第11話 新しい仲間アンナ

 気を失っているアンナを風呂から抱いて小屋まで戻ると、狼達が寄ってくる。アンナをベットに寝かせて、夕食の準備を始める。アンナの体調を考えて煮込んであったスープの肉をもっと細かく切り刻んで、野菜がトロトロになるまで煮込んだら銀の皿に入れる。リンゴもすりおろし別の皿にいれる。銀のスプーンを添えて食卓に運ぶ。

 アンナがスープの匂いで目が覚めたのかベットで起き上がっている。ただ狼達が側にいるのが怖いのか毛布代わりの皮を胸に抱いている。

 俺は黙ってアンナを抱きかかえて食卓の椅子に運び座らせる。アンナから

『狼さんたち怖くない?これ食べてもいい?とても綺麗な食器だけど、使って大丈夫?』

 俺は

『大丈夫、狼は怖くないし、これはアンナの為の食事だよ。食器も使って大丈夫だよ。』

と考えて伝えると、アンナは嬉しそうに食事をとり始めた。

 アンナが食事をとり終わると狼達がすり寄ってくる。アンナはすり寄ってくる狼達と触れ合うと、狼達に敵意が無いのが判り、狼達の頭をなぜたり、子狼達とじゃれ始めた。

 俺はその間に食器を洗いかたづけた。

 かたづけが終わって、子狼とじゃれあっているアンナの様子を見ると、ひときわ大きい子狼に押し倒されて、その上に他の子狼ものしかかるので、俺は助けようとアンナの手に触れると、アンナを通じて子狼達の

『遊んで、遊んで、もっと遊んで、ね~遊ぼうよ!』

という思いが流れ込む。凄い、面白い。俺は試しにアンナを通じて子狼に

『この子はアンナ、ここに来たばかりで疲れているよ。アンナは小さな女の子だから、子狼達は上からどきなさい。アンナは疲れているので寝かしてあげてね。』

と考えると子狼達は親狼の所へ逃げ戻る。その時アンナを通じて子狼達が

『ごめんなさい。御主人様...!』

という考えが伝わった。

『俺って怖いのかな?』

と思うと、アンナから暖かい心が伝わってきて、アンナは俺を見てニッコリ花のように笑った。

 寝るとき、俺は床で寝ようとしたら、

『怖いから一緒に寝て、ご主人様。』

と可愛い顔でベットの上からのぞかれた。大丈夫かな俺。いつか押し倒しそう。

 いつもの朝稽古をしようと起きだすと、アンナも小さく伸びをして起きだした。

俺もアンナもゴワゴワした革製品をきているので、買ってきた布で服を作ろう。

アンナは長い黒髪で日本人風の美少女なので、稽古するとき白色のリボン、白色の剣道着に緋色の袴、腰に螺鈿の鞘の日本刀を差したら凄い素敵だろうな等と考えたら、アンナに

『私を人形にしないでね。』

と思念で怒られた。俺も雑念が多い。

でもアンナに、買ってきた麻布をリボンの長さに切って黒髪を後ろでまとめてみた。思ったとおり可愛い!

 次に、腰に革の帯を巻き、その上に布の紐を袴のように縛り、俺の打った白鞘の日本刀、小太刀を腰に差す。やっぱり、それだけで可愛い、素敵だ似会っている‼

 俺も、腰に守り方の小太刀を差す。この小太刀も少し短めになってきた。

 居合道の一本目「前」を抜いて見せる。

 アンナも俺の真似をして、一本目を抜く。真剣を振るう、緊張感などで頬に赤みがさす。エンマ様やシオリのような鋭い目つきになる。

 アンナは刀を血ぶるい(全日本剣道連盟居合の解説でも『血ぶり』と書いているが爺は血ぶりではない『血ぶるい』が正しい、そう読めと言っていた。)して納めると、俺の手をとり

『エンマ様、シオリて誰?』

と心で問いかけてくる。”血ぶるい”でなくてそこかい、俺は

『エンマ様やシオリ、栞の事を...』

と思っただけで、アンナは

『すみません。奴隷の分際で、ごめんなさい。ご主人様!』

と思念が送られると、アンナはあわてて手を離して、何かを振り切るように、何度も何度も居合の「前」を抜く。

 翌日の朝稽古の時は、今回はいつもどおり座禅から始める。

 アンナも横で座ろうとするが、そんな習慣もないのでうまく組めない。じたばたするアンナが可愛い!エンマ様から貰った革の座布団を使って座らせる。エンマ様と思っただけでアンナがビクリとする。俺は以前エンマ様にしてもらったようにアンナの頭をなでる。

『ありがとうございます。御主人様、エンマ様もシオリ様も、もう一人の栞様も大事な方なのですね。』

という思いが流れてきた。

 アンナの頭には魔臓が無いが魔管は見える。ただ心臓の横の魔核はあまり発達していない。それで、アンナはまだ魔法が使えないようだ。10歳になれば、どんな魔法が使えるようになるかわかる。

 アンナは6歳といっていた割には体が小さい、栄養状態が悪いためだ。この厳しい世界では、子供といえど重要な労働力だ。粗末な食事と劣悪な環境で無理に長時間働かされるのだ。

 そのため、子供はなかなか10歳まで育たない、それで10歳の時、魔法鑑定の日を設けて、10歳を祝うのだが、俺はその日、魔王城から追い出された。

 座禅の後は、素振りをする。女の人は手首などの関節が柔らかく力まないのでスーッと振れる。

 居合道の前後の礼法を教えて一本目「前」を真剣に抜く。

 木刀を持って全日本剣道連盟の剣道形を教える。まず礼法と、剣道の五行の構え方を教える。明日から三本目まで教えるか。

 今月の朝稽古はこの方法で行うか。

 来年は、剣道の防具を作って、竹刀も作って剣道をやろう。アンナは栞に似ているから、栞の使っていたような赤胴を作るか。

 今日の朝稽古を終わってからアンナの能力を農作業に使ってみる。

 牛や馬にアンナを通して俺が命令する。

 牛や馬は、あまり難しい事は理解ができない。単純にここを真直ぐ耕せという命令しかできないようだ。ただ、牛や馬でも個体差があって、

『ここまで耕して戻ってこい。』

という程度はできるが何度も繰り返しは出来ないようだ。

 天馬と狼達はアンナを通して俺が命令するとかなり難しいことを理解できるので牛や馬を誘導することができる。

 天馬は馬たちを、特に牝馬を魅了して何でもさせることができるみたいだ。

 そこまでアンナが思念を送っていたが、いきなり途絶えて真っ赤になっている。

俺にも思念の一部が流れてきた。このエロ天馬め!

 天馬が俺を見てウインクしている。天馬は羽が治り空を飛べるようになった。

 午後から、アンナと二人でリンゴ園を見に行く。天馬達がここを管理している。

害虫駆除も馬たちにさせている。

 接ぎ木したリンゴの木4本とも上手く育って実をつけ始めている。アンナを通じて天馬にリンゴの木を増やすことを提案する。天馬は喜んで俺達をのせて、湖のほとりのリンゴの木まで飛んでくれた。天馬は空を飛びながら鳥のようにリンゴの実を食べている。俺も袋を持ってリンゴの木に登りリンゴの実を二袋ほど詰め込んで集める。枝を4本ほど取って天馬に乗って拠点にもどる。

 俺とアンナはリンゴ実の入った袋を台所に置き。リンゴ園でリンゴ4本の接ぎ木をする。

 アンナが来てから、この小屋では手狭になった。また、馬や牛も増えた。食糧用の倉庫も作らなければならない。木材は大量にある製材所用の水車の動力で製材していく。木材をセットするとガイドに沿って自動で切れるようにした。

 稲が実り田が黄金色に輝く、今年は豊作だ。牛に自動で稲刈り機を取り付けて引く、稲を天日干しする。脱穀の為に脱穀機を作る水車の動力でドラムに千歯こきを取り付けて脱穀する。稲わらは牛馬の飼料にもなる。他にも縄や草履など...ただ技術がない、知らないからだ。

 種籾を岩塩を砕いて作った塩水につけ沈んだ種籾だけ取り出して魔法の袋に入れておく。

 取れた米は、正倉院の高床式倉庫を作って入れていく。 

 昨年の冬は温泉の暖かさで地面のむき出しの部分の草花と、牛馬の飼料になるススキが、近くの河川敷の湿地帯で大量に生えている、それを牛馬たちが食べていたが、今年はそれだけでは無理だ牛馬も増えた牛馬用にサイロも作らなければ。稲わらだけでなく、ススキも稲刈り機を使って刈り取りサイロに入れた。


 

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