65話 ノンシュガー
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あめぇ…………。こんなん食いつずけたら甘さでゲボ吐くわ。砂糖が胃を殴ってくる。
「大丈夫?顔色悪いけど……」
さすがの演技力も内部からのダメージには耐えきれず表情に出てしまったか。都楽くんに勘付かれてしまった。
「あぁ、ありがとう。でも、大丈夫だよ。ちょっとクーラーが効きすぎて肌寒いだけだから」
なんならさっきカラオケでガンガンクーラーつけてたからね。砂流が暑そうにしていたもんだから部屋の温度下げて、バリバリ歌って体温あげたし。体力めっちゃ持ってかれたし。
それっぽい嘘を吐くが都楽くんなんだかは訝しげ。そこまで顔色悪いかな?もしかしてファンデ塗りすぎた?
「そう?ならいいんだけど……。店員さんに温度下げてもらえるよう頼む?」
「いやいいよ。食べてればそのうちあったかくなるし、全然大丈夫」
むしろ暑くされたらそれは普通に地獄だ。
この話題を続けたら俺のメンタルが目の前の抹茶クリーム並みに美味しく滑らかに仕上がってしまうので、話題をチェンジ。
「でも意外だな。都楽くんもこういう店来るなんて」
男なら多少なりとも抵抗する類いだと思うんだけど。
「そうかな。別に嫌いじゃないよ、甘いもの。この店は何度か来たことあるし、味もちゃんとしてるからね」
「そっかー」
俺は皿の上にある抹茶プリンをすくって食べる。
ちゃんとしてるのか、お前ら。パクリ。モグモグ。ゴックン。
まぁ、普通に美味しいし甘さ控えめで嫌いじゃないのだが、健康に良さそうな気はしないな。ブラックコーヒー飲みたい。
「盛り付け方も考えれば、バイキングといえど結構美味しそうに撮れるし、デコレーションも力を入れれば、そこら辺の店と同じくらいには映えるからね」
「なるほどねー。………ん?」
「どうかした?」
「あ、いや、イン○タグラムとかしてるのがちょっと意外かなーって」
彼が他人の目を気にするタイプとは思ってなかったから、俺はちょっと意表を突かれた。
「正確にはイン○タじゃないけどね。でも、そういうネットに公開してるのは本当。…………よかったら見る?」
そう言って都楽くんはスマホの写真を表示させ、俺に渡してきた。
まだ頷いてないけど、正直興味はあった。他人の目を気にしないタイプと勝手に思っていた分、そんな写真が本当に撮れるのか素直に疑問だし、何より想像できない。
彼が盛り付け方や写真の角度、光の向きとかを調整して撮ってるとは、にわかには信じがたい。むしろその証拠を見せてもらわないと多分納得できないだろう。
そのスマホを受け取ると、そこには一枚の写真があった。
「どうかな?結構自信作なんだけど」
「…………なに……これ……………?」
驚いた。素直に驚愕した。
これは写真というより、リアルな絵のような感じがした。
端的に言えば、それは美しかった。
数枚の皿にそれぞれ違う種類のケーキやお菓子が鎮座し、後ろにはパフェが並んでいる。カラーリングがハッキリして立体感もあり、どれもこれも美味しそうだ。
どれかがメインとなって他全部が引き立て役になっていない、全てが主張しつつ主張し過ぎず調和し、バランスよく盛り付けられている。
窓際で撮ったのか、光の入り方もお洒落でピント調節も素晴らしい。パスタなどのサイドメニューもしっかりと写っており、コーヒーカップやドリンク類も入ってる。
店の商品を美しく、バランスよく撮られた一枚。正直言って度肝を抜かれた。
「これ、すごいよ……!」
半分素で褒めてる。もう半分は独り言。
画面をスライドするとまたしても映えた写真。先程とは打って変わって主役がいる。
スプーンで抹茶パフェをすくっただけの画像なのに、自然とよだれが出てくるような、口を開けて食べたくなってしまうような、そんな写真。
「これ何処で撮ったの!?」
甘いものが特別好きじゃない人でも、この写真を見たら誰しも店に足を運びたいような、そんな感情にさせる写真達が並んでいる。
どれもこれも美味しそうなものばかり。見ていて飽きない。
「あー。……最初の2枚はここの店だよ?」
「……………………………え?」
危うく男ボイスで聞き返すところだった。
この店で?バイキングで?この写真?
もっとお金のかかるちゃんとした店(バイキングがちゃんとしてない訳ではないけど)で撮ったのだと思った。
よく見てみるといくつか見覚えのあるケーキもある。俺の皿には乗らなかったが砂流の皿に乗っていたケーキ達だ。
「パフェとかは出来合いのやつに一手間加えれば結構様になるもんだよ」
「……………………」
たしかに。この写真の抹茶パフェ、俺の目の前にあるプリントめっちゃ似てる。別のグラスにクリームやフレークを入れ、プリンとアイスを乗せてトッピング。ほとんど別物でわからなかった。
「……………………」
一通り写真を見て分かったことはただ一つ。
この男、やりおる。
もし。もしもだよ?
もしコスプレカメラマンに育成方向をシフトチェンジすれば、ぽっと出の素人レイヤーも輝かせるほどの腕に育つだろう。オス豚どもがブヒブヒ鳴くような神アングルからのショットを撮るに違いない。コミケとかでは難しいかもだけど、スタジオを借りて照明、背景、ポージングの全てを微調整できる環境で撮影すれば、神になることさえ夢物語ではなくなる。
そうとわかれば全速前進。行動あるのみ。
「都楽くん。アニメとか好き?」
「え?あ、うん。まぁ、好きだけど……?」
「現実にいたらいいなぁって思うような、可愛いキャラとかいない?」
これが俺の考えたコスプレ話題の誘導術。軽いトークトーンから入ったら最後、アリ地獄のように抜け出すことは不可能。確実に仕留める。
「現実にいたらいい可愛いキャラ?……うーん、そうだねぇ。……………特にいないかな」
「え?」
パードゥン?
「可愛いキャラは何人かいるけど、それはアニメのステージで一番輝くわけで、現実に引っ張ってきちゃったら、『なんか違うな』って思うんじゃないかな?そもそも、現実に連れてくることは夢物語なんだけどね」
「あぁ、………うん。そう、だね」
夢物語じゃないよ。コスプレという形なら現実に引っ張ってこれるよ。
しかしそんなことを言っても、彼の言ったことは一理あるし、説得するには難しいほど筋が通っている。
「………………………」
確実に仕留めると言ったな。あれは嘘だ。
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