104話 選ばれたのは…

 ♤


「鳥豪族って………………」


「んだよ。文句あっかよ」


「いや、どう考えても豪族じゃなくて貴族じゃん。なに今更名前伏せてんの?」


「無許可だからに決まってんだろ」


「マックは?」


「ミーハーだからいいの」


「舐められてんぞマクド」


「叩くなら中の人にしてくれ」


 俺は濡れ衣っす。お話は勘弁いただきたい。


 日が落ちて多少は下がった気温でも、真夏の夜はまだ暑い。暑さで寝付きが悪いここ数日は、クーラーを夜中いじめないと寝られない、新しいSMプレイと化している。


 とはいえ夜ではなくまだ夕方で、こんな早々と寝るつもりはないのですが。


「こんなクソ暑い日に鳥豪族は無いわー」


「ならお前はどこ行きたかったんだよ」


「特に無い」


「…………………授業後のリアクションペーパーみたいなこと言うな」


「無いわー。やっぱ鳥豪族無いわー」


「はい今鳥豪族バカにしたなお前。企業さーん!こいつ喧嘩売りましたー」


「大手が見てるわけねぇだろ」


「…………………さっきからメタいぞ。ネタ切れか?」


「いや?中の人が現実逃避したいそうで」


「……………………現実逃避したいならメタ発言少なくならね?」


「知らん。本人に聞け」


「それにしても遅いね、鳳さん」


「急に舵切るな。沈没する」


 エンダァァァァァイヤァァァァァ。氷山目掛けて突っ込んでやる。


 今こうして下らない会話をしているのは、言わずもがな鳳さんを待っているからである。流石に直前予約は無理だったが、運良く席が空いていた。彼女が来るまで俺たちは水をチビチビ飲んでいた。


 たしかにクソ暑い猛暑で焼きたて熱々の焼き鳥を食べるのはどうかと思ったが、後の祭りだ。アフター・ザ・フェスティバル。


 でもアルコール類が豊富で未成年でも十分食べるものがあり、そして何より打ち上げの空気に合うような店が、ここしか思い当たらなかったんだ。


 たしかに女子がキャッキャウフフとはしゃげる店じゃ無いのは承知だけどよ、俺女装してても女子じゃねぇんだわ。文句あんなら帰れ。お前主役でも問答無用じゃ。


「で、何食うか決まった?」


「肉」


「…………内臓系にするか?」


「とりまアイス食うわ」


「なるほど。砂流さんの肉はデザートでしたか」


「そうだよ。一般常識を押し付けんな。私は漫画家やぞ」


「じゃぁ蜘蛛食うか?露伴先生見習って」


「新人にはまだ早いっす。すいません調子乗りました」


「…………………お前みたいな奴が酒で悪酔すんのかもな」


 せめて趣味と本性はバラさんでくれな。俺のも暴露したら頭冷やすために氷山にぶつけてやるよ安心しな。


「……………………………………」


 言おうと思っても、つい口籠ってしまうものだ。


 こういう言葉がスッと出てこないのは多分俺がキザ男じゃ無いからだろう。ホストとかは向いてないって証拠だ。


 でもこういうのは、後になればなるほど言いにくくなるのも、俺は知っている。


 だから、いつも同じバカにするようなイントネーションを意識しつつ、


「………改めておめでとうさん。完売してよかったな」


「………………………………………………………………………………キモッ!!」


「はぁ!?」


「いやいやいやいや今のは相当気持ち悪いぞ武田くん」


 人がせっかく祝ってやったと言うのに、こいつは……。


「お待たせー!遅れちゃってごめんね、ちょっと後片付けに手間取っちゃって……。2人はもう注文した?」


「いや、今から帰るとこなんでいいですよ。コミケお疲れ様ー!かいさーん!!」


「え?……………………え!?」


 シャワーでも浴びてきたのか、俺たち同様にコミケとは違う服で登場した鳳さん。悪いけど帰ります。


「悪かった謝るから座って。私お腹すいた鳥豪族最高」


 何も食ってないだろ。


 プライドもクソも捨てた砂流がビターンとテーブルに乗っかり、立ち上がった俺の服の袖を引きちぎるほど掴んで引っ張る。シワになるからやめろ。


「……………………調子いい奴だな………」


 打ち上げる前にこのやり場のない感情を埋めたい所存です。

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