100話 シャッターチャンス

 ♤


「恥じらい顔!恥じらい顔こっちにお願いしやす!!」


「笑顔素敵ですよ〜!!あふぅ素晴らしい!!」


「なぜ私だけケモ耳を装着しなければならんのだ………」


「そりゃ獣人キャラだからに決まっているだろ?」


 何言ってんだお前。そんなん常識だろ。


 俺は仕返しと嫌がらせに見せかけた撮影衝動を本能の赴くまま垂れ流し、自分で作った愛着もありきでスマホのシャッターを押しまくった。


 表情は硬いがそれはそれで全然いい。衣装を着てるのが砂流とかもどうでもいい。目の前にいるのは異世界から飛び出してきた獣人キャラ。ただそれだけ。


 俺と鳳さんは真夏の夜に耳元で飛び回るハエのように、砂流の周りをぐるぐると周回し、ポージングと表情の指示をしてはシャッターを切りまくる。


「今、私は冷静さを欠こうとしています」


「ちょいキレ顔もいいな。腕組み仁王立ち、眉間にしわ寄せしてカメラを見下す感じで一枚いいっすか?」


「私は今素でキレてんだけど」


「うわっほぉぉぉう!!もう最っっっっ高ッ!!!目閉じてアッカンベーとかいう無茶振りしていいですか?」


「……………………………人間って怒りを通り越すと呆れるんだね」


 アッカンベー。


「ぐほぉぁ………………っ!!………ありがとうございますぅ………………」


「既製品のケモ耳と尻尾買ってよかったー」


「…………………………私は複雑な心境です」


 個人的にはもーちょいサービスして欲しいなー。小道具あったらポージングもバリエーションが増えるが、荷物が異常になるからなぁ。失敗した。キャリーケースもう一個引きずって来るんだったな。


「はじめて人気コスプレイヤーの凄さがわかった気がする」


「囲まれると恐怖感あるしな。むさい男達に集られる水着美女とか、言葉通りに受け取ったら事件の匂いしかしない」


 尊敬するし嫉妬もする。でも楽しむのが根本なんだから、尊敬した瞬間には嫉妬消えている。スゲェの一言で終わるような、薄っぺらい尊敬なので。


 元のキャラがしそうなポージングからしなさそうな顔まで撮ったが、いやいいっすねー。特にガチギレ顔。超ウケる。


 待ち受けにしよっかなーとか考えていると、


「そろそろアゲハさん撮っていい?疲れた」


「交代だってさ、鳳さん」


「クソォ………。最後に『スカートめくり上げてくださいお願いします土下座』アングル欲しかった」


「死んでもやらない。アゲハさんでも無理」


「そこを何とか………」


「…………………………もう脱ぐ」


「やめてくださいすいませんでしたそれだけはご勘弁願いたく心の底から反省していますので何卒」


「…………………………はぁ」


 2人に同情するぜ俺は。


 鳳さんは一眼レフをケースにしまい、砂流は水を一口飲んでから、自らのスマホを構える。


 鳳さんの衣装は和服、着物を着た鬼。


 膝関節まである長い振袖と漆塗りされた下駄、俺では出来ない大胆に開いた胸元と、機能性とエロを兼ね備えたミニスカート丈の裾。


 額には鬼を象徴する長いツノと、原作に倣った鬼族特有のメイク。ただマイナス点をあげればカラコンを入れたせいでメガネになってしまってるところ。今は外してもらってるおかげでキャラ崩壊は免れている。


 彼女の魅力を最大限に発揮するキャラを見つけた瞬間、雄叫びをあげるほど喜んだ。作ってくれた原作者様ほんと感謝感謝です。


「………………………………………………」


「…………………無言で撮るのやめろって」


「いや、あまりにもエッチくて」


「………………たしかに、これは来るものがあるね………」


「だしょー!?」


 たしかに見られているのと撮られているのは少し違う感じだからな。


「我ながら完璧すぎる。…………俺は伝説に関わったのですね」


「…………ちょっと恥ずかしい…………」


「「赤面あざっすッ!!!」」


 羞恥心に耐えきれずしゃがみ込む鳳さんをいじめるかごとく、さらに連写していくどちくしょう2人組。


 ローアングルで撮ったり無茶振りをしたり、完全に暴走している砂流と、それを含めて写真に収める俺。


 その後数分間シャッターを切り続けたが一向になれる様子はなく、鳳さんは頬の熱で茹で上がってしまった。


 そして石のように動かなくなってしまった。


「…………………………………どうしよう」


「…………とりあえず、熱さまシート貼って、なんか羽織るもん被せないとトラウマ化してしまう」


 せっかくの期待の星を潰してたまるか。

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