第6話 ドワーフ親方

 エンマ様が、稽古参加を明言した翌朝、トレードマークの黒いドレスから、短めの黒い貫頭衣、ズボンを穿いて出てきた。前世で読んだ日本書紀に出てくる絵本の男性や出雲大社の大国主命(おおくにぬしのみこと)の服装にそっくりだ。

 俺とシオリが座禅を組むと、エンマ様も俺達をまねて座禅を組む。

 魔核を意識して深く呼吸をする。魔素が体を巡る。

 俺たちはストレッチをする。エンマ様が

「これは...私の体も随分と硬くなったものだ。」

と言って体をほぐしていた。次に突きや蹴りをする。エンマ様は俺達が下げたサンドバッグを殴る。その方がやり易いそうだ。

 俺の作った鞘付き木刀を腰に差してから、三人で素振りをする。

この世界(魔王城)では、両刃の剣で腰から縦に下げている。日本刀のように腰に差すことはない。

 居合道の礼法の後、一本目「前」を抜く。エンマ様は俺達のするのを見て、時々何故このような形になるのかと鋭い質問をしてくる。

 俺はまだ5歳になったところだが、前世で剣道の為にと、高校に入ってから始めた居合道で、剣道も居合道も爺がやっており、剣道では俺は突き転がされ、居合道では見ていれば解る、解説書を読めと言って説明されなかった。ただ時々隣で栞も居合を抜くときは懇切丁寧に、いわゆる手取り足取りで教えていた。

可愛いは正義だ!。それを隣で聞いていたのと、対人の動きを想定するとある程度予測がつくので説明できた。

 その都度エンマ様もその形をとってみている。

 最後に魔法を使っての組手をする。俺とシオリがまず見本をみせる。エンマ様が

「シオリ、今度からは火の槍以上の魔法を使ってはけませんよ。」

と釘を刺す。俺とシオリで30分程組手をする。今度はエンマ様が俺の前に立って組手をする。

 エンマ様が水魔法の氷の塊を俺に向かってぶつけてくる。俺は、それをどんどん手や足を使って打ち払うと、エンマ様が焦れて、滝のような水を俺の頭の上に降らせる。

 さすがにこれは無理、ずぶ濡れになった俺を見てエンマ様は、シオリがいたずらをした時のようにニンマリと笑う。

 シオリが

「お母様は、何とおしゃっていましたかね。」

とニヤニヤしている。エンマ様は今度はシオリに向かって

「では、シオリお相手を。」

と言って、シオリの前に立ち魔法をぶつけ合う。

 シオリの火魔法がエンマ様の水魔法を相殺し、逆に水魔法が火魔法を相殺する。

 今度はシオリが焦れてきて、火の雨を降らせる。エンマ様の魔法の発動が遅い、危ないと思って俺は体中に魔素を巡らせて、スピードを上げてエンマ様に飛びつき抱きかかえるとそのままの勢いでシオリの火の雨の魔法圏外に逃げ出す。

 危ない危ない、もう少しでエンマ様と一緒に火達磨になるところだった。

『エンマ様が閻魔様でなく、火達磨か...。』

等と思って笑うと、エンマ様が俺の頬を指でつねって

「今また、不埒な事を考えたでしょう。」

と言って笑う。

『エンマ様を間近に見ると絶世の美女なのに、目に険があるのが玉に瑕だな...。』

等と思っていると

「今度は、微妙に不埒な事を考えたでしょう。」

と言って、また頬をつねられた。横からシオリが

「いつまでママを抱いているの。」

と言って反対の頬をつねられた。酷いシオリが原因なのに理不尽だ。

今後の朝稽古では、戦略的な滝のような雨や火の雨を使わないことにした。

 二日後、エンマ様が朝稽古の後、ドワーフ親方と連絡が取れて、鍛冶師見習いとして来ていいと言われた。

 その日の昼からドワーフ親方の鍛冶屋に行くことになった。

 俺は火に強い革で出来た貫頭衣を着て出かける。体の左右を革紐を使って絞り、腰は革紐を巻いてある。前世のベルトのバックルのようなものは無い。

 ドワーフ親方は俺を見て、鍛冶屋にある一番大きく重い槌を渡しながら

「振ってみろ。」

と言う。周りにいる兄弟子たちがニヤニヤしている中で、金床に赤黒く熱した大きな鉄の塊が置かれる。俺は

『鉄の温度が低い。炉に十分な空気が送られていない、ふいごのようなものは無いようだ。』

そんなことを考えながら体に魔素を纏わり付かせて、筋力を上げて槌を振る。

 周りにいる兄弟子の笑い顔が凍り付く、顎が下がり口があんぐりと開いていく。驚いている。

 ドワーフ親方が相槌を叩き、鉄の塊を叩き延ばしただけの両刃の剣が出来上がる。日本刀のような凄味が無いのが残念だが、ドワーフ親方は充分これで喜んでいる。思っている以上に技術力が低い。炉にふいごぐらい取り付けてもいいものか。

エンマ様と相談できないし...。今後の課題だな。

 ただ、体の基礎体力を上げるのには鍛冶師の仕事が丁度良いようだ。

 俺が6歳になり、シオリは5歳になったある日、三人で朝稽古をしていると、城の中から何やら叱責している声が聞こえる。

 エンマ様が稽古を中断して状況を見てくると言って城内に入って行った。

 しばらくすると、エンマ様が俺やシオリと同年代の女官見習い三人を連れてきた。

 この三人は、身分の高い家の子女が礼儀作法を身に着けるため女官見習いとして城に上がった子供達で、他の女官見習いと区別するため、腰の革紐の上に黒と白の帯を巻いている。

 この三人は、エンマ様や俺達が朝稽古しているのを見て笑っていたのを見とがめた女官長に叱責されたらしい。

 この三人を叱責できるのは女官長か正妻のエンマ様ぐらいだそうだ。

 エンマ様は女官長に

「妾付きにして、妾が面倒を見る。」

と言って三人を連れて来た。

 この三人はシオリと同い年5歳で、第二大臣で公爵の次女のレベッカ、侯爵の3女アンドレ、ウォルコック辺境伯の三女クリスティの三人で、エンマ様が三人娘と呼んで可愛がっていたので、いつの間にか俺やシオリも三人娘と呼んでいた。

 この三人娘を交えて一緒になって朝夕の稽古をした。

 三人娘と最初の朝稽古の時、いつもどおり座禅を組む。

 いつの間にか三人とも軽くいびきをかいて寝ている。俺やエンマ様、シオリも座禅を終えて立つが三人娘達は気付かないで座ったまま寝ている。

エンマ様が立ち上がって、怖い顔で警策を持って三人娘の後ろに立ち肩をピシリ、ピシリと叩く。俺は警策は眠気などを覚ます道具だと教えてエンマ様に作ってあげた。俺やシオリが居眠りしたら叩く気満々だったのが、三人娘のおかげで早速役に立ったようだ。俺は

『エンマ様が閻魔様になった。』

と考えると、エンマ様が

「今また、不埒な事を考えたでしょう。」

と言って頬をつねられた。

 起きた三人娘に魔核と魔素の流れを感じるようにと説明してもう一度座らせる。

 それ以後、三人娘はシオリと同じように座禅を組み瞑想すると、魔素が指先に集まりやすくなり、魔法の発動までの時間や間隔が短くなり魔素の量が多くなったと言って、喜んで座るようになった。

 俺達は三人娘とストレッチをしてから、サンドバッグを相手に手刀や蹴りを行う。三人娘達にも俺は鞘付き木刀を作ってあげた。それで、素振りや居合道を抜く。三人娘達と組手をすると彼女達は土魔法を使えるようだ。レベッカはその他に木魔法も使えるようだ。

 朝夕の稽古、ドワーフ親方の所へ行く以外は魔王城内にある王立図書館に行く。

この国の言語は都合よく日本語で書かれている。ただ本は革や木簡だ。将来紙を作ろう。

 エンマ様もよくここで本を読んでいた。エンマ様の許可もあり、俺もシオリも三人娘も王立図書館に入ることができた。この国の識字率は異常に低い。

 エンマ様は俺が難しそうなこの国の法律書や技術書を読んでいるのを見ても何も言わなかった...?

 シオリが三人娘に絵本を見せながら読んでいた...?

 シオリは、いつの間に字を覚えたのだろう...?

 

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