73話 緊急事態宣言

 ♡


「時に砂流、夏といえば?」


「海」


「つまり?」


「水着」


「すなわち?」


「最強イベント」


「しかし」


「私たちは一緒に泳げない」


「なぜなら?」


「性別バレするから」


「まとめると?」


「水着イベントは見逃すしかない」


「お主もクズよのぅ」


「いえいえテメェ程では」


 久々に来店いたしましたマクドナルド。クーラーの効いた店内で、季節限定マックシェイクを吸い上げながらクソ話。


 夏本番になり気温も徐々に上がっていき、屋外では日陰で突っ立ってるだけでも汗をかくほど。たとえ用事がなくてもついついコンビニに入りたくなってしまう季節だ。


 そんな夏は大イベント盛り沢山。


 海!プール!つまり水着!


 花火!夏祭り!すなわち浴衣!


 夏休みとは、学生に与えられた若さを存分に発揮する期間であり、青春の舞台にはうってつけの場所なのだ。


 まぁ夏休みの本来の目的は「教師の学習」らしいのですが。教員達が授業で教える内容を夏の主に8月中に学び覚える期間らしく、そのため学校には生徒がいても授業ができないため夏休みとしてるそうで、もちろん諸説はあります。


「そして夏休みといえば課題な」


「現実を突きつけるな殺すぞ」


 脳内夢一杯のお花畑でいいじゃんか。夏は始まったばかりだぞ?そんなに生き急いでると早死にするぞやったね。


「お前さ、最近でっけぇ悩み抱えてるだろ」


 ギクリとして私はシェイクを飲む手を止める。


「……………………はい」


「どうすんだ?」


「どうしましょう」


 そう。私は今、人生に関わる大きな問題を抱えている。その大きさゆえ武田にもバレていて、そしておそらく武田も抱えている問題だ。


 それは。このお腹。


 先日のスイーツバイキングの後遺症がまだ消えないのだ。ついには夏休みに入ったというのに、たるんでしまった体は引き締まらず、こうしてシェイクなどの甘くて冷たい物を摂取してしまう。


 男装のへんげ技術を応用し、スイーツバイキングから終業式までの数日はなんとか誤魔化しができても、クラスの連中に誤魔化しができても、コイツには通用しない。一発でバレた。


 しかしこれは武田も同様。


「お前はどうすんだ?」


「俺は一つ案がある」


「んじゃ解決だろ?」


「たわけ。だったらここに来てお前と話しているわけねぇだろ」


「…………………ん?」


 ちょっと話が見えないのですが?


「確かに俺は肉体改造のプロですよ。骨格的に女装は難しくても、ありえない努力の結果、見事に華奢なボディを手に入れましたよ」


「おん」


「でもそれはまとまった時間があってこそなせる技。こんな短期間にやったら脂肪は消えても筋肉がついちまう」


「なるほど」


「そこで提案なんだ」


 武田は飲んでいたアイスコーヒーを机に置くと、


「効率的で合理的な案だが、でもそれには欠点がある」


「おん」


「その欠点を補うには砂流、お前の協力が必要だ。もちろん俺もお前に協力する」


「なるほど。だいたい読めてきた」


「本当か?」


「つまりアレだろ?1人でいれば自我を失う危険があるから、2人でやってブレーキ役を作るアレだろ?」


「………………以心伝心、気持ち悪っ!」


「お前の脳みそがポンコツなだけやい」


 随分と前にやったような感じで少し懐かしくも感じる。


「ダイエットには有酸素運動より無酸素運動、つまりはランニングより筋トレ。でも俺筋肉は付けたくない。それに一部の筋肉を刺激するのは効率が悪すぎる。なので今回は全身運動にしました」


「なる、ほど?」


「つまり」


 武田はアイスコーヒーを飲み干して、


「プールに行って死ぬほど泳ぎ散らかします」


「……………わーい」


 季節限定マックシェイクの糖分が一気に感じなくなった。

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