101話 シークレット性癖

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 ぶっ倒れた時とかの緊急用に買った冷却シートが初めて役に立った。とりあえずパイプ椅子三つ並べて寝かせて、鳳さんの小道具として順にしていた扇子で仰ぐ。多少蒸すかもしれないけど薄手の長袖パーカーを覆いかぶせて、起きた時に失神しないようにする。


「お前はしゃぎすぎ」


「…………私も恥ずかしい思いしたし……」


「それでも度が過ぎてたぞアレ」


「あぁ…………大丈夫だよ……2人とも」


「あ、起きた」


「うん。……ケモ耳見たら元気出た」


「………どういう仕組み?」


「眼福で体力の補充ができました」


 でも少し顔色悪い。コスプレ撮影会はお開きにしよう。


 キャラコス崩壊してしまうけど背に腹は変えられん。生地の薄いパーカーを着て前チャックを閉じ、鳳さんが元々着ていたロンスカを履くことで、トラウマにならずに済んだ。


 見た目はもうツノを生やした一般人。ハロインの軽い仮装レベル。


 しかし俺のサイズのパーカーを鳳さんが着ると、胸がやけに強調される。俺もそうゆう系したほうがいいのかな?


 何とか回復した鳳さん。俺はほっと無い胸を撫で下ろす。あったら怖いけど。


「ケモ耳は全てを救うのです」


「ケモ耳ねぇ…………。何がいいんだか……」


「………………………………は?お前それ、マジで言ってんの?」


「……………なんか変なこと言った?」


「………………………………………鳳さん、落ち着いて。深呼吸しよ?」


「フシュゥゥゥゥゥ…………………。………コォォォォ……………」


 見るとあれほど弱っていた鳳さんが、ギラギラした目で奇声を発し、背筋を伸ばした正した姿勢で座っている。


「…………………砂流、とりあえず謝罪を」


「………………………すいませんでした」


「先生。ここに座ってください」


「え?あっ、うん」


 威圧的な態度で隣のパイプ椅子をポンポンし、砂流を座るよう促す。


 そしてテーブルに置いてあったメガネを即座に装着しては、


「いいですか?」


 とさっきまでのアレは何だったんだと言わんばかりに立ち上がり、砂流の前に立って神妙な面持ちで語り始める。


 コスプレのキャラとしては眼鏡がミスマッチですが、もう今更。スイッチが入っちゃったんなら仕方ないし、言わせてあげたほうがいい。何より個人的にも熱弁いただきたい。


「やはりまず『もふもふ』ですね」


「……………もふもふ?」


「人間は常にもふもふを求める生き物です。例外はありません。もし求めてないヤツがいたらソイツは異端児です、アブノーマルで非常に可哀想です」


「あっハイ……」


「人間にはない『もふもふ』を持っているのが獣達です。獣達が持つもふもふを人間が触覚で得ることによって、人はもふもふという感覚を手にするのです。ええ、たまりません。ずっと触っていたい、このまま抱きしめたいという感覚に陥るのです。それなら布団で良いでは無いかという人もいるかもしれませんが、それは違います。布団と獣で絶対的に違う物があるんです。そう、命です。生命の温かみという、心地よい、なんとも心安らぐ温度があることによって、もふもふは昇華するのです」


「………………………………」


「そして『ケモ耳』です。もうたまりませんね。うへへ。おっと失礼。興奮しすぎてよだれが垂れてきました」


「はいハンカチ」


「あぁ、ありがとう后谷くん。………こほん。ええ、人間にない『もふもふ』を兼ね備えた存在、それこそが『ケモ耳』なんです。尻尾があれば尚良いです。ええ最高ですとも」


 メガネクイッ。


「人間は当然人間に恋をします。他の生物に愛情を向ける事は出来ますが、恋愛感情を持つのは難しく、子孫を残すのはやはり人間なんです。そこに、+‪α《プラスアルファ》というやつです。人間に、ケモ耳を足すんです。人間に不足しているもふもふを取り入れるのです。要は人間に限りなく近い獣なんです!これなら恋できます!愛を育めます!!………あぁ、もふもふしていたいケモ耳。抱きしめたい尻尾!」


「うん、触ってるけどね、耳付きカチューシャ。撫でてるけどね、尻尾」


「まとめますとつまり、…………『もふもふ』は『最強』なのです」


「…………………………お、おう」


「さすが鳳さん。俺の言いたいこと全部言ってくれる」


 さすが理解者。


「ちな、以上はリア友からご提供いただきました。許可はいただいております」


「ははは。台無し……………」


「今に始まったことじゃないだろメタ発言」

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