第13話 山麓の拠点 崩壊

 大寒波が襲い掛かる。みるみるうちに横穴の蓋にした灰色熊が凍っていく。俺とアンナは、そこから奥に向かって走る。俺は魔素を纏っているので、横穴の中がよく見える。いる、もう一頭灰色熊が、前の奴より小型だが俺たちに気づいて歯を剥き出して襲ってきた。俺は横穴が血だらけになるのと、アンナに怪我をさせたくなかったので、素早く倒すため灰色熊の目を守り刀で貫く。脳も貫かれて崩れ落ちる。灰色熊の尻尾を引っ張り、前の奴の後ろまで引きずる。

 前の奴はもう凍って固まっている。

 寒気が凄まじい、寒気の境界がリンゴの木だと言っていたが。

 俺は小型とはいえ体長八メートルを超える灰色熊の背を越えて、アンナの待つ横穴の奥を目指す。寒気が横穴の床も壁も凍らせながら寒気の線となって俺達を追ってくる。アンナを抱えてさらに奥を目指す。穴が細くなり、大きく左に曲がった先に大きく広がった奥が見える。他に灰色熊はいないようだ。

 奥には灰色熊が巣にするつもりだったのか、たくさんの木々が置いてある。

 横穴の床も壁も凍らせながら寒気の線が巣穴に迫って追いかけてくる。その寒気の線が、灰色熊の巣の手前でピタリと止まる。

 俺にアンナが青い顔をしてしがみついている。背負子から、毛皮を出してアンナにかける。魔法の袋から種籾を入れていたポットを出し、種籾と水筒の水を入れ替える。床に穴を掘って火をつけポットを置く。火の明かりと湯の沸く音からアンナの緊張感がとけて、しがみつく力が緩む。魔法の袋の中の壺を出す。種籾と一緒に銀のコップも入れていたので、種籾の中から引きずり出す。コップの中にお湯を入れて二人ですする。今はお湯でもいいが、こんな時はコーヒーか紅茶、元日本人の俺とすればお茶を飲みたいものだ。

 最初に強烈な寒気と強風が三日三晩吹き荒れる。それが、一か月の間に何度も襲来すると姉天馬が説明してくれていた。

 アンナは緊張感が解けて、お湯や火の暖かさで、体が少し暖かくなってきたのか居眠りをはじめた。俺は、もう一枚毛皮を出してアンナの下に敷いて寝かせる。

 巣にある大量な木を使って、ログハウスを建てることにする。床を作ったところで、アンナが目を覚ます。俺はログハウスの中に木の食卓を作り、その食卓にアンナに飾りを彫ってもらう。俺はログハウスを組んでいく。穴の中なので屋根は天井を兼ねるので乗せるだけだ、玄関を作り扉は二重にする。

 玄関の反対に暖炉の石を組み立てる。この横穴は、かなり広いが二酸化炭素中毒が心配だ。ログハウスの横にトイレ棟をつくる。ログハウス作るのに三日かかった。

 寒気の線が今度は横穴の入り口の方に向かって後退していく。滴り落ちる水を壺で受けておく。檜風呂のように木を組み風呂桶を作る、風呂桶の中に溜まった壺の水を溜めておく、寒気の線が最初に倒した熊の所までたどり着く、最初に倒した熊の切り離した脚が凍ったまま四本立っていたので、その脚四本を持ってログハウスに戻る。ログハウスにつくと、また強烈な寒気が押し戻されてくる。

 脚をログハウスの下に放り込み、玄関の横で脚一本を解体する。この脚の太さなら一本で一か月は暮らせる量だ。風呂桶の水を鍋に入れ、暖炉の火で沸騰させる、その水蒸気を鍋の蓋で受け、水滴をその下に置いた釜で受け取る。アンナが不思議そうな顔をして俺に触る、それだけで理解したようだ。

 暖炉の煙が穴の天井に上がっていく空気穴があるようだ、これで二酸化炭素中毒にはならないはずだ。

 まだまだ木があるので、風呂にはいりたいので風呂桶をもう一つ作り、風呂場用のログハウスを建てる。馬が生き残っていたらと思い、鞍や鐙を作る。馬の引けるそりなどを作って時間をつぶした。そんなことを繰り返しているうちに寒気の線が後退し、手前の熊を越えて、入り口の熊も越えていく。

 横穴の入り口から外に出る。太陽の明かりが眩しい。まだ寒気が残るが新鮮な空気が美味しい。横穴のそばにあるリンゴの木はこの猛烈な寒気に耐えていた。俺とアンナはリンゴの木に手を添える。リンゴの木から力強い脈動を感じる。二人で魔素をリンゴの木に送ると枝に新芽が芽吹くのを感じた。

 元の拠点の場所まですっかり更地になって雪の平原になっているのが見えた。いや、魔素を体に纏わらせて視力をあげてよく見ると、俺が接ぎ木した8本のリンゴの木の雪のふくらみが見えた。

 今回の寒気が15年後とはいえ、同じように襲ってきたらたまったものではない。拠点の場所を変更するか。アンナと相談する

『御主人様の思うままにして下さい。私は何があっても御主人様に反対しません。』

 よし、ここを一応は拠点として別の場所を探そう。しかし、温泉の湧く場所は外せない。まずは、以前の拠点に置いてあった荷物を取ってくるか。そう思っていると、狼の鳴き声がして、ウルフとループスが子供達と馬達を連れて来た。

 戻ってきたのは、狼達はウルフとループスの他、子供達6匹とも無事だ。馬は天馬達を除く18頭のうち14頭で仔馬は9頭全部生き残っていた。牛は7頭いたが全滅していた。しかし狼達が、新たに途中で3頭見つけてきて連れて来た。

 俺は、狼達に灰色熊の肉を食べさせ、子狼にアンナ達を守るように言いつけた。ウルフとループスと親の牝馬5頭にそりを引かせて元の拠点に向かうことにした。ここから以前は2週間ほどかかったが、更地で障害物もなく大河まで凍り付いていたので、元の拠点には3日ほどでたどりついた。

 元の拠点ではまず、埋めた槌や金床等を掘り出して馬のそりに積む。挿し木したリンゴの木も移植するつもりで掘り起こす。建物や水車小屋等、木製品で水分を含んだものは、強烈な寒気で水分が凍り膨張して粉々になり、猛烈な寒風で吹き飛ばされたようだ。たたら製鉄も破壊されていた。重量のある玉鋼と鉄製品はその場で落ちていたが、小型で軽量の鉄製品等は猛烈な寒風で吹き飛ばされたようだ。

 当然、露天風呂も牛馬の為の温泉プールも埋められていた。必要なものをそりに積んだのでアンナの待つ横穴にウルフとループス2匹に馬5頭の警護を命じて戻ってもらった。

 俺は背負子を背負い岩塩の採集と新しい拠点を探すため大河沿いに上流に向かった。岩塩を採取して一度山頂に向かう岩塩から少し上流側が寒波の境界線になっている。そこから上流で湯煙があがる場所を探す。

 あった。湖の対岸で支流が流れこむ上流に湯煙がみえる。一度そこが拠点として適当な場所か確認に向かう。温泉の量は元の拠点より、はるかに大量に湧きだしていた。支流の川幅は10メートルほどで、それほど広くないが水量も豊富だ。ここから支流の10キロほど上流にある山は鉱物が豊富だ。ここを拠点としよう。

 アンナの待つ横穴に行くため、筏を作り湖を渡る。

 湖の中ほどまでくると俺を乗せた筏の直下の水面が盛り上がる。

 長い首が湖面を割って出てくる。長い首を持つ海竜種が背中に筏を乗せひっくり返して俺を食べようとしている。俺は筏から海竜種の背中に飛び乗り、頭に向かって背中を駆け上がる。これだけ長い首ならばどこでも切れる、さてどこから切るか等と思っていると。海竜種から

『ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました。どうか切らないでください。

 今後、貴方がたが湖を渡るときは、お手伝いします。どうかご慈悲を!』

俺は血ぶるい(血ぶりというのは間違いで血ぶるいが正しいと爺が言っていた。)して刀を納刀する。海竜種は

『湖竜といいます。『湖竜』と呼ぶか考えてくれれば、お手伝いいたします。』

と伝えて背中に筏を乗せたまま対岸につけてくれる。湖竜は対岸に筏をつけると、静かに湖面から消えた。

 俺の方がウルフとループス達よりも早く着いた。遅れてついたウルフとループスは理由が分からずキョトンとしている。俺は玉鋼で筏をつなぐ鎹(かすがい)を大量に作る。天馬を助け上げるために湖に放り込んだ筏の残骸が、まだ大量に残っていた。

 俺は以前作ってあった筏や乗ってきた筏を鎹で補強していく。筏と筏を繋ぐ皮の紐も鎹で止める。荷物も落ちないように、そりや風呂桶の中に入れる。動物たちも落ちないように手すりを作る。

 俺はアンナと一緒に筏の先頭に乗る。湖竜を呼ぶと、水面が持ち上がり湖竜が頭を出す。湖竜を見て、狼や馬、牛は驚いている。アンナは思念で湖竜に敵意が無いことを感じたので、狼達を思念で落ち着かせる。湖竜は俺が差し出す皮の紐を咥えると、あっという間に対岸まで運んでくれる。対岸に着くと、降ろした馬達に筏を引かせて上流にある新たな拠点を目指す。

 アンナは、着いた拠点になる場所を見ると、以前の拠点の場所と同じようだといって喜んでいる。

 まず、接ぎ木したリンゴの木を8本を2人で移植していく。

 露天風呂と牛馬の為の温泉プールも作る。久しぶりに露天風呂につかる。恥ずかしそうにしてアンナも入ってくる。俺の膝の上に座ってニッコリ笑って、ここから再出発ねと思念が送られる。今日は、横穴で倒した灰色熊の皮で作ったテントで一晩を過ごす。

 まずは、水車小屋を建てる。隣にたたら製鉄所、鍛冶小屋を建てる。

 製材所と製材所用の水車小屋も建てる。

 アンナはログハウスが気に入ったのか。ログハウスを建ててくれとお願いされた。

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