第8話 魔法鑑定の日 仲間は狼!
俺は10歳になり、魔法鑑定の日を迎えた。俺は魔法判定の儀に着る豪華な衣装を着させられた。シオリは来年ということで見学していた。
俺は一応魔王の息子なので魔王城内のやたらに広い謁見室で、俺一人が魔法鑑定の儀に臨んだ。
俺は魔王の前に出る。魔法鑑定用の魔石に触れるが何の反応もしない。魔王は
「フン、屑め、我が城から出て行け!」
と言われ、魔法鑑定の儀に着る豪華な上着を、魔王の取り巻きが剥ぎ取る。シオリが青い顔をして謁見室から出て行った。
俺は魔法を使えないと判定されたから、魔王の一族から一般の平民になる。
魔王城及び城下街からも出て行かなければならない。
謁見室の隣に部屋に私物が置かれている。ドワーフ親方の所に出入りする時の革製の衣服を身に着ける。腰に守り刀を差す。背負子には鍛冶師の証の大きな槌と金床、手斧、石弓の部品の入った袋等が載せられている。
その背負子を背負い、弓と矢20本の入った矢筒、動物の胃袋で作った水筒を肩から掛ける。背負子の上から雨除けの大きなマントを掛ける。
魔王城城門に向かう、その間、魔王の取り巻きや、腰巾着、義理の兄弟?実は違うがヘンリケとヘンフリの兄弟が、俺が後継者争いから脱落したのが嬉しいのかニヤニヤしながら、
「魔王一族の面汚し!とっとと出て行け!」
等と言って俺をなじる。
俺は城門を出ようとすると、城門の陰から、エンマ様が俺の贈った簪と笄を差して現れた。
エンマ様は俺の手を握り
「元気で暮らしてね。」
と言って握った俺の手の中に何かを残した。
俺は城門を出て手の中を見ると、エンマ様の宝物である魔法の袋と木の小札があった。木の小札には
『魔法の袋あまり入らないけど大事に使ってね エンマ』
と書かれていた。
俺は城門を出ると深々とエンマ様に頭を下げる。
この世界では、このような習慣はないが、朝夕の稽古時で組手をする際、頭を下げる礼法を行うのでエンマ様だけは俺の行動がわかり、エンマ様も頭を下げる。
頭を上げるとエンマ様の目尻が光る、目に手を当てていた。
俺は背を向けて城下街を抜け、城下街を囲う城壁の門を抜ける。
城壁の門を抜けると、シオリと、手に俺の贈った槍を持った三人娘が待っていた。シオリも俺の贈った簪と笄を差して、俺の手を握り
「元気でね。」
と言って握った手の中に、袋と木の小札を残した。木の小札には
『私の貰っていた小遣いを集めたの大事に使ってね シオリ』
と書いてあった。エンマ様もシオリも親子だなと思ってクスリと笑うとシオリが
「今あんた、不埒な事を考えたでしょう。」
と言って俺の頬をつねる。シオリの目に光るものがあった。シオリは三人娘の後ろに隠れる。
三人娘のレベッカが袋を渡しながら
「何か、これから必要な物が無いかと思ってシオリと三人で考えていたの。
まず、三人とシオリの共同では包帯と大きめの布、私からは針と絹糸よ。元気でねカール。」
と言って、軽く頬にキスし、次にアンドレが袋を渡しながら
「私は圧布用の針と糸、針刺しよ。元気でねカール。」
と言って、彼女も軽く頬にキスし、次にクリスティが袋を渡しながら
「私は魚釣り用の釣り針と糸よ。元気でねカール。」
と言って、軽く頬にキスすると、シオリと三人娘は泣き出した。俺は
「ありがとうございました。」
としか言えず。深々と頭を下げる。シオリも三人娘も頭を下げる。頭を上げると、シオリも三人娘も号泣していた。
三人娘からもらったものは、俺とエンマ様が考案した物だが、これは抜かった持ってこなかった。だからこそ有り難い。
しばらく歩いて、魔王城が遠くに見え、人通りが無くなった場所で背負子を降ろし、石弓の部品を出して組み立てる。石弓のハンドルを回し歯車で弦を引っ張り、弦を固定するタイプだ。
石弓を組み立てたので、作動確認のためハンドルを回して弦を引き、矢を番えて、木にとまっている鳥を狙って撃つ。上手く当たった。これを昼食にするか。目指すのは火山の麓、生前は日本人、温泉に入りたい。温泉の湧く場所を探しながらいくか。急ぐ旅ではない。
俺が魔王城から出てから、毎日の日課の朝稽古を一人でする。座禅を組み、守り刀で素振り、居合を抜く。少し変わったのは自然の中で、大型獣に襲われたり、狩をしたりしていたためか視力が上がり遠くが見えるようになり、聴覚が上がり遠くの音が聞こえるようになり、味覚が鋭くなった。
味覚は苦い物や、辛い物がより強く感じるのが問題だ。ただし、舌の上に乗せただけで毒物が判るのは有り難い。
俺は狩をしながら鉄等の鉱石を探す、守り刀から鉱物の種類と在りかを教えてくれる、守り刀が直接脳に語り掛けてくるのだ。俺は特に日本刀を作りたいので砂鉄をできるだけ集める。
城から出て1ヶ月ほどたったある日、森の中で何か獣が争う声がする。俺は争う声の方に向かうと、大きな熊と戦う1頭の狼がいた。よく見ると戦う狼の後ろには怪我をした狼がいる。戦う狼は後ろの狼を守るようにして戦っているため大きな熊に押されている。
俺はそんな健気な狼を見て、狼に加勢することに決めた。
俺は石弓に矢を番え、熊の目を狙って石弓を構えて矢を射る。熊の目に当たり、矢はその勢いで熊の脳を打ち抜く。熊はクタクタと倒れ絶命する。
いきなり熊が倒れたので、狼は熊を倒したのが誰かと周りを見渡す。
俺が姿を現すと狼は歯を剥き出して俺を威嚇する。
狼は、俺が10歳の子供であるうえ、敵意が無いと思ったのか、心配そうに怪我をした狼の所に行く。
俺は熊を解体する。毛皮を剥ぎ、肉を切り取り狼の方に投げ与える。
狼は、その肉と俺を見比べていたが、その肉をよく噛んでから、怪我をした狼に渡してやる。
俺はどんどん肉を切って狼に投げ与えてやる。俺は、動物の胃袋で作った水筒を出して、水を垂らして見せる。背負子から俺が作った金盥を出して、水筒の水をその中に入れて狼の前に置く。
狼は金盥を咥えて、怪我をした狼の前に置き、二頭でピチャピチャと水を飲む。
狼が水を飲み終わるのを待つ、その間も熊の解体をする。
熊の胆(い:胃ではなく胆嚢)や残った肉を干していく。
狼達から少し離れた所の木を手斧で切り倒して木材を組んで小屋を作る。
怪我をした狼の様子をみる。頭部と右後ろ脚に傷があり、後ろ脚の傷が特に酷い。もう一頭の狼は、敵意が無い俺が怪我をした狼を診るのを許し、治してくれという目で俺を見ている。
俺には治療魔法どころか魔法が全く使えない。どうしょう、縫うか、倒した熊の大腿骨を咥えさせる。レベッカから貰った針を火であぶり消毒してから絹糸を通して、後ろ脚の傷を縫う。包帯を巻くとき折れているので、小屋を作るときにでた、木で添え木をしてやる。頭の傷も縫ってやる。
怪我をした狼を、解体した熊の皮に寝かせて小屋の中に引きずり込む。もう一頭も当然のように入ってきた。狼二頭と俺が入ると少し狭いが、まあいいか。
狼の怪我が治るまでここを仮の拠点とするか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます