107話 どちらsummer

 ♡


「ねぇねぇ、夜麻ちゃんは今日の戦利品もう読んだ?」


「ううん、まだ。…………まさか、回収し忘れたやつがあるとか?」


「…………………あるかな?……いや無いはず。無いと信じよう。ってそうじゃなくて」


 アゲハさんは口に手を添えて、こそこそ話をする小学生のようにニマニマしながら、


「すっっっっごいのあった」


「マジで!?」


「マジでマジで!○○○先生のやつがマジで、こう、無茶苦茶エロくって!ほんと神!今アニメやってる○○○の○○○と○○○の、○○○カップリングで!想像の上の上のクオリティで描かれていて!」


「ヤッベ読みてぇ………」


 帰っていいですか?


「今夜はやばいですよ夜麻ちゃん。もうティッシュなしでは見られない感じの」


「そんなに泣けるのかい?僕にも教えて欲しいな」


「いいよいいよ!○○○先生の○○○っていう…………………………は、準人くん!?」


「やぁ、久しぶりだね花織かおり


 そう言って現れたのは先日お会いした猪野元さんだ。後ろには軽いため息をつく武田が。


「え!?えっ、………え!なんで!?」


「やめてアゲハさん………苦しい……」


 私はアゲハさんに抱き付かれ、いや締め付けられている。つまり、おっぱいに潰されている。


 男の人はおっぱいに挟まれて死にたいとか言う人も多いらしいけど、実際にされると圧迫されるわ息ができないわでそれどころじゃ無い。酸素ォ………息が………。逆に考えるんだ、あげちゃってもいいさと。


「いやぁ御手洗いで武田さんとバッタリ会ってさ、聞けば砂流さんもいるから、ちょっとご挨拶でもーって思ったら、女の子二人で何やら盛り上がって………ガールズトーク?してるし」


「あまり首を突っ込まないほうがいいトークですけどね」


 追加でため息をつく武田は、私達が何を話していたのか既にわかっている様子。もう何も言うまいといった感じで、元の席に座り込む。


「またお会いしましたね砂流さん」


「ど、どうもです」


「そーんな緊張しなくていいよ、プライベートなんだから。あぁ、でもスカウトは諦めてないけどねー」


「あはは………そうですか」


 諦めて無いんすか。


 そして武田の隣へスムーズに座る猪野元さん。挨拶だけと言いながら長居する気満々だ。


「で、ここはなんの集まり?」


「「…………………………………………」」


 言えない。BL同人誌のサークルなんて言えない。いや言っても良いけど100%引かれる。


「サークルの打ち上げだおー」


「へー、そうなんだ。なんのサークル?」


「同人誌」


「「ちょっ!?」」


「………どーじんし?何それ」


 助かったぁ。


「あ、知らない?えーっと同人誌ってのはね、えっt」


「簡単に言うと二次創作の漫画です。オリジナルもあるけど」


「なるほどねー。え?じゃあ、それをみんなで作ったってこと?」


「そーだよー」


「………………砂流さん。…………鳳さんが下手なこと言わん前に口塞いどけば?」


「承知」


 ちょっとコンビニでくち○せ買ってくるわ。なんでも売ってるコンビニなら売ってるやろ。ついでに亀○縛り用の縄。


 百合のSMには興味ないが、これもBLの修行、予行練習と思えば余裕だ。


 私がコンビニに行こうと立ち上がると、


「あっ!!テメェこんなところにいやがったか猪野元っ!!」


 眉を寄せて額に深い渓谷を作った一人の男性が現れて、猪野元さんに怒鳴りつける。


「あー!久しぶりじゃないですかクガさん!!いやぁ変わらないですね〜!」


「………あっ、お前鳳か。よっす。相当出来上がってんなぁお前も………ってそんな場合じゃねぇんだよ!!」


「「…………………………どちら様?」」


 武田と発言が被ると、それをおかしそうに笑いながら猪野元さんは、


「えへへ、先輩」


「おい後輩。お二人がまたやり合ってる。俺だけじゃ手に負えねぇから止めるの手伝いやがれ」


「はーい」


 猪野元さんは年齢に似つかわしくない少年のような返事をすると、クガと呼ばれた人に連行されていく。


「あー、その前にさ花織」


「なーにぃ準人くん?あ、もしかして、私の愚痴聞いてくれんの?」


「そうじゃなくてさ、明後日空いてる?」


 不意を突かれたのかアゲハさんは酒を思いっきり咽せた。


「っ!?……………きゅ、急に変なこと聞かないでよ!!」


「変な事じゃないと思うけどなぁー。で、どう?空いてる?」


「ま、まぁね。空いてなくはないけどさ……」


 アゲハさん顔真っ赤ですよ。飲み過ぎですね。


「よかったー。いやぁ、久しぶりに会ったんだから、みんなで鈴鹿のところ行こうかって思ってさ。先輩も行きますよね?」


「あー、確かにな。明後日は………何もねぇはずだわ」


「……………………一気に酔いが覚めた」


 そう呟くアゲハさん。喜ばしいようなそうでもないような。


「うん、わかった。私も明後日空けとく」


「じゃあ、現地集合でいいかな?また細かいことはメール送るから」


「話済んだらさっさと行くぞ。騒ぎになったら色々とめんどくせぇ」


「じゃ、三人ともまたねー」


 猪野元さんは「バイバーイ」と手を振り、クガという人は終始苛立ちながら、早足で去っていく。


「………………………なんだったんだ……」


 嵐のように去っていった二人組。カップリングする余裕もなかった。今の一瞬で出来たけど。

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