声のした方向に向かう、灰色熊に追いかけられている金髪の女の子がいる。その女の子は胸に大きな布の塊を守るようにして抱えて走っている。その後ろから灰色熊が右前脚を振り上げて振り下ろす。灰色熊の爪の先が女の子の背を襲う。血しぶきが舞うのが見える。

 俺は、棒手裏剣を灰色熊めがけて投げる。女の子の血しぶきを見て焦ったのか手元が狂い、灰色熊の足元に刺さる。灰色熊は少しひるむ、そのわずかな間に女の子を飛び越え、灰色熊に対峙する。女の子に第二撃を加えようと再び右前脚を振り上げる灰色熊めがけて、無双直伝英信流の月影の要領で、鞘を返して愛刀で抜き打ちを加える。

 俺の愛刀は、灰色熊の首と振り上げた右前脚を豆腐を切るようにたやすく切り飛ばす。

 切り飛ばした右前脚が振り下ろす勢いで前方に飛ぶ、灰色熊は何が起きたのかと右前脚を見ている。今度は灰色熊の首が血圧で『ポーン!』という音とともに飛び、灰色熊が崩れ落ちるようにして倒れる。

 血ぶるいをして刀を鞘に納め、棒手裏剣を回収する。

 狼達は『この熊食べていい。』という顔をして俺を見る。俺がうなずくと、灰色熊にむしゃぶりつく。

 狼達の最初の出会いも、熊に殺されかけていたのを助けたのがきっかけだ。『恨み骨髄に徹する』というやつだな。

 灰色熊に背中を切り裂かれた女の子の様子を見ると、年齢12歳位で耳が横にとがっているのでエルフ族の女の子だ。

 女の子はエルフ族の亡き母ニーナとよく似た顔つきをしており、何かを包んだ大きな布の塊を胸にかき抱いたまま、背中の傷の痛みで苦しんでいる。

 女の子の背中には灰色熊の爪で4本えぐれたような大きな傷があり、傷から血が噴き出している。出血量が多い。俺は傷に布を当て、その上から包帯を巻こうとするが、胸に抱いた何かを包んだ布の塊を離さないので、そのままにして腕や布の塊ごと包帯で巻いていく。

 俺は魔素を更に体に纏って全力で病院に向かう。途中で出会った人も、馬よりも早く飛ぶように走る俺を見て驚いている。そのまま病院の手術室に駆け込む。

 病院のナースセンターにいた三人娘が何事かと手術室を覗く、三人娘は手術用のベットに寝ている血だらけの女の子を見て、「エンマ様を呼んでくる。」「シオリを呼んでくる。」「アンナを呼んでくる。」と言って呼びに行く。

 エンマ様とシオリは車椅子で手術室に手洗い後入ってくる、アンナも手洗い後手術着を着て入ってきた。三人娘も手洗い後、手術着に着替えている。

 俺も手洗いをすると、後ろから三人娘が手術着を着させる。

 エンマ様は女の子の顔を見て、

「ニーナ?」

とつぶやく。

 俺は巻いた包帯を取り去り、傷にあてた布も取り去る。背中の4本の大きな傷が見える。エンマ様が

「傷の中でも大きな傷から縫って、私とシオリは治癒魔法で熊の爪の毒素を抜くは。今、私とシオリの体力ではそのくらいしかできない。」

という。三人娘は大きな傷から傷を合わせるようにする。それを俺とアンナが縫っていく。

 時々、ドロリとした赤黒い血が出る。熊の爪の毒素だ、腐臭がして皮膚を焦がす。金属のへらで掻きとり金盥で受けていく。

 手術が終わり、女の子は痛みで流石に胸に抱いた布の塊から手を離した、傷薬を塗り包帯を巻き、寝間着を着させて、大事そうにしていた布の塊を抱かせる。

 エンマ様とシオリが車椅子にぐったりと座ると二人とも魔素切れで気を失っている。

 三人娘にエンマ様とシオリとエルフ族の女の子を任せる。キリとノキザルが遅れて入ってきてアンナのかたずけの手伝いと掃除をする。キリにサル達忍者衆とダイスケを呼んでもらう。

 俺はエルフ族の女の子が一人で山にいることはないだろうから、他のエルフ族を探すためサル達忍者衆について来てもらうことにする。

 ダイスケには探し出した他のエルフ族の受け入れの準備をしてもらう。

 アンナとキリ、ノキザルは、また灰色熊による怪我人がでるかもしれないので、手術室の準備をしてもらう。

 サル達忍者衆を連れて山に向かうと残っていた狼達もついてきた、灰色熊を倒した場所まで戻る。山に残っていたウルフとループスが山頂付近で威嚇のため吠えている。俺達は、吠え声の聞こえる山頂付近に駆け上がる。

 そこには100頭近い灰色熊が、50人位の子連れのエルフ族の集団を取り囲むようにしている。エルフ族の20人位の男が槍を持って構えているが、穂先は何と石器時代の石だ。中心付近にいる女性数人が木魔法や土魔法で灰色熊の攻撃を防いでいるが、魔素切れを起こしかけている。

 俺は、灰色熊の中で一際大きな10メートル越えの大ボスを見つける。

 俺は、魔素を体に纏わりつけ、筋力をあげて背負子の中から棒手裏剣を取り出し次々と手近にいる灰色熊の頭部目がけて投げつけながら大ボス目がけて走る。棒手裏剣が灰色熊の頭部を貫きスイカが破裂したように粉砕していく、走り寄る俺に気がついたのか大ボスがギョッとした様子で俺に振り向く、反応が遅い。その時には俺は大ボスの側まで来ており、愛刀を抜く手を見せず抜き放ち、その首を切り飛ばす。

 サル達忍者衆や狼達は俺が大ボスを倒すのを見て、共同して近くにいる灰色熊に襲い掛かって行く。俺は大ボスの次に大きい8メートル級のボスに向かう、こいつは、正面から俺に向かってくる。いい判断だが、俺は体をひねって通過する灰色熊の右後脚を切り飛ばす。後ろに回った灰色熊は振り向き立って俺を押さえ込もうとしたのだろうが、右後脚がないので、右に体が傾く、それが大きな隙になった。こいつも俺は首を切って、頭部を切り飛ばす。

 サル達忍者衆と狼達が共同しながら何頭も倒している。8メートル級のボス1頭が子連れのエルフ族の集団に向かって突進していく。そいつの頭部目がけて最後の棒手裏剣を投げる。灰色熊は棒手裏剣を頭部にうけて集団の少し手前で倒れる。

 残りの灰色熊たちが必死に逃走を始める、狼達が吠えながら追いかける。ある程度の距離、灰色熊たちを追い払うと『どんなものだ。』という顔をしながら戻ってきた。俺は投げた棒手裏剣を回収し、血糊をぼろ布で拭きながら背負子に入れる。 俺は最後の棒手裏剣を回収するため子づれのエルフ族の集団に近づく、槍を持った男達が俺に向かって威嚇しながら構える。

 エルフ族の集団の中央で木魔法を使っていたエルフ族の女性が

「やめなさい、命の恩人に対して無礼な真似をしてはなりません!」

と、凛とした、人に命令することになれた声をあげる、俺は声をあげたエルフ族の女性を見る。「お母さん?」と思わず声に出してしまう程、亡くなった母に瓜二つだ。俺が産まれた時には前世で24歳だったから覚えているとは言えない...!

エルフ族の女性も俺を見ると

「ニーナの息子なの?」

という。俺は吸い寄せられるようにエルフ族の女性に近づく、エルフ族の女性も俺に手を差し伸べながら

「ニーナの息子なの、名前は何というの?」

と尋ねるので、俺は大きくうなずきながら

「ニーナの息子で、名前はカールと言います。」

と答えると、母に似たエルフ族の女性は俺の頬を両手で挟み

「そう、私はクーナ、ニーナは私の姉で5歳違うの、私が15歳位の時、姉は魔王国の魔王と結婚し、男の子貴方を産んだが、その後、ニーナは亡くなったと聞いているわ。」

と言ってから、ハッとして

「カール、貴方、10歳位の女の子を知らない、私の娘なの、セリナと言うのよ。あの子は、私に似ていて、そうだ大きな布でくるんだ、大事な世界樹の種を渡してあるの。ねえ、知らない。」

と聞くので、

「よく似た子が灰色熊に襲われて怪我をしたので、病院で治療を終え、入院中です。」

と答えてもクーナ叔母さん、病院?入院中?状態だ。とにかく病院にむかう。病院前で3人娘が待っている。石槍を持ったエルフ族の男達が

「クーナ様、魔族の巣です。いけません!」

と言うのを、クーナ叔母様はキッとにらんで

「いやなら外で待っていなさい!行きましょうカール。」

と言って病院内に入った。セリナの寝ている病室に連れて行く。世界樹の種を抱えて眠るセリナを見てほっとしている。スミがクーナ叔母様にと夜食を持ってくる。三人娘が予備のベットを病室に持ってきてセリナの横にセットして、三人娘のアンドレが

「ここでお休みください。クーナ様、今晩は私とスミがこの病室を出たところ直にあるナースセンターにいますので、御用があったらお呼び下さい。」

と言う。俺も

「お疲れのようなので詳しい話は明日にしましょう。」

と言って病室を後にした。

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