134話 種目決め
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本校の体育祭は何というかまぁ、普通で、良くも悪くも個性のない普遍的な種目が並んでいた。
綱引き、玉入れ、騎馬戦、リレー、応援合戦。
これぞ体育祭と言える様なメジャーな種目だけど、個人的には障害物競争やパン食い競争、借り人競走は欲しかった。網にかかって淫らになる海鷺さんとか、パンを食べようと必死になってジャンプする海鷺さんとか、くじ引きで好きな人を引いてしまって俺を………いや、これは砂流を選ぶか普通。やっぱ借り人競走は無しで。
とりあえず、その競技に参加する人をこの授業時間内に決めて、上級生に選手表を渡さないといけないのだ。
「まぁ、そうなるよなぁ………」
全員強制参加の応援合戦は例外として、他4種目中少なくとも1人2種目は参加しなくてはいけない。そして我がクラスは体育会系よりインドア派が多いクラスである。
そうなると比較的楽で手を抜いてもバレなそうな綱引きと玉入れに票が流れるのは道理。そもそもあまり体育祭を楽しもうとする生徒なんてごく一部。俺だって実行委員になっていないならこんな必死こいてやってないだろう。多分同じように綱引きと玉入れに立候補する。
しかしこれでは騎馬戦とリレーの参加者があまりにも少な過ぎる。俺ら実行委員がそっちに回ってもあと数人は、こちら側に乗り換えてくれないと、この無駄な時間は永遠と続いてしまう。
「みんなはコレやりたいとかある?」
俺は何一つとしてやりたく無いけど、実行委員の他3名に問いを投げかけると、
「あたしは何でもいい。全部怠いし」
女の何でもいいは何でも良く無いのがセオリーだが、彼女は何でもいいらしい。
「俺は綱引きより玉入れ(意味深)、リレーより騎馬戦(意味深)の方がいいけど、仕方ないからリレーするよ」
含みのある言い方をしながら、自分の名前をリレーに入れる砂流。
「うーん。僕は運動音痴だから、出来るだけ責任重大なリレーとかやりたくないんだけどなぁ。あ、でも友達に足速い子いるから、僕誘ってこようか?」
「ありがと。お願いできる?」
「オッケー」
柳生田君はニコニコしながらテーブルから離れ、よく一緒にいるクラスメイトに声をかけては、「ほんと!?嬉しい!!」とここからでも聞こえるぐらい大きな声でキャッキャッと喜ぶ。
「誘ってくれるらしいよ」
「砂流さん口閉じようか」
「…………………………何の話?」
「気にしないで巳扇さん」
「そ?だいぶ頭抱えて悩んでるけど」
違うよ?コレは悩んでるんじゃなくて、妄想が捗り過ぎて鼻から吐血してるんだよ?
「あと1人か……」
「海鷺さんには声掛けちゃったし、都楽君は断られちゃったしね」
身内を巻き込む前に俺自身の身を削り、具体的には俺が「お願ーい」と反吐が出る気持ちを抑えながらも男子達に媚び売って、票を獲得したが、あと1名足りない。
「リレーでバテる龍斗くん解釈一致で助かる」
「砂流さん黙ってようか」
よほど反省会がしたいのか、一向に口を閉じない砂流に軽くガンを飛ばし、シャーペンを埋まらない空欄に何回か押し当てる。
都楽君は運動が苦手なだけあって断られたが、海鷺さんはリレーと騎馬戦を誘ったら二つ返事で答えてくれた。俺と一緒に、という条件付きで。願ったり叶ったり、棚からぼた餅。
にしても柳生田君が運動音痴だというのは初耳だった。体育の時間では女子(特にお胸やお尻)しか見ていなかったが、持久走の最後尾は都楽君と砂流で、その前には運動苦手な文化部とか帰宅部の連中がいた記憶がある。彼の所属するグループはもっと前にいた気がするが。
「私やるよ。……走るの苦手だけどね」
「本当!?助かるよ、ありがとう巳扇さん!!」
「……………別に」
素っ気ない態度をとりながらも、自ら空欄に自分の名前を書く。
「もう解散でいい?」
「そうだね。今日決めるのはメンバーだけだし」
「怠いから帰るわ」
「「………………?」」
俺と砂流が同時にクエスチョンマークを頭上に浮かべると、巳扇さんは、
「早退」
と言って自分の荷物を持ち、教室のドアへ向かう。
不良なんて、今時珍しいな。なんて思いながらも、思い返せば何度もあったから気に留めない。
クラスメイトも「またか」と言った具合で、その正々堂々としたサボり行為を見ては、同じように気にせず自分たちの雑談に花を咲かせる。
「…………………………」
静かにため息を吐く担任も、一言も喋らず居眠りを再開する。寛大なのか執着がないのかわからないが。
その居眠りを妨げるように、生徒の名前が気持ち悪いぐらい大量に書かれた用紙を提出して、その授業は終わり。
開放感に身を任せ、何となく周囲を見渡すと、海鷺さんと目が合い、彼女は柔らかい笑みを返してくれた。
手を振る右手がぎこちなくなってないか、貼り付ける顔は自然か稲香、不安になりながらも表面を取り繕って返事した。
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