第16話 アンナの女官
俺は、村からアンナの待つ拠点に歩いて約10日かかるところを約10時間で全速力で走り戻る。
前回も書いたが、人は時速約4キロ、休息を入れて8時間歩くと、1日約30キロ、約10日で約300キロメートル歩ける、また人の走る速度は時速約16キロだから、その約2倍で原付並みの速度で拠点に戻ったことになる。閑話休題。
姉天馬は俺が忍者と戦っているのを空の上から見ていた。待つことなく戻れと言ってある。俺が走って戻り始めたので飛んで戻った。
姉天馬はアンナに見てきた状況から、俺が約10日程で戻るだろうと伝えた。俺が一晩も待たずに帰ってきたのでアンナは嬉しそうに抱き付いてきた。すぐ汗臭いと言って温泉に放り込まれた。アンナも恥ずかしそうにして後から温泉に入ってきた。
俺は温泉の暖かさと魔素切れのせいで、そのまま寝てしまった。アンナと狼で何とか寝床まで運んだようだ。天馬達にあきれられた。
アンナが探している女官が『オサダ』という名前かを聞く。
そのオサダとは2週間後に村の雑貨屋で会うことが出来るかもしれないが、罠かもしれないと伝える。
もう一つエンマ様とシオリの件だ。まだ魔王は生きているが魔王が無くなったらエンマ様がそのまま摂政、シオリが魔王になる予定らしい。
大丈夫かなこの世界は『男尊女卑』の世界、シオリが魔王か、一応魔王に就任した女性が過去にはいたらしいのだが。
シオリの他に魔王候補者にはヘンリケとヘンフリのシオリの義理の兄弟がいた。シオリが就任するときが後継者問題で荒れそうで危険だ。
村から戻った2週間後、俺とアンナは村の雑貨屋に向かう、アンナには危険だから拠点で待つように言うが、今回はどうしても行きたいと天馬に乗る。俺も姉天馬に乗って前回の場所まで行き天馬達に待ってもらう。俺とアンナは腰に差した愛刀の鯉口をきる、村の中央付近にある雑貨屋に向かう。まず俺が雑貨屋に入りアンナには外で待ってもらう。
俺が雑貨屋に入ると雑貨屋の親父ユキムラと、以前アンナと出会った村で、アンナを連れて来た痩せた顔色の悪い女性オサダが立っていた。
アンナが外からオサダを見て雑貨屋に入ってこようとする。何か違和感がある。血の臭いがする。俺は雑貨屋の外へ飛び出てアンナを抱え雑貨屋を離れる。
オサダも凄い勢いで外に、俺達を追いかけて飛び出してくる。オサダの背後で雑貨屋が吹き飛ぶ。爆風でオサダの顔がめくれ上がり、骸骨のような顔が現れる。
その骸骨に向かって四方から手裏剣が飛ぶ、骸骨の動きが一寸止まる、そのわずかな隙で俺は骸骨に向き直ると、俺は向き直る勢いも利用して骸骨の右腕を愛刀の抜き打ちで切り飛ばす。
骸骨は左手で切られた右腕を取り俺の方に投げる。投げた左手で剣を抜くと見せて、抜いた剣をそのまま投げつけてくる。
俺は投げてきた右腕を避け、剣を殴ろうとするが嫌な予感と、禍々しいものを感じる。剣にわずかな異臭がする毒!毒が塗ってある、いや、その他に何か禍々しいものがある。
俺は左手で鞘を抜いて剣を叩いて、骸骨にむかって飛ばす。骸骨は向かってきた剣を、体を開いて左手でその剣の柄を受け止める、受け止めた勢いを利用して剣を回しながら俺の頭に打ち降ろす。俺は夢双直伝英信流の請流し(うけながし)の要領で左足を通常の請流しより大きく右前に送って、骸骨の剣をしのぎで受け流す。
雑学だが、よく小説やテレビ等で刀をチャリン、チャリンと打ち合って火花を飛ばすのを見たことがあると思うが無理、刀が刃こぼれを起こしてノコギリになる。日本刀の切れ味を阻害する。閑話休題。
俺は受け流した勢いを利用して骸骨の左手を切り飛ばし、両足も切る。骸骨の周りに前回戦った忍者衣装のサルとキリとあと2人が立ち、倒れている骸骨に向かって剣を振り下ろす。
俺は嫌な予感が更に増した『飛べ!』と大声で命令する。俺は少し離れたアンナを抱えて空高く飛ぶ、忍者4人達も咄嗟なことだが、俺の声に反応して飛び上がる。その途端、骸骨の体が爆発し四散する。
俺の前に、忍者4人が片膝をついて臣下の礼をとっている。
忍者4人は、一人づつ「サルで14歳。」「サルの弟のオオザル13歳。」「女忍のキリ12歳。」「キリの兄のキリガクレ14歳。」だと名乗る。アンナが4人を一人づつ手を取る。思念で4人は大丈夫だと送られてくる。サルが
「雑貨屋にオサダが戻って来た時、この骸骨が一緒に押し入ってきた。ユキムラ様が倒され、俺達は骸骨の手下30人ほどと外に誘導されながら戦い、そいつらを倒して雑貨屋に戻ろうとした。
親方様、親方様であったユキムラ様が亡くなった今、配下になりたいから親方様と呼ばせてくれ、親方様が、骸骨と戦っているのが見えた。あの骸骨はそこにいるアンナ様を殺しに来た殺し屋だ、その為、危険を感じたオサダはアンナ様にしばらく身を隠してもらうため、親方様に預けたと聞いている。
雑貨屋のユキムラ様が倒された今、是非、我々忍者衆を配下に加えて欲しい。」と言われた。俺は配下に加えることを了承しながら、魔王について何か変わった事がないかサルに聞くと
「魔王は、俺が雑貨屋に来た日に亡くなった。その日から2か月後に魔王の娘のシオリが魔王に就任すると連絡が入っている。」
と言う、雑貨屋に来た日から2週間たった、シオリの魔王就任まで残りおよそ1ヶ月と2週間、その間に何か起きるかもしれない。
俺は、魔王城に直ぐ向かうと言うと、サルが
「魔王城には俺の12歳になる双子の妹弟で『女忍のノキザル』『トビザル』が潜入している。この村から魔王城まで2日の距離だ。定時に伝書鳩で半日遅れではあるが連絡が入る。」
と言ってくれた。サルから、
「雑貨屋の地下室に何人かいるかも知れないので助けてくれないか。」
と言われる。しかたがない、俺とオオザル君と二人でみるみるうちに雑貨屋の木材をかたずけていく。
地下室の扉が見える。オオザル君が半分壊れかけた木の扉を開ける、すぐ2枚目の木の扉があり、これを開けると、次に丸い石の蓋が転がって塞がっている。オオザル君では動かないので俺が押し動かす。
下から不安そうな顔が8人俺達を見上げている。キリが飛び降りると。
次々と8人を地下室から出す。その後サルやキリガクレが飛び降り背負子に荷物を出してくる。雑貨屋の荷物が主だそうだ。
雑貨屋の地下室から助け出した8人は、ユキムラの息子のダイスケ14歳、その妹スミ12歳、オサダの息子ケン14歳、ユキムラが預かっていた獣人の女の子のアンダ8歳、人族の男の子カイ8歳、カイの弟ソウジ7歳、双子の獣人の赤ん坊のカウルとアウル1歳だ。
俺もアンナも背負子を背負うと、天馬の待つ場所に向かう。
天馬を見てサル達が驚く、天馬2頭は俺達が連れて来た12人をじっと見ている。俺は天馬に
『この子達を拠点まで連れて行っていいか?』
と尋ねると姉天馬が
『この子達はまあ大丈夫そうだね...一人...。ところでこの子達をどうやって運ぼうかね?』
「アンナに双子の獣人の赤ん坊を連れて、天馬に乗って拠点に行って待ってもらう。他の子達はここで筏を作り荷物を運ぶ。鎹(かすがい)をたくさん持っているので、筏は蔦や鎹ですぐできると思う。」
とつたえる。姉天馬に
「俺は何となく嫌な予感がする。気がせくので、魔王城に向かってくれ。
サルとオオザル、キリガクレは状況に応じて動いてくれ。」
と言うと、俺は姉天馬に乗って魔王城に向かう、暗くなってきた。
闇の中にそれよりも黒く魔王城がそびえて見える。さらに近づくと、火魔法の炎が時々見える。この魔法は以前よく見知った炎の色と輝きだ。シオリの魔法だ、俺は火魔法の炎の見える方向に姉天馬を向かわせ、火魔法の炎近くで飛び降りる、姉天馬には戻ってもらう。
俺が飛び降りた場所には、大きな羊のような角を持つた黒いドレスの女性が右肩を切り裂かれ血を流してグッタリと倒れており。その前に倒れている女性とよく似た大きな羊のような角を持つ女性が右手に俺の贈った笄を構え、左手に魔力を込めようとしている。エンマ様とシオリだ。
シオリも何か所か切られ、そこから血をにじませ、白いドレスも血で汚れ、赤黒くなっている。
エンマ様とシオリの周りに、俺が渡した槍を構えて3人娘が立っている。彼女達も血だらけになって魔素が切れそうだ。
彼女達を追い詰めているのは魔王の親衛隊その数約100人、それに見覚えのある、ヘンリケとヘンフリのアンナの義兄弟殿だ。
俺はシオリに迫る親衛隊員の持つ武器を片手で抜いた愛刀にも魔素を送り、次々と切り飛ばし、反対の手や足で親衛隊員を殴り飛ばし、蹴り飛ばしていく。あっという間に親衛隊100人を無力化し、ヘンリケとヘンフリの構える剣を鍔付近から切り飛ばし。短くなった剣を見て驚いているのを、平手で張り倒す。
彼らの後ろからサルとよく似た。双子が現れる。
「サルの妹のノキザル、それとこれが、弟のトビザルといいます。すみません、助けるのが遅れてしまいました。ところで親方様は強いですね。」
ノキザルにもエンマ様達の怪我の治療手伝いをしてもらう、俺とノキザルは、まず怪我が重いエンマ様の血止めをして、背負子に座らせ。シオリや三人娘の手当てをしていく。シオリも俺が助けに来たことや魔素切れと出血で気を失う。俺はエンマ様を背負子に背負い、シオリを抱き上げる、三人娘も槍を杖にして立ち上がる。
俺が村に向かっていこうとするとサルが顔を出す。
「すぐそばで筏をキリガクレやオオザルとで作って待っていました。」
と言ってから
「親方様の力を試すんじゃない。」
と言って二人の妹弟の頭を拳固で殴る。俺達は筏に乗り込み河を下る。後方から魔王城の守備隊がわらわらと出てくる。筏は急流を凄い勢いで下っていく。あっという間に、魔王城が後方に消える。
ダイスケ達が筏を作り荷物を載せて村の川縁で待っていた。俺達の乗る筏とつなげると、下流に向かって下っていく。世界樹の分身のリンゴの木の生えた湖に一昼夜かけてつく。
俺は湖竜を呼んで拠点の方に向かってもらう。湖竜を見てサルやダイスケ達が腰を抜かせて驚いている。
支流の出口で警戒していた狼が見つけて、アンナに伝える、すぐ狼達が馬数頭を連れて来た。湖竜とその馬と交代して筏を支流の川上に遡上して拠点に入った。
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