第15話 二つのニュースと忍者!
新たな拠点で3年目を迎えて、秋も深まり、俺は14歳となり、アンナは9歳になった。
俺が連れて来た時の痩せ細ったアンナではない、少し日焼けしたシャープな顔つきで、骨と皮ばかりの痩せ細った脚から、カモシカのような足になった。
天馬は連れてきた牝馬15頭のハーレム生活を満喫し、今年までに仔馬30頭以上が産まれている、天馬の素質がある仔馬は天馬の里に連れて行っているようだ。
姉天馬も弟天馬から天馬の特徴が顕著に現れた牡馬が産まれたので、その牡馬と一緒に暮らしている。
小狼6頭とも嫁や婿をもらい、孫狼が20頭以上産まれた。
牛も狼達が集めてくれるので50頭以上になっている。
広い土地なので、今のところ何とかなっている。
牛たちも、たくさんいるので田を50反以上作ってしまった。古米、古古米が正倉院の高床式倉庫に山ほど入っている。リンゴ園のリンゴの木も増えた。
二人では必要ないが学校を作った。もし、子供が出来たら!...違う、集まったら、5歳から10歳までの、いわゆる「読み書きそろばん」を教える学校だ。
小さな村の学校であるが、校長室、応接室、教員室、保健室、図書室、給湯室、食堂、教室を10室、作業室、体育館、剣道場を併設し、運動場も作った。
今のところ校長先生兼先生は俺一人で、生徒はアンナ一人だ。運動場は孫狼や仔牛、仔馬の遊び場になっている。
学校の体育館と併設して建てた剣道場は、社のよな外観をして板張りの6間四方で床の間も作った立派なものだ。
道場に入るとき履物をぬぐ。アンナにはサンダルを与えてから建物内でも履物を履いていたが、履物をぬいで道場内に立つと板の感覚が気持ちいいと喜んでいる。剣道場が出来てから基本的に板の間は靴を脱ぎ、土間や石畳の家は玄関で外履きと内履きに履き替えることにした。
雑学だが、猛威を振るっているコロナ、外国映画で靴を室内まで履き、そのままベットに座っているのを見ていませんか?外国資本のホテルのベットの足側に黒っぽいマットレス(これが靴置き)があるのを見たことがありませんか?これはヤバイくない?これも衛生観念の欠如では?閑話休題
朝稽古の時は、この剣道場を使う。アンナも俺も革製の剣道着だ。以前、買った麻布は底をついた。アンナは日本的な美少女で、やっぱり白色の剣道着と緋色の袴、着させてみたい!今は、革製品だ...。何か違う。何かしっくりこない。
履物をぬぎ、一礼をして入る。座禅を組み、ストレッチしてから、お互いの礼をして、刀礼の後、お互いに愛刀を腰に差す。
居合道の一本目「前」から始まって十二本目まで全部抜き、剣道基本技稽古法、剣道形を終わって、愛刀を刀掛けに置く。
防具をつける。竹もあったので竹刀は作った。防具の胴も作った、垂、面、小手等も動物の革で作って見たが...?何か違う。何かしっくりこない。
俺とアンナは切り返しなど基本稽古をした後、相互の礼を行って蹲踞(そんきょ)して竹刀を構える。アンナは舌を抜かれているので気合はかけられないが、アンナの放つ気がビリビリと俺を打つ。ジリッとアンナの放つ気と同時に右足が攻めこむ、ターンと踏み切ってアンナが俺の面を打とうとするが、その先を取って、出小手で仕留める。蹲踞して、竹刀を納め相互の礼を行った後、面を外す。正面の礼をして、お互いの礼をして終わる。
その後は、食堂で二人で朝食をとり、午前中は作業室で小学校5年生くらいの国語、算数の問題をだす。作業台には彫金の材料や色鉛筆が置いてあり、勉強にあいたら彫金をしたり、色鉛筆で絵を描いたりした。午後は農業や鍛冶作業等をした。
他には病院も作った個室の病室が50室、4人部屋の病室も20室も作った、手術室も作った。メスやハサミピンセット等はお手のものだ。調子にのって何組も作ってしまった。
この3年間、アンナに会った村に何度も行くが、村は再建されていない。草が蔽い茂り、村長の家の石積や井戸の後も見えなくなっている。
新たな拠点で3年もいると俺やアンナが作った鍋や釜が沢山ある。麻布も底をついた事だし、魔王城以外の村で鍋や釜を売って布でも買うか。
俺は、天馬達にこの付近に村が無いか尋ねる。
『ここから歩いて10日ほどの所に人口5千人ほどの村がある。私達天馬が飛べば、3時間もかからない。』
と思念が送られる。
人で10日程なら距離は約300キロメートルで、東京から金沢までの間になる、北陸新幹線で最速2時間28分、天馬も新幹線なみか。
俺は、魔法の袋に鍋や釜を詰めていく、今回は様子を見るということで、アンナには拠点で待ってもらうことにした。
俺はいつもどおりの衣装で革の上下に革の帯、帯に愛刀を差し、懐の袋に小金と魔法の袋を入れて、背中に背負子と水筒を背負って。姉天馬の背に鞍を乗せる。天馬達は他の馬具を着けたがらない、姉天馬に跨って村に向かう。
村の手前で、姉天馬が見つからない所で降りる。姉天馬には夕方、日が落ちてから再度きてもらう、問題が発生したり、深夜までに戻らなかったら拠点に戻ってもらうことにした。
今回も昼餉近くで竈から煙のあがっている家を探す。5千人もいる村なのに、村の中央の数件が竈の火をあげているだけだ。一番大きな家の勝手口から声を掛ける、台所にいた太った女中が振り向く、あれ?アンナのいた村の村長の家の女中だよな?かなり太っているけど。女中は俺の手を握り、俺を逃がさないようにして家の中に大声で奥さんを呼ぶ。
『俺何か悪いことした!』
いかにも奥様然とした。女性、アンナのいた村の村長の奥様が台所に入ってきた。
「あれま~、あんた生きていたんだね。よかった、よかった。ところであんた。以前注文した。鍋や釜や簪あるかい。」
鍋や釜、20個と簪を見せる。
「鍋や釜は以前10個で金10個だから金20個でいいね。簪は...‼、払えないね金100個以上の価値がある。来年またこれを、持って来てもらえないかね。その時は金100個で買い取るから。そうだ、今度来るときは壺や燭台にしてくれないかい壺や燭台10個づづの20個だよ。簪も忘れずに持って来てくれよ。」
「ほら、以前来てくれたあの村は、いつもにない大寒波だったろう。廃村にしてみんなこの村に来たんだよ。私は詳しいことは分からないね。そうだ、村にあった雑貨屋がこの村でも雑貨屋をやっているよ。聞いてみると言い。私の家の右隣り3,4軒目にあるよ。」
「前より多めの食べ物とお酒だ、いいお酒だよ。体が大きくなって、たくましくなってわからなかったよ。もうお酒も飲めるだろう。来年もたのむね。」
と言って金20個もらい。さらに駄賃だと言って銀5個をくれた。
俺は、別れを告げてすぐに右隣り4軒目の雑貨屋に入る。雑貨屋で布を頼むと、雑貨屋の親父が俺を思い出したのか。
「お~お~、生きていたんだね。あんたが銀1粒で麻の布10反買っていってくれた後、大寒波がきてどうなったかと思っていたんだ。そうだ麻の布10反と絹の布10反あるが、大まけにまけて金1粒で買っていけないか。絹の布10反で金1粒だから、麻の布10反はおまけだ。」
「あの村、廃村になってね。村の者は、みんなこの村に来ているよ。『やせぎすで顔色が悪くて、どこかで女中していた人で、ものが話せなかった女の子のいた人かい。』う~ん、オサダさんかな?オサダさんならまた女中に出たよ。来年来る時までに聞いておくよ。」
「話はかわるが、魔王様がご病気で、正妻のエンマ様が摂政をしているという話だ。魔王様はエンマ様の娘のシオリ様を次期の魔王様に指名しているという話だが、あのヘンリケとヘンフリの兄弟が黙っているかね。」
「これが、麻の布10反と絹の布10反だ。来年またきてくれよ。」
俺は買った麻の布と絹の布を背負子で背負って店を出る。
しばらく歩くと、誰かつけてくる、薄い気配が2、3人分ほど漂う。
俺は魔素を纏っていく。聴覚や視力が驚異的にあがっていく。しかし、呼吸音どころか足音まで聞こえないが、誰かつけてくる薄い気配がする。俺は真直ぐ村を出る。村を出たところで俺は少し足を速める。つけていたやつが慌てて走ったためか後ろから小さな足音がはっきり聞こえた。すぐ足音がまた消えた。
開けた場所につく、俺は立ち止まると魔素を俺中心に広げていく、魔素が俺を中心にドームのように広がっていく、一番近い木に一人、さらに広げると奥に一人、もう広がらないようだ、初めてやったわりにはうまく出来た、しかし要訓練だな。
俺は、無拍子で一番近い木にいる奴に飛びつく。奴は忍者のように覆面と服装をしている。忍者にむかって柄頭で水月を突く、忍者は胸に少しふくらみがある、女忍は白目をむいて地面に落ちる。俺は落ちた女忍の背中を膝で押さえて制しようと飛びおりる。
俺の目の前を女忍とよく似た服装をした男が逆さまで落ちてくる。女忍のさらに木の上で魔素の感知を外れた所に奴がいたようだ。その忍者は、両刃の剣を抜き打ちしてくる。愛刀を抜く気が無かった分だけ遅れた。柄頭の頭金で抜き打ちの剣を受ける。忍者は頭金を支点にして剣を回しながら突きに変化する。魔素を纏った手刀で忍者の剣の根元から叩き折る。
忍者はチョット驚いたようだが、すぐ蹴りに変化する。俺は右膝をあげて防御すると。忍者は右膝を蹴ってバク転して距離をあけると、いきなり逃げ出した。落ちた女忍は奥にいた奴がかずいて逃げていく。
俺は追いつけない距離ではないが無理はしない。もう一人いる。逆さまに落ちてきた忍者も相当腕が立つが、こいつも凄い。無理をしないで天馬のもとに行こうと振り返った時、奴は俺の後ろに立っていた。俺は前、いや、目の前を細い糸が張り巡らされている無理だ。俺は夢双直伝英信流の『滝落とし』の要領で、後ろの奴を左手で愛刀の鞘の鐺(こじり)で突く、奴は鞘尻を思わず握る。愛刀を右手で抜き出し奴めがけて突く、奴は鞘尻を離して俺の突きを避けようと下がるのを足で引っ掛けて倒す。首に刀を突き付ける。この子も忍者の服装をした女の子だ。切っ先を返しただけで覆面を切り飛ばす。
口が膨らむ。パッと女忍の口元に切り飛ばして空中にある覆面の布をかける。覆面ごと吹き矢が俺に向かってくる。左手で覆面を払う。
俺は少し、むかっ腹が立ったので、忍者の服装を切っ先だけで細切れにする。
流石に、ひん剥かれて慌てたのか胸と股間を隠す。切っ先を喉元にあてる。
逆さまに落ちてきた奴がものすごい勢いで、もう一度戻ってくると両膝をついて体を投げ出すようにして、俺に
「放してやってくれ、キリを放してやってくれ、俺の名前はサル、キリは俺の幼馴染だ頼むよ。」
「放して、また遣り合うか?おや、誰か来るな仲間か?」
俺は、視力をあげて見ると、雑貨屋の親父だ。
雑貨屋の親父もサルの隣に座る。
「俺はこいつらの頭でユキムラという、オサダは俺の娘だ、オサダは今ある女の子を探している。舌を抜かれた女の子だ。」
「その話は、本当かどうか分からない女の子を殺す側かもしれないだろう。」
「二週間後、店に来てくれオサダに会わせるから。」
俺はキリを放して、魔素を足に纏って全速力で拠点の村に戻った。
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