第7話 魔法鑑定までの日々

 俺もシオリも9歳になった。ということは、シオリと10ヶ月違いなので魔法鑑定の日まであと2ヶ月。

 俺の頭に魔臓と呼ばれる羊のような角はない。また、魔素を手足に送る魔管もない。問題は魔管がなければ、魔素をうまく手足の指先に送れず魔力量を上げて魔法を使えないことだ。

 今日もエンマ様やシオリ、三人娘達と朝稽古をしてから、ドワーフ親方の鍛冶屋に行く。ドワーフ親方の炉には、俺が皮で作った”ふいご”を取り付けている。炉が高温になり良質な鉄の塊ができる、その鉄の塊で打った両刃の剣は好評で他の領地からも注文が来ると言ってドワーフ親方は喜んでいる。

 ドワーフ親方に弟子入りして、しばらくしてから

「俺は魔法が使えないので魔王城から出て行く事になる。」

と言ったら、ドワーフ親方は

「他の人にはその事は黙っていろ、世話になった人に餞別で何か打ってやれ。」

と言われている。

 俺は餞別の品を打つので、誰にも見せたくないといって、ドワーフ親方に許可をもらい誰もいなくなった夜遅くドワーフ親方の鍛冶屋で槌を振るった。

 それに、まだ折り返しの鍛造方法等を教えたり、見られたりしたくないからだ。

 ドワーフ親方への餞別は皮で作った”ふいご”だ。

 俺が打っているのは、三人娘に槍をあげようと思い、日本刀の技術を使った槍の穂先や石突きを打っている。柄は樫の木に革を巻いて作っている。この時代には染色の技術や螺鈿の技術が無い。この三人娘達とは縁がありそうなので、将来出会えたらもっと良い槍を送ろう。

 俺はエンマ様とシオリに簪(かんざし)と笄(こうがい:髪かき、二本の櫛なようなもの、簪ではないが簪のようにも使われている)を作ってあげる事にした。

 小遣いのほとんどを金や銀に換え、簪の本体を銀で作り、飾りを金で作る。飾りは扇子を広げた形にして二人とも蝶が好きなので、そこに蝶を彫金する。扇子の両端には小さな銀の扇をさげてある。

 笄は使い方が違うが、普通は髪飾りのように非常時には武器になるように女性でも使える重さで、少し長めの細い鉄にして先端部は尖らせ、握りの部分には蝶を彫り込み銀を流し込んだ。

 この世界には絵画等の美術関係が無いのか、発達していないのか、この城で美術品を全く見かけない。当然、彫金の技術がないのだ。それで、誰にも見られないように二人の簪と笄を作った。

 二人に使った金や銀は、俺は使うこともない小遣いが貯まっている。貯まった小遣いを金や銀に換えて、エンマ様とシオリの簪や笄に使ったのだ。

 この国の貨幣制度はいい加減で、銅の小さな塊100個で銀の小さな塊1個に、銀の小さな塊100個で金の小さな塊1個に、という具合で交換されるのだが、金や銀、銅は本当に塊で、1個1個の重さが違う。

 この世界には天秤もないのだが、俺の作った天秤で量ると、ほとんどがどちらかに傾く。

 貨幣制度だけでなく、前にも思ったが度量制度もしっかりしなければならない。

 俺は魔王城から出るときの為に手斧と石弓つまりクロスボウを作ることにした。手斧は簡単に出来る。

 問題は石弓だ、まずは図面作成だ。

 紙がない!そうこの世界には紙がないのだ。無ければ作るか。今後の課題だが。

 王立図書館の本は木簡か革で作ってあった。識字率が低いわけだ。

 木板に墨を使って石弓の図面を作成した。この世界にも弓と矢はある。この世界の弓を特別に大の大人でも引けないほどに強力に改造して、矢も鉄製にする。

石弓の本体は鉄製、弦を引くのに梃子か、ハンドルで回しながら引くかで迷ったが、梃子だと矢を番えるのに時間がかかるので、ハンドルで回して矢を番えることにした。

 ハンドルで回すので、歯車を作製しなければならない、”歯車”これも見せられない技術だ。歯車を作るのにコンパスも作った。これも見せられない技術だ。石弓の部品もできた。

 魔法鑑定の三日前、ドワーフ親方の鍛冶屋に最後のあいさつに行く。ドワーフ親方から”鍛冶師の証”としていつも使っていた大きな槌と金床を渡してくれた。

それを運べるような頑丈な背負子も餞別として貰った。ついでに、石弓の部品や矢20本、手斧、三人娘に渡す槍、槍の穂先には革の袋をかぶせた。エンマ様とシオリに渡す簪と笄も出来たので持ってきた。

 翌日の朝稽古の時、三人娘に

「俺は魔法を使えないから、今回の魔法鑑定で魔王城や城下街からも出て行く。」

と告げて槍を餞別として渡した。彼女達は俺が魔素を体に纏ことが出来るので、魔法が使えないとは思っていなかった。それで、とても驚き悲しんでくれた。

 その日の夕方、稽古の時エンマ様とシオリに簪や笄を渡して髪に差してあげた。絶世の美女の親子はとても美しかった。

 その時、エンマ様は俺やシオリに

「カールは、エルフ族の族長の娘ニーナと前魔王、現魔王の義理の兄とが結婚して出来た子なの。ニーナがあまりにも綺麗だったから現魔王が横恋慕して、前魔王を何処かに幽閉して魔王の座に就きニーナを奪ったの。

カール貴方は魔王の子ではないわ。」

と話す。そう言えば俺が産まれた時、エンマ様はそんなことを言っていたな。

「シオリ、カールは貴方の大好きな義理の兄ではなくて従兄なのよ。

シオリも安心ねカールと結婚できるから。」

とシオリに話すとシオリは真っ赤になっている。エンマ様は今度は

「実は私とシオリは、ある大学教授の娘だったの。

 その娘には一寸ドジで素敵な男性が恋人でいたの。

 そのドジ男君が大学卒業後、刀工見習いになって初めて作刀した小太刀を娘に贈るというので、娘はドジ男君に手料理を振る舞おうと揚げ物を作っていたの。

 娘もドジなうえに料理など全くした事が無かったので、揚げ物の油に火がつき瞬く間に火が巡り家が燃え上がったの。

 大学教授の一家は、命からがら逃げ出してホッとした時、ドジ男君が駆けつけて燃える家の中に娘の名前を呼びながら入って行ったの。

 娘は周りの人が止めるのを振り切って燃える家の中に入り、小太刀を持って火に包まれるドジ男君に抱き付いたの。

 娘は燃える体から魂が抜けると、前を飛ぶドジ男君の魂と小太刀の形をした光が見えたの。

 娘は迷うことなく、ドジ男君の魂を追いかけて、この星まで来たの。

 もう少しでドジ男君の魂に追いつくと思った時、小太刀の形の光が、娘の魂を二つに切り裂いたの。その時、幾つかの小さな魂が飛んだの。

 娘の魂の二つに切り裂かれた一つは私エンマの中に入り、もう一つはシオリの中に入ったの。

 娘の魂が入った時、私、エンマは、この世界の風土病で死にかけていたの。

 娘の魂が入ったことで寿命が延びたの。あとどのくらいもつか解らないけど。

 私はドジ男君の魂がこの城に入ったのを見て探したの。

 エルフの娘が子供を産んだと聞いて、その子供を見に行ったわ、その子供から

ドジ男君の魂の輝きが見えてとても嬉しかったの。

 これからも頑張るのよ。太郎君、私、エンマこと栞も、シオリも頑張るから。」

と言ってシオリとエンマ様は寝室に行ってしまった。俺は

『なんだってー!エンマ様が、シオリが栞だって...。』

なんとなく、違和感があったが、俺は混乱しながら、その夜はまんじりともしないで過ごした。

 魔法鑑定の日、当日になった。



 

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