第17話 新たな拠点で新たな仲間

 俺はエンマ様とシオリ、三人娘を連れて病院へ向かう。サル達には、学校の食堂で待ってもらう。

 俺は三人娘を手術室の前で待つように伝え、エンマ様とシオリを手術室に運びベットに寝かせる。治癒魔法を使えるのはエンマ様とシオリの二人だけだ。

 俺は手術と言っても狼のループスを縫っただけだ。二人の出血量が多い、縫うしかないか。俺とアンナは衣服を清潔なものに着替え、徹底的に手洗いをする。

 まずエンマ様を見る。エンマ様は魔素切れで気を失っている。右肩が大きくえぐられて切り裂かれているだけで、重要な血管や神経には損傷が無いようだ。

 だが出血が多い、針に絹糸を通してエンマ様の右肩の傷を縫う。傷薬を塗ったあと包帯を巻く。

 次にシオリの傷を見る。右大腿が深く切られている。俺はシオリの白い太ももを見てドキリとする、アンナのジト目が痛い。気を取り直してシオリの傷を見る、エンマ様と同じで、重要な血管や神経には損傷が無いようだ。

 シオリも出血量が多い、魔素切れで気を失っている。

 アンナがエンマ様に使った針を渡そうとするが、別の針に取り換える。もう一度アンナと手を洗いをしてから、大腿の傷を縫い傷薬を塗って包帯を巻く。

 エンマ様もシオリも後の傷は縫う程のものではなかったので、俺はエンマ様を、アンナはシオリの傷の手当てをした。

 二人をベットからストレッチャーに乗せ換えて病室に運ぶ。俺達が手術室を出ると、三人娘たちが待っていた。

 エンマ様とシオリをそれぞれ別の病室に入れて、三人娘の怪我も治療室で診る。

三人娘とも縫う程の深い傷はなかった。治療後三人娘にも病室に入ってもらう。

 サル達6人と雑貨屋の地下室から助け出した8人が待つ学校の食堂に入る。

筏の上では満足なものも食べられなかったので、アンナや女の子達で、朝昼兼用の食事を作ってもらった。

 三人娘も病室から匂いにつられて食堂に来たので、食事の前に手洗いを全員にさせる。

 これからの課題の一つは衛生観念の徹底だ。順番に室内履きも作ろう。

 雑学だが、猛威を振るっているコロナウイルス、外国では靴を室内でも履き、外国映画で靴を履いたままベットに座る⁉外国資本のホテルのベットの足側に黒っぽいマットレス(靴を履いたままそこに足を置く)があるのを見たことがありませんか⁉これはヤバイくない⁉習慣とはいえ、これも衛生観念の欠如では⁉閑話休題

 衛生観念と言えば、学校の運動場が牛馬や狼の遊び場になっている。

 それに、確かに狼達だけでなく、牛馬の頭数が増えた。獣の臭いが強くなってきている。臭いを抑えるためにも、牛馬用のプールも広くしなければならない。

 俺とアンナだけだったのが総数21人、男11人女10人と人数がと増えた。風呂場を男女に、いずれは分けねばならない。

 問題点を食堂に書いていくが、食堂にいる、ほとんどの子の頭に疑問符?がついている。

 そうだね、識字率は最悪だね、せめて、ここにいる皆の識字率をあげるか。

 食後、寝ているエンマ様とシオリを除く全員で、この拠点の状況を見てもらう、ます、識字率の向上の拠点である学校内を案内する。

 学校内では室内履きがないので裸足で回ってもらう、サル君から

「稲藁があるので、草履ならすぐできる。」

と提案がある。皆で、高床式倉庫に行く。たくさんの米俵を見て皆ビックリしている。草履造りを知っているサル君たちを先生に皆でワアワアいいながら草履を作る。

 学校の玄関に靴箱を作ってあるので、そこに入れ、俺とアンナで名前を書き糊で貼っていく。自分の名前を皆、不思議そうな顔で見ている。頭にまた疑問符?がついている。

 学校と病院には、渡り廊下でつながり、それを使って病院に行く、病室が人数分以上あるので、病室を個室として使ってもらう。この時も名前を書いて貼っていくと、頭に疑問符?がまたついている。

 手術室を皆で掃除をする。床は石畳でエンマ様とシオリの手術後の血を水で流していく。特に病院は清潔に、夕方は皆で使った病室と廊下を清掃させる。

 学校の食堂で三人娘とアンナや女の子達が夕食の準備を進める。

 食事の前に手を洗わない子がいる。菌の説明か、難しいね、そうだ、顕微鏡でも作るか!

 顕微鏡もそうだがガラスといえば窓ガラス、ついでに望遠鏡も作るか。

 レンズか...?穴の開いた硬貨に水を垂らすと凸レンズが出来るはずだ。この鉄板に丸い穴をあけて...?あれ?みんな何をしているのと目が冷たい!

 まあいいか。早速、鉄板に穴を開けて水をたらして、みんなにのぞかせて見せる。大きく物が見えるので皆驚いている。俺は、

「鉄板の細かい傷が大きく見えるだろう。普通に見ていても見えないものがある。それがばい菌で病気や怪我を悪化させる。」

と説明したがみんなの頭にはまだ疑問符?がついている。

 知能が遅れていると言われていたカイとソウジ兄弟が、そっと水のレンズを動かして焦点を探している...。もう少し様子を見てみるか。良い予感がする。

 翌朝、座禅を組んでいるとアンナが隣に座り、3人娘も座る。そのうちサルやダイスケ達も真似して座る。脚を組むことになれていないので、苦労している。

 やはり居眠りする子もでてきた。警策で叩くのは可哀そうだと思っていると。どこで作ったのか警策を持ってレベッカが居眠りする子の肩をピシリピシリと叩いていく。その後、魔核を意識して体に魔素が流れるのを感じながら座禅を組んでみるのだと説明しだした。デジャヴを感じる。

 その後は、俺が打った太刀や小太刀を大量に持ってきて置いておいた道場に入る。俺は無造作に、その太刀や小太刀の中から太刀一本を抜き出し、和紙を上から落として見せる。和紙が刃に触れると両断されていく。

 俺はサルが腰に下げている剣を借りて同じことをする。和紙が刃に触れても、切れもせず刃に巻き付くようにして止まった。日本刀の切れ味、危険性を実験して見せた。みんなの顔が引き締まる。

 日本刀の危険性を再度説明し、全員に日本刀を渡すので一人づつ名前を呼んで渡す、もし勝手に取ろうとしたら、危険だから出て行ってもらうと説明した。

 サルから一人づつ太刀や小太刀を振らして、体に合うものを探してもらう。

 やはり、焦れて日本刀を取ろうとする男の子がいたので、その子には出て行ってもらった。

 日本刀は、朝食の準備をしていた女の子2人と、道場から出て行かせた男の子1人が与えられていない。

 食事の準備は女の子の仕事、人数が少ない状態ではやはりまずい、男の子、俺も混ぜて班を作ろう。

 残った3人を呼ぶ、まず女の子に太刀や小太刀を振らせて決めさせる。最後に出て行かせた子に振らせようとする。この子はオサダの息子のケンだ。ケンは小太刀を取ると、いきなり抜いてアンナに向かって

「お前がいたから母さんは死んだんだ!」

と叫びながら小太刀を投げつけてきた。場が凍る。俺はアンナの前に一歩踏み出して、左手を伸ばすようにして柄を握って受け止める。ケンはそれを見て

「許さないからな!お前もな!」

と言って外に飛び出していった。追いかけようとするサルを止める。

 姉天馬が言っていた一人か?アンナを見る。今にも泣きそうな、辛そうな顔をしている。俺はアンナの頭をポンポンと軽く叩く、アンナは俺の腰にしがみついて泣き出した。今日の朝稽古を終了し、俺は

「食事をしよう!今は一杯食べて、つらいことや悲しいことを忘れよう。」

こんなことがあった後だが、雑貨屋の息子のダイスケと妹のスミを呼んでアンナと一緒に気持ちを聞いてみる。ダイスケ達にとってオサダは実の姉だ。

「姉はアンナを大事にしていた。実の娘のように。ケン、あいつが産まれるとすぐ姉は天使族の国に諜報員として送り込まれ、アンナ付きの女官になり、4、5年ほど前にアンナを連れて戻ってきた。その時には体を壊しており、今まで通りの働きが出来なくなっていた。

 この前倒したアンナを暗殺しようとしていた骸骨の陰に怯えていた。

 俺は、親方様、親父の敵でもある骸骨を倒してくれたので有り難いと思っている。スミも同じ気持ちだ。」

とアンナの手をスミと一緒に握った。

「俺もスミも、アンナとこうやって手を繋ぐと、全て心の中のものが伝わることを知っている。だからこそ、こうやって手を繋ぐし、手を繋げることが出来る。」

と言った。アンナはダイスケやスミの心を知り涙を流していた。

 食堂に行き、みんなが手に持っている刀を名前を呼びながら、名前の付いた刀掛けに掛けさせていく、二人ほど名前を見て外に駆け出し、しばらくすると戻ってきて名前を見てうなずきあって刀を掛けた。

 水のレンズを調べていたカイとソウジだ。他の人から見ると異様に見えるのかもしれないが、俺にとっては良い拾い物かもしれない。

 朝食を食べ終えて、昨日の施設の見学の続きをする。俺はケンの気配を薄く広く魔素を広げて探していく、対岸からかなり離れて以前住んでいた村に向かっているようだ。

 まず、水車を見せる。今まで水車を見た事がなく。水車の水が川から田へ流れる様子を飽きもせずみんなで眺めている。

 水車の中を見せる。水車の中の歯車が回り、その歯車等によって、製材所の大きな鋸の刃が回って製材したり、たたら場に風を送ると説明する。

 説明後、カイとソウジがじっと見ていて、横にあった油を軸受けに流す。

 サルとダイスケが慌てて止めようとするが、俺はニコニコしながらカイとソウジにどうして油を流したのと聞くと、カイとソウジは

「ほら、キーッキーッという音がしなくなって、水車が軽々と回り始めたでしょう。」

と言う、この子達はもしかして天才かもしれない。あまり頭が良すぎて周りの人には奇怪な行動に見えてしまうのでは...?

 俺は二人の頭をよしよしと撫でると、誉められたことが今まで一度も無かったと言って二人で抱き合って喜んでいた。

 この後、他の施設を見て歩き、むいている仕事を探す。

 その日から1週間後にシオリが目を覚まし、その1週間後にエンマ様が目を覚ました。エンマ様とシオリは、お互いの傷に治癒魔法をかけて傷跡を無くした。 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る