第14話 新たな出発
雪解けが進む、二頭の天馬も戻ってくる。弟天馬君は相変わらず牝馬五頭を連れて来た。新しい場所でもハーレムを作るのか。なかなかお盛んなようで!
今年の雪解けは大寒波のせいで遅い、以前作った牛が引く犂そして自動田植装置と自動稲刈装置を直して作る。前の拠点で回収してあった犂等の鉄の部分は少し曲がっていたが三頭分なのですぐ修理が出来た。
今年も和紙を作るために和紙小屋も作っていく。乾燥室も温泉の温度を利用して作っておく。
乾燥室も作ったので、サウナもできるかと思いつきで作ってみた。
作ったのはいいが、アンナには不評だ。アンナは、まだ子供でサウナの高温に我慢できずすぐ出てしまう。実は俺もだ。(体は子供だ・・・⁉)
そんなことをしているうちに雪解けがすすんで、木々が芽吹き、山々が緑色に染まり始めた。牛を使って開墾する。今回の牛たちもアンナを通じて開墾を命令すると、新しい牛だがアンナの命令どおり犂を引き始めた。狼達に以前のように牛の監視と誘導をしてもらう。
空いた時間で、不評のサウナ室と露天風呂の隣に東屋と四方を囲まれた風呂場を作る、そこに横穴で作った風呂桶を備え付け、露天風呂からのお湯を入れる。
風呂場造りの作業が終わるころ、開墾も終わり、牛に自動田植え装置を引いて田植えをする。青々とした田圃が一反できる。
俺は、以前アンナと出会った村に注文の品を天馬を使って届けに行くことにする。姉天馬を呼ぶと姉天馬は
『今回の寒波は、大寒波とも呼べる広範囲に及んだ。今までの寒波は、世界樹の分身であるリンゴの木の少し手前が境界線で、これを超えることはなかった。その村がどうなっているのかわからない。』
と告げる。それでアンナも行きたいと、弟天馬も呼び向かうことにする。
姉弟の天馬に馬具をつけて。騎乗する。2頭は軽々と空を飛びアンナのいた村に向かう寒波の範囲は広大でアンナのいた村も飲み込まれていた。村長の家の石積の基礎と井戸がわずかに壊れながら残っている以外は更地だった。
アンナは悄然として戻り、一晩中俺の胸で泣き続けた。翌日アンナは俺に
『私は姉天馬が告げたように天使族です。
私は天使族の王の娘、正妻の娘で第二王女だったのです。
王位をめぐり、妾腹の第一王女のダイアナに命を狙われ、捕まった時に、魔法を使わせないようにするためと言って、舌を抜かれたのです。
人族の女官、私を貴方に奴隷として渡した人です。その女官が私を助け出し、”飛行船”で連れ出してくれたのです。飛行船は、この大陸につく手前でダイアナの手の者により破壊されたのです。
天使族は、この大陸には本当は入れないのです。入ろうとすると不思議な力で、押し戻されてしまうのです。ところが、私はどういう理由かわかりませんが入ることができ、女官の故郷である、あの村にたどり着いたのです。
女官はたいそう苦労して私を育ててくれました。でもダイアナの手の者が、女官の出身地を知り、人族の暗殺者を雇い私を殺しに来たのです。私は村を歩いている御主人様を一目見て何かの絆を感じ、女官にお願いして奴隷となったのです。
女官の名前はオサダさんといいます。
ごめんなさい。御主人様、今まで信頼していたのですが、どうしても話せなかったのです。』
と告げた。俺はアンナに、
『アンナと出会った村にこれからは定期的に見に行こう。探しに行こう。オサダさんが亡くなったのを確認していないので希望を持とう。』
と思念を送りながらアンナの頭を撫でた。
アンナは健気に元気そうにしているが、時々ふと寂しそうな顔をしたり、俺がどこか行こうとするとすぐついてくる。
狼達だけでなく天馬達も心配そうにしている。
アンナに気晴らしのため、何か好きなものはないか聞いてみた。
『私は、彫金は好きだけどまだ力がない。彫金の下絵を描こうとすると、上手く筆が使えない。』
と伝えてきた。そうだ、懸案事項の一つ鉛筆を作るか。鉛筆の芯の黒鉛を探しに行くか。黒鉛探しのため、アンナにもハンドル式の石弓を作ってあげる。簡単に矢が番え、的に簡単にあてることができると喜んでいた。
馬に馬具をつけて二人で黒鉛探しに出かける。後ろに、からの袋やつるはし等を積んだ馬二頭と子狼二頭がついてきた。
途中でアンナが石弓で小鳥や野ウサギを捕まえる。この世界では、食の為動物の命を絶つことが普通であり、最初の小鳥の狩ではアンナの心の痛みが流れてきた。
最近では俺とアンナは、接触しないで少し離れていても思念を交わすことができるようになった。
お昼で休もうかと思った時、守り刀から、黒鉛があることを伝えてきた。俺は馬から降りて、守り刀の反応を見る?聞く?
あると伝えたところから、しばらく歩くと地面から黒鉛が露出していた。そこでお昼のおにぎりを食べてから掘ることにする。いつもになくアンナがたくさん食べた。頬にご飯粒をつけて、可愛い!可愛い、美人は正義だ‼
お湯を飲む。物足りない、そうだお茶の木も探そう、寒い地域なのでないかな?
少し休息する、アンナがいつもになくたくさん食べたので俺の脚を枕にしてお昼寝を始めた。毛布代りの毛皮を掛ける。2時間ほどすると、ぐっすりと寝たと起きてきた。
黒鉛が露出しているので2人で露天掘りをして採取した。黒鉛の一杯入った袋を馬2頭で振り分け荷物にして戻る。
ついでに粘土も探しながら戻る。そうだ、お茶の木も探そう。粘土は守り刀のおかげで見つかったが、お茶の木は見つからなかった。
鉛筆造りの作業小屋を作る。確か、粘土と黒鉛をかき混ぜて、成型し高温で焼き上げて油にしみこませてできるはずだ。手作業でやってみるか。焼き上げは鍛冶場の炉で焼き、油に放り込む。少し太いが木に溝を掘って作り、その溝に鉛筆の芯を入れ膠を糊にして挟み出来上がった。書いてみる。少し硬い、かなり太い。
一応かけるのでアンナに渡す。アンナは喜んで和紙に下書きを描き始めた。
その間に粘土と黒鉛の比率をかえて、芯や木の太さを細くして、何本か作ってみる。その都度ナンバーをふってアンナにも渡していき書き味を試してもらう。
アンナはこれがいいと一番最後に作った鉛筆を見せる。ただ下書き前で、イメージ作りで細い線を描くときは、最初の硬い方がいいと言って鉛筆を見せる。
鉛筆を削るのに小型ナイフを使ったが。アンナは上手に削れないようだ。前世の刃を取り付けて鉛筆を回しながら削る鉛筆削りを作ってみる。刃の角度も3種類ほど変えて作ってみる。
アンナは、これなら簡単に削れると喜んでいる。
粘土細工もして見せた。アンナも上手に動物を作るが足が細すぎて、すぐ重さでつぶれる、でもそれを見て楽しそうだ、最近ようやく子供らしく笑顔を見せるようになった。暗い影のある美少女よりも、はじけるような明るい笑顔を見せる美少女の方が断然好いな・・・!
お茶の木も探そうと、俺達は山の中を歩き回った。やはり寒い地域ではないか等と思っていたら、灯台下暗し温泉の湧きだす、すぐ上に何本か群生していた。
しかし、お茶はどうやって作るのだろう、葉っぱだけだったか、茶柱が立ったと言っていたことを思い出した、枝も入れていいはずだ。適当に乾燥したり、煎ったり、揉んだりしてみるか。
今日から、なかなか納得のいかなかった、愛刀作り、日本刀でも打ってみるか。
たたら製鉄でかなり大量の良質な玉鋼もできた、この地の砂鉄が良好なのだろう、良い太刀が出来る予感がする。
太刀を打とうとすると、今回は何を思ったのかアンナが白いリボンで長い髪を後ろで結び、白い鉢巻きに、白装束になり、水垢離を行った後、アンナが振れる小さな槌を持って相槌を振るう。
俺も槌を何度も何度も振り下ろし、折り返して納得のいくものが出来上がると思った時、俺のそばに置いていた、俺の守り刀が輝きはじめた。俺がこの世に来た時、隣で飛んでいたのと同じ小太刀の形で光り輝き打っていた太刀に飛び込むと融合していく。
その時、俺とアンナが最後の仕上げの相槌を振るった、その火花が残った玉鋼に吸い込まれた。
太刀が出来上がった。刀身、全長75センチ、そりが浅めで、峰は大きく、沸(にえ)あつく、冴える。相州伝の有名な刀工正宗の作を表す言葉だ。よく似た太刀となった。
これが俺の愛刀であり守り刀か、出来上がるとアンナは太刀に跪き、涙を流して喜んでいた。
俺は打った太刀を納める白鞘や柄を作る。
守り刀の鍔(鐔とも書く)はアンナが図柄を作成する。長丸形、表はエンマ様やシオリが好きな蝶を彫金し、後ろに小桜を2個散らす。
鎺(はばき)には、アンナはこれも蝶をあしらった。
目抜きも、アンナが魚をモチーフにして図柄を作成した。
それらが出来たので、柄を革で巻き、黒鞘をつくる。
アンナも
『私とエンマ様、シオリ様の太刀とお揃いで3振り作って欲しいと。』
と訴えたので、俺とアンナが太刀の最後の仕上げで相槌を打った火花が残った玉鋼に吸い込まれた、その玉鋼を使って全長62センチで正宗の作に似せた太刀を打つ、俺の拵えと違うのは赤鞘にしたことだ。
そんなことをしているうちに俺は12歳、アンナは7歳になり、田は黄金色に色づき、牛を使って自動稲刈り機を使って刈り取り、天日干しをする。
米倉を以前のように正倉院の高床式倉庫の方式で作る、その中に足踏み式の脱穀機を作って米を脱穀し詰めていく。
牛馬の為のサイロを作ったところで、雪が降り始めた。
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