第12話 拠点作り 2年目 姉天馬と大寒波

 俺はコウゾによく似た低木を見つけた。

 前世俺は父親と一緒に駐在所ライフを送っていた時、小学校で和紙作りを体験させられ、小学校、中学校の卒業証書を和紙で作った。

 この世界には紙がない、和紙作りをしよう。和紙作りの手順は、コウゾの刈り取りから始まって、幾つかの工程を経て『ソーダ灰』で煮て、次の幾つかの工程後、『トロロ』と綿にしたコウゾとを混ぜて紙すきし、また幾つかの工程後、和紙として完成するというものだったはずだ。

 問題の一つは『ソーダ灰』、塩のきついところで育った植物の灰で出来ると聞いたことがある。岩塩のそばに生えている植物の灰で大丈夫だろう。

 もう一つは『トロロ』、トロロアオイという植物の根を潰して水に漬け、ねばねばな液をトロロというらしい。

 山の中で、狩りをしながらトロロアオイ探す。それらしい植物を見つけ背のかご一杯になるほど採ってきた。ついでに食料としてカモシカも狩ってきた。

 コウゾを見つけた時から、和紙作りの道具を作ってある、これで準備完了だ。

 和紙と言えば、筆と墨、筆はと思って横にいた天馬を見ると飛んで逃げられた。

墨は、すすと膠(にかわ)だ、すすは鍛冶場からよく出るので大量にある。膠は万能糊で弓の弦に塗り込んだりする、獣類の皮、骨、腸などを煮出して乾かせばできる。

 最初の膠作りでは、狼達に飲まれてしまった。

 もう一度作って膠を作る。これを使って墨を作った。出来を見るのに墨をすって木切れに文字を書いたらアンナが見ていて

『これは、なあに教えて?』

と思念を送ってきた。そうだ、識字率が異常に低いのだ。

 紙の前に積み木に文字を書いてアンナに覚えさせよう。味気ない食卓や椅子に何か彫れないかと彫刻刀も作ったところだ。

 15センチ四方で厚さ1センチの木切れを何枚も作り、表に大きく墨でひらがなを書き、裏にひらがなに関する絵を描いた。それを彫刻刀で彫って墨を流し込む。

1週間がかりで積み木を作ってアンナに渡したら喜んでいた。

 和紙作りの準備もできているので、コウゾを刈り取り、手順道理、紙すきのすけたで紙をすいた。その後の工程を経て和紙を天日で乾燥して完成させた。

 白くてきれいな和紙が大量にできた。アンナに、この和紙で文字を書かせた。

 そんな事をしているうちに、雪がちらほらと舞い始めた。

 『そろばん』も作ってアンナに数の概念を教え、足し算や引き算の初歩の初歩を教えた。6歳児と言えば小学校1年生になったばかりだ、あまり無理に難しい事をさせないようにしよう。俺、少し暴走気味なところがある、自重しなければ!

 俺はといえば、依然見つけた岩塩で和紙作りに必要な植物を見つけて採集した時、岩塩も採ってきたのでこれを利用して漬物でも作ってみるかと奮闘している。白いご飯と漬物だけで何倍もいけそうだ。自重と言う言葉はどこに行ったのだろう?いや、可愛いも正義!美味しいも正義だ!

 昨年同様『たたら製鉄』で玉鋼が大量にできた。今年も鍛冶場で日本刀の作刀と注文を受けている鍋や釜を作る。

 アンナは一人では嫌だといって鍛冶場までついてきたが、火花を散らして槌をふる俺を見てニコニコしている。やってみるかと体に触れて尋ねると

『とても槌は重くて振れない。火花は離れて見ていれば綺麗だけど、近づくのは怖い。鍛冶はしたくない』

と思念で伝えてきた。鍛冶場の一角に彫金をする作業台を置いてある、今度アンナの白鞘の日本刀に鍔をつけようと思っている。鉄を打っただけの味気ない鍔では面白くないので、その鍔に馬の絵柄を彫金している。それを見せるとアンナは

『綺麗だし、これなら怖くない、彫ってみたい。』

と思念をおくってくる。

 アンナに下書きに何か書いたらと、和紙の束と硯と筆を渡す。上手く筆が使えなったのか、和紙が真っ黒でクチャクチャになっている。アンナが泣きべそをかいているので、まだ6歳児だ、アンナを抱いて頭を軽くポンポンとたたく。

 そうだ、今度は鉛筆を作ろう。

 問題は鉛筆の芯だ、黒鉛と粘土を混ぜて1000度の熱で焼くのだが、問題は『黒鉛』ダイヤモンドと同じ炭素の塊の鉱物だ、探してみるか!

 少し寒さが厳しくなってきたので、黒鉛探しは雪解けの後か等と思っていたら、天馬が、天馬とよく似た美しい天馬、牝馬を連れて来た。またハーレムに加えるのか。その美しい天馬が俺とアンナをじっと見ている。

 アンナがフラフラとまるで操られているように美しい天馬に近寄る。俺はアンナの後を追う、アンナがその美しい天馬に手を添える。美しい天馬からアンナを通じて意識が流れ込んだ。

『私は天馬の双子の姉、『姉天馬』とでも呼んでください。我々天馬族は近親相姦を繰り返したため、頭数が少なくなり牝馬の天馬の多くが妊娠しにくく、絶滅の危機にさらされています。

 それを憂いた天馬族の王である私たちの父親から、天馬族から分かれた馬族にまず弟が子供を作り、その中で天馬族とよく似た、つまり魔臓である角や翼をもつ牡馬の天馬と私が子作りをするように言われてきたのです。

 ところが、この天馬の阿保が私を後ろから襲ってきたのです。それで私が後ろ脚で蹴ると、羽が折れて湖に落ちたのです。そう、貴方がこの阿呆を助けた湖です。

 天馬の阿呆は貴方に助けられて、ここでハーレムを作りました。何頭か有望な牡馬の天馬が産まれたようなので私を呼びに来たのです。

 有翼族、天使族の娘よアンナと申すのか、まだ魔臓である私たちと同じ翼が生えておらぬな、10歳位になると、白い翼が生えてきて、風魔法を...ほう水魔法と治癒魔法も使えるようになるようじゃ。

 ところで、エルフ族と魔王族の男よ!世界を統べる王よ!私にまたがってみぬか...、』

『駄目です、そんな関係は駄目です...!』

アンナの悲鳴にもにた思念が姉天馬の思念をさえぎる。でも、姉天馬の俺に支配される。俺の女になりたいという邪念が流れてきた。

『失礼した。私は...貴方の愛馬(少し邪念がながれてくるが)になりたいだけなのだ。

 問題はそこではない、この地の事を貴方達は知っていますか。『魔食いの森』と呼ばれているのです。15年に1度、約1か月の間、この地を非常に強力な寒波が襲うのです。その寒波は地上にある世界樹以外の、すべてのものを凍らせ、凄まじい風で凍らせたものを粉々にして更地に戻してしまうのです。

 貴方が天馬の阿呆を助けた場所にあるリンゴは世界樹の一種で、あそこがこの魔食いの森の境界です。私達天馬族はあまり重い物を運べません。貴方が重要だと思うもの、重要で重い物は、最初に移植した世界樹のリンゴの木4本の中央に埋めてください。それで大丈夫だとは思うのですが、もう時間がありません。』

 俺はアンナを通じて狼達に

『大寒波が来る。すぐ馬や牛を連れて逃げろ、遅れるものは置いていっていい。』と命令する。

 重い槌や金床、何本かの俺の打った日本刀、注文の鍋や釜、皮の袋に和紙の束などを詰めてリンゴ園の移植した、世界樹のリンゴの木4本の中央に埋める。

 俺は出来るだけ厚着をして、魔法の袋に入るだけの銀の壺やポットに種籾を入れ、腰に守り刀を差し、石弓と20本の矢が入った矢筒、動物の胃袋で作った水筒二本をたすき掛けで水を入れて背負い、背負子に手斧と獣の皮を背負う。

 アンナも着れるだけのものを着て俺の打った小太刀を腰に差し、水を入れた水筒二本をたすき掛けに背負い、笈(おい:修験者が背負っている衣服などを入れた足のついた箱)に必要な物を入れて背負う。

 俺は姉天馬、アンナは天馬に乗って、世界樹のリンゴの木が生えた湖を目指す。

 俺とアンナを降ろした天馬の姉弟は暖かい地に行くと飛んで行った。

 俺は魔素を纏って視力をあげる横穴が無いか探す。世界樹のリンゴ木のから、少し離れているが崖に横穴があるのを見つける。その穴から獣の強い臭いが流れ出ている。アンナには安全のため世界樹のリンゴの木のそばにいるように言って入る。

 横穴の中の入り口付近には、大きな体長10メートルを超える灰色熊が俺を睨んでいる、そいつが俺に向かって走ってくる。大型のダンプが向かって来るような迫力だ!

 俺は魔素を纏って灰色熊の前脚と後ろ脚の両足の間を走り抜ける、熊が横穴の入り口手前で、4本の脚が両断され、支えを失った体が腹ばいで落ちる。俺は灰色熊の背を越えて首を切り取る。

 俺はそのままの勢いでリンゴの木のそばのアンナの所へ行き、アンナを抱えて灰色熊の背を越えて横穴に入る、灰色熊のお尻を押して横穴に蓋をする。

 その途端ゴーという音とともに大きな灰色熊を越えて凄まじい寒気が入ってきた。

 


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