74話 プールのお話
♤
電車に揺られバスに揺られ、目的地に到着。
「着きました」
「そっすね」
「混んでるな」
「そっすね」
「朝何食った?」
「そっすね」
「暑さで頭イったな」
「いけぐ」
「死ねよ」
「そっすね」
完全に頭が逝かれてらっしゃる。こういう怪しい人について行ってはいけません。お兄さんとのお約束ですよ。
着いたのはもちろんプール。室内でもよかったが近くになかったため、今回は市民プールにした。
市民プールと言ってもここは競泳プールでもあり、50mプールと25mプールの2種類があって、夏休み前や夏休み中には水泳部達の大会があるらしい。今日はたまたまその大会日とは被らず、一般開放されてるため入れたが、もし大会があったら別の場所に行く事になってしまった。
ただ単純に暑さに負けたのか、あるいは憎たらしいリア充イベントしに来たか、はたまた俺たち同様にダイエット目的とか運動不足解消とかの類か、プールにはまあまあな人が集まっていた。
「久しぶりに来たなー」
「俺は始めましてだけどな。ここ」
「おっとお前童貞でしたか。そんな貴重な童貞を捧げさせて申し訳ありませんねぇ。ささ、どうぞ気持ち良くなってお帰りくださいませ」
「周りに誤解を招く言い方するな!沈め殺すぞ」
小さい子もいるんだぞゴルァ。ほら、あそこの女の子首傾げてる。このままパパに「童貞ってなーにー?」聞いたらパパ明日から生きていけなくなっちゃう。
「茶番してねぇでさっさと入るぞクソ暑い」
外は灼熱だ。早くプールの冷たい水に入って涼みたい。
ゲートオープン開放したところで、湿度がサウナ並みにムシムシした空間がお出迎え。室温もまあまあ高いから、サウナほど地獄じゃないけど、換気したくなる。
ちなみに。サウナのダイエット法はあまりオススメできない。筋肉使って動かないしいいかな〜と思った過去の自分だが、仕組みを理解して絶望した。
あれは体の水分が汗を掻いて出て行ったわけで、痩せたわけでもなんでもなく、風呂上がりの水分補給で消え去るダイエット。ただの脱水だ。
さらに言えば、汗と一緒に老廃物も流れて健康的と勘違いされていたサウナは、最近の研究によると汗に含まれているのは99%の水分と体に大切なミネラルと判明。あまりオススメ出来ないどころかしない事をお勧めする。
口に出していないと言ってもこれ以上はサウナ職の人に怒られる。
まぁ何が言いたいかと言うと、こんなとこでずっと耐えてる受付のお姉さんすげぇって話。
「いらっしゃいませー」
「高校生2人お願いします」
「はーい。ありがとうございます」
この人はバイトなのか、かなり若いお姉さんだ。高校生か大学生か、わからないが俺らと同じくはしゃぎたい年頃だろうに。お勤めご苦労様です。
と言っても、俺たちは遊びじゃなくてトレーニングの為に来ている。ため込んだカロリーを消費するためのフィールド。浮き輪なんていう泳ぎの邪魔になる物を持ち込むなんてもっての他。
「なにレンタルしようとしてんの?」
「浮き輪」
「…………武田さん。自分でナレーションしときながら借りますそれ?」
「仕方ないだろ泳げないんだから!!」
受付の横。レンタルコーナーからそれっぽいのを一つ引っ張り、追加料金を財布から。
出費が、俺のお小遣いが、だがここで引いてたまるか!海鷺さんと遊んだ代償なんだ!
「……………わかった。泳ぎ方教えるからそれ置いてこい。………すいませんレンタル無しで」
「は、はい。わかりました」
「……………………………」
教えるとか言ってお前、俺を沈める気だろ。日頃の腹いせに。
ったく。せっかくお姉さんに貢ごうとしたのによー。
「ではご説明いたします。お客様から向かって左側が男性、右側が女性更衣室になります。プールに入る際はシャワー浴びて、体の汚れを洗い流してからお願いします」
「わかりました」
その辺のマナーは弁えています。
「じゃ、僕ちゃん先に着替えて来る〜」
「待てや。お前女じゃろがい」
「……………チッ」
チッ、じゃねぇんだよ!何さらっと男子更衣室に向かおうとしてんのお前。受付のお姉さんは騙せても俺は騙せんぞ。というか普通に犯罪じゃワレ。
「俺はこっち!お前はあっち!」
「はいはい、わかりましたよ。…………せっかくの逆ハーレm」
ブツクサ言いながら女子更衣室へ向かっていく。
今なんつったこいつ。逆ハーレム?そんなんねぇよ。あるのはシワシワになったおじいちゃんと腹のたるんだおじさんの背中だけだよ。
「え?あの、お客様………、女性………え?」
やっぱり勘違いされてる。今日は2人とも中性的なファッションだし、勘違いされやすいとは思ったけどねぇ。ここまでとは。
お互いTシャツ一枚にジーンズという、「ちょっとそこのコンビニまで」ファッション。俺に関しては完全に手抜きだが、砂流の場合はこれを見越して決めてきたまである。
まあ俺がそれを見過ごすわけないがな。
「……あいつにポコチ○付いてないっすよ」
「ポ、ポコ!?」
あらら。下ネタに弱い系でしたか。いいっすね〜。
軽く赤面しているお姉さんおもっと話したい気持ちと、写真に収めたい気持ちをギュッと堪えて、更衣室に向かう。お姉さんもお姉さんで仕事があるんだ。邪魔しちゃいけない。
ちゃんと砂流が女子更衣室に入ったのを確認してから俺も入る。
お姉さんは狐に摘まれたように、終始キョトンとしていた。赤面しながら。
着替えながら「……………アリだな」と呟く俺でした。
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