第5話 エンマ様の参戦

 俺は5歳になり、シオリも4歳になった。二人で毎日早朝、時には夕方も裏庭の大きな木陰で座禅を組み、ストレッチをして筋肉をほぐす。サンドバッグを相手に殴ったり蹴ったりする。最近では二組の鞘付き木刀、太刀と小太刀を作ったので、その木刀で素振りをしたり、剣道形や鞘付き木刀を使って居合を抜いたりする。

最後に組手をする。魔素切れを起こしていつもへとへとになって帰り、半分寝ながら夕食をとるとベットに入って爆睡する。

 いたずら好きのシオリがこの10ヶ月の間、女官達に何も悪さをしないで寝るのをエンマ様は不思議そうに見ていた。

 次の日の早朝、いつものとおり二人で裏庭に出かけようとすると、エンマ様がそっと俺たちの後をつけてきた。

 俺達は裏庭の木陰で座禅を組み瞑想する。

 シオリは座禅を組み瞑想すると、魔素が指先に集まりやすくなり、魔法の発動までの時間や間隔が短くなり魔素の量が多くなったと言って、喜んで俺の横に座るようになった。

 俺も魔素を纏っている時間が長くなり、魔素をある程度足や手に集めて強化することができるようになった。

 俺たちはストレッチをしてから、木に下げたサンドバッグを相手に殴ったり蹴ったりする。木刀で素振りを何度もする。その後、木刀による剣道基本技稽古法を、お互い礼法後、交互に基本1から基本9まで行い、礼法を行う。

今度は剣道形を礼法後、太刀の形から小太刀の形まで交互に行い、礼法を行う。

 その後、俺たちは木刀の太刀を持ち、向かい合って礼法後、居合道の一本目「前」から十二本目「抜き打ち」まで行い礼法する。それを3回行う。

 シオリはこの10ヶ月でとても綺麗な剣道形や居合を抜く。

4歳児とはいえエンマ様に似て美人で目つきが鋭い。その鋭い目つきが剣道形や居合と相まって迫力を増している。

 居合道が終わって、後方に木刀を置き、お互いにスーッと離れる。お互いに礼法を行い、俺とシオリは組手をする。

 俺は魔素を体に纏っていく。シオリの手の指先に魔素が集まる。シオリの魔力が高まり、右拳の魔力が膨れ上がり、火の魔法が槍の形になって俺に向かって飛ぶ。

 この10ヶ月でシオリの魔力量が上がり、小さな火の玉から大きな火の玉へ、そして火の槍へと魔法の力も上がった。シオリの火魔法の色は赤よりも鮮やかな赤、紅色だ。

 俺はその火の槍を左手の裏拳で殴り折る。今度はシオリの左拳に魔力が膨れて

火の槍の魔法が俺に向かって飛んでくる。これを俺は今度は右手の裏拳で殴り折る。

 シオリは次から次ぎへと火の槍を飛ばしてくる。

 俺もそれを飽きることなく拳や手刀、足を使って折っていく。

 そろそろシオリの魔素が枯渇して魔力量が上がりにくくなり、魔法の発動の間隔が長くなってきた。今日の朝稽古はこれで終わりだなと思った時、シオリがいつもいたずらするときに見せるニヤリとした笑いを浮かべる。

 シオリは何かするつもりだ、彼女は頭の羊の角、魔臓の魔素を両手に送る。魔素が両手に集まり魔力量が上がっていく。両手がすごい輝きになる。火の魔法で火の槍の更に上の魔法、大きな火の槍が出来上がってくる。

 俺も魔素を更に体に纏って、手に魔素を集めようとするがこれだけ大きな火の槍は手では無理だ足に魔素を集める。

 シオリの頭上に大きな火の槍の魔法が出来上がり、俺に向かって大きな火の槍が飛んでくる。俺はその大きな火の槍を飛び蹴りで弾こうと飛び上がる。その途端、大きな氷の塊が大きな火の槍を押しつぶし、俺とシオリの頭上から滝のように水が降ってくる。

 大きな氷の塊で火の槍は相殺され、俺は地面にたたき落され、シオリも魔素の枯渇と滝の勢いで顔からうつ伏せに倒れる。

 俺もシオリも何事かと思って顔を上げると、鬼の形相のエンマ様が腰に両手を当て睨んでいる。

 美人は怒ると怖い。エンマ様はその上、目付きが鋭いので迫力満点である。

『本当にエンマ様は閻魔様だな。』

等と思っていると、エンマ様が俺に近づき右頬を摘まみながら

「今また、不埒な事を考えたでしょう。」

と言って、そのまま力を込めて立たせる。今度はシオリに近づき、シオリの左頬を摘まみ立たせると、俺達の頬を摘まんだまま城の中へと連れていく、痛がる俺達を引きずるようにしてエンマ様の部屋へと向かった。

 城の女官達は何事かと思って見ているがエンマ様の形相の凄さで声が掛けられないでいる。

 ただ何人かの若い女官は、シオリが俺を巻き込んで何かいたずらをしてエンマ様が怒っていると思ってか薄笑いを浮かべている。

 エンマ様は部屋に入ると俺たちの頬から手を離すと

「カールを殺す気!」

と言って、シオリの頬を叩こうと手を振り上げる。

 俺はシオリの前に体を入れ換えてエンマ様の平手を受ける

「ビタン!」

という大きな音がしてエンマ様の手のひらの形が俺の頬につく。

 叩かれたと思ったシオリも驚いたが、叩いたエンマ様もシオリから俺にいつの間にか換わっていたので驚いていた。俺は

「ごめんなさい。シオリは悪くないのです。僕がシオリに協力をお願いしてこのような稽古をしていたのです。

 エンマ様は、今は魔臓や魔管が無くても発達すると教えてくれました。少しでも発達させようとこんな稽古をしていたのです。」

と答えるとエンマ様は

「解ったわカール...。カール貴方の魔素の使い方は独特で、火魔法、水魔法、木魔法、土魔法、風魔法、治療魔法のどれにも該当しないわ、誰もこのようには使えないでしょう。ただ、魔法とも言えないので魔法鑑定では...。

 そうね10歳になっても魔臓や魔管が無かったり、発達せず魔法が使えなかった場合を考えて、何か技術を身につけなさい。そうすれば、この魔王城から出されても生活できるようになるでしょう。」

と言ってくれたので、俺は前世で知識と経験のあった

「鍛冶師、刀工になりたい。」

と答えると、エンマ様は

「刀工というのは解らないけど、城下街にある鍛冶屋のドワーフ親方を知っているから、そこに弟子入りするように手配してあげる。」

と言ってくれた。エンマ様は

「ところで、二人とも仲が良くてなによりだね。

 今後、朝からやっている稽古とやら私も混ぜともらうとしよう。

 だって、今日みたいにシオリが暴走すると危ないでしょう。」

と言って、エンマ様はわざと目を鋭くして見せる

『アア~怖い!シオリもこんな顔つきを練習すると出来るのかな?まだ居合を抜いている時ぐらいしか目付きが鋭く出来ないが、エンマ様に比べると可愛いもんだ。』

等と思っていると、エンマ様がまた、俺の頬を摘まんで

「今また、不埒な事を考えたでしょう。」

と言って笑っていた。

 今日一日、エンマ様の鞘付き木刀を作っていた。

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