第10話 拠点作り1年目

 お温泉の湧く地点に、住宅用の小屋と鍛冶小屋を作って、すぐ雪がちらほらと降り始めた。鍛冶小屋の近くには大河に流れ込む支流が流れている。

 その支流に水車小屋を作る。その水車小屋の隣に『たたら製鉄』製鉄所を作る。

 雑学だが、たたら製鉄と言えば、ある漫画映画で、女の人が何人もで、ふいごで足で踏んで風を送っている場面があったが、その足で踏んでいるのが『たたら』とよばれる。閑話休題

 女の人達の代りに水車の動力を利用して風を送る。

 たたら製鉄ができたので大量の良質な玉鋼を作ることができた。この玉鋼使って鍛冶小屋で日本刀を打ってみるが、気に入ったものがなかなか出来ない。

また、この玉鋼で鍋、釜、鍬、鋤(すき)、鎌、薬缶、犂(すき:牛などで引く)を作る。

鍋、釜も上出来であったが。暇だったので鍋や釜の蓋の縁を彫金で飾り、蓋の取っ手に龍を彫って作ってみる。

 牛で引く犂の為に頸木を作る。6頭分を作った。

 ついでに、牛で引いて自動で稲の苗を田植えできる装置も考えて作る。

 そうだ、収穫、稲刈りのときにも、牛で引いて自動で稲を刈り取り、その稲を束ねる装置も考えて作る。

 水車小屋をもう二ヶ所建てた。一ヶ所は鍛冶小屋で相槌を打たせるため、もう一ヶ所は製材所で、大きな丸鋸を作り製材するためだ。

 雪の降っている間にやれたのはこの位だ。

 冬の間にループスが子供を6匹産んだ、ルーボ、ルーヴ、レアン、ラン、ヌクテ、ロボと名付けた。時々、冬眠出来なかった熊が牛や馬を襲いに来るが、ウルフとループスと時には撃退し、一緒に狩る。

 狼達は食料をあさりに来る雪ネズミを退治してくれる、それに、肉が柔らくて美味い雪ウサギを狩ってきてくれるので、これには感謝だ。ネズミそっくりで、白いだけの雪ネズミは見せなくていいよ...。

 馬も子供を産んだ、天馬君が頑張って連れて来た牝馬9頭全部を孕ませて、仔馬が9頭産まれた。馬が天馬を含めて19頭になった。

 牛は6頭いたのに子牛が1頭産まれただけだ。牛は7頭だ。天馬君頑張っているね!

 雪解けとともに、山や野の草が青々と育ってくる。木々が芽吹き、山が白色から緑色に埋め尽くされていく。

 エンマ様がくれた魔法の袋に『種もみ』が入っていた。エンマ様も前世日本人なので米が食べたいと米を植えていた。俺も前世日本人なので米が食べたい。大河の河川敷は湿地帯や沼が点在する平野になっている。ここを牛を使って開墾をする。6頭の牛に犂を引かせて田をおこす。

 ウルフとループスが牛6頭をうまく誘導する。田の大きさは20メートル×50メートルにした。一千平方メートル、10アール、約一反、これで米約五百キログラムとれる。牛に引かせる自動田植え機も上手くいった。

 田植えも終わったので、俺は鍋や釜を背負子に載せて、村を探して売ろうと思い火山麓の小屋から出発する。

 狼たちがついてきたそうにしていたが

「家を守るように。」

と命令すると、渋々という感じで戻っていった。

 俺は時々木の天辺まで登り人家を探す。五日目の昼前、今日、何回目か木の天辺まで登ると、昼餉の準備の白い煙が遠くに見える。

 俺は立ち昇る煙に向かって近づいていく。

 五十軒ほどの村で、大きな立派な館のみが、竈の煙をあげているだけだった。

こんな館なら買ってくれると思い、やたらにでかい玄関を避けて、横手の勝手口から声をかける。

 台所にいた女中が、胡散臭そうに見ていたが、俺の見せた鍋と釜を見て屋内にいた奥様然とした女性を連れてくる。おれの作った鍋や釜も上出来であったが。鍋や釜の蓋の縁が彫金で飾られ、蓋の取っ手に龍を彫っているのをみて、目を輝かして金1粒を渡してきた。奥様に

「まだないか。」

と尋ねられ。あと9個あるよと言って商品を出した。奥様が品物を見ながら

「さっきのやつと合わせて、金十粒。」

と言って金一粒は先に渡したから残り金九粒ねと言って渡してきた。

 俺は髪飾りもできますよ。といって鉄でできた簪を見せると、銀一粒と酒と食べ物を渡しながら

「これは滅多にないお酒よ。今度はこれよりもっと上等な髪飾りを持って来て。鍋や釜もこの二倍もってきても大丈夫だよ。」

と言って、鉄で出来た髪飾りを自分の頭に差した。

 鍋や釜がここで完売した。この館の主人は村長であり、領主の『正の税徴収官』で、もう一人『副の税徴収官』がいるそうだ。

 村の雑貨屋を探して布を求めたが、麻しかないが10反で銀一粒だと言われたので、買っておいた。ここでも、前世では布1反12メートル程だが、度量制度がいい加減で、無いのに等しく、後で測ったら10メートル程だった。

 麻と食料と酒を背負子にのせて、火山麓の家に戻ろうと村の外れまで来ると、やせ細った4歳位の黒い長い髪がボサボサになり、所々破れた服を着た女の子を連れた顔色の悪い女性がいて、

「この女の子と俺の持っている食べ物と交換してくれ頼む。」

といわれた。俺は冬になると火山麓の小屋は雪に閉じ込められ人恋しくなる。

火山麓の小屋に戻れば十分食料もあるので女の子と交換した。

 女の子を連れて歩こうとすると裸足なのに気がついた。

 買った麻布しか荷物もないので、背負子の麻布の上に女の子に酒瓶を渡して座ってもらい、体を縛ってから背負子を背負い火山麓の小屋まで体に魔素を纏って飛ぶように走る。

 一晩中走るが女の子は一言も話さない。火山麓の小屋につき背負子から降ろそうとした時、彼女と触れると

『怖い怖い、これからどうなるの、この人は悪い人ではなさそうだけど怖い。』

という感情が流れ込んでくる。俺は彼女を抱きしめて

『俺はカールもうすぐ11歳だ。ここには動物達以外は、俺と君しかいない。これから仲良くしようね。』

と考えると、彼女は少し戸惑ったようにして

『私はアンナ6歳、私は人と触るとその人の考えたことが判るの。それで、気味悪がられて、昨年舌を抜かれて声をうまく出せなくなったの。』

という感情が流れてきた。

『温泉に入ってと。』

と考えると、

『一人にしないで。怖い怖い。』

といってしがみつく。仕方がない、一緒に温泉に入る。

 風呂に入る前に髪の毛を洗うが、今まで手入れもされていないのかゴワゴワしている。お湯を掛けながら木の櫛で髪の毛を何度もすく。体もお湯をかけただけで、黒いしずくがたれる。風呂に入る前にお湯で洗ってあげる。

 本当に色の薄めの黒人かと思ったら白人だったというぐらいの汚れだ。栄養状態が悪いのであばらが浮いている。温泉に入れようとすると

『お湯が怖い、お湯に浸かったことがない。』

としがみつく、仕方がない、そのまましがみつかせてお風呂に入った。

 俺ヤバイ、前世で大学卒業して2年、24歳まで過ごした。今は11歳ぐらいになるとはいえプラスすると33歳だぜ。この子やせ細っているとはいえ、汚れが落ちたら日本人風の黒髪美少女に変身している。

 それに、前世で栞が私が七五三の7歳の時の写真と言って見せてくれた、写真の栞と瓜二つだ。

 その子に裸でしがみつかれているどうしょう。彼女と目が合う。彼女は真っ赤になりながら

『貴方は私のご主人様です。好きにして大丈夫ですよ。』

と暖かな感情が流れ込んでくる。思わずキスしてしまた。

その後、あれ!彼女から何も感情が流れてこない!彼女を見ると、気を失っている。慌てて温泉からだして東屋で寝かせる。俺の脚を枕にして頭を冷やしてやる。風が少し寒い。風邪をひかさないため、体をふいて、俺の着替え用の、革の貫頭衣を着させて抱いて小屋に行った。






 

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