66話 チョコバナナ(意味深では無い)

 ♡


 この三段構成の噴水は誰しも見たことがあるだろう。頂点から茶色い液体が溢れ出し、それに色とりどりの果物やパン、時にはマシュマロなど様々な具材を挿入し、コーティングする。


 欲張りすぎてはいけない。つけすぎると果物の味が負けてしまう。


 慎重に、慎重に………。


「………………パーフェクト……」


 これこそ砂流版黄金比。液体と果物の比率がバランスよく、両方の味が楽しめるであろう状態。


 我慢できずにその場でパクリ。マナーはなっていないかもだけど、致し方なし。そもそも客が少ないからそこまで迷惑はかけてないはずだ。


「………………ふわぁ……」


 素の女声が出そうだったけどなんとか持ち堪え発した男性ボイスだが、はっきり言って男らしさは無い。


 こんな甘くて美味しいものを食べて表情筋が緩まないわけがない。


「もう一本」


 一本で済むわけがない。このまま終わるはずがない。


 竹串にぶっ刺さったイチゴとマシュマロとパンを、一気に挿入。それぞれつけ過ぎない程度に付着させ、脇の皿に退避する。その繰り返し。


 流石にマナー違反を何度もするようなクズじゃないので、ちゃんと持ち帰って食べる。


「…………………………」


 バナナの竹串を見つけた。


 私は無言で手に取り、無駄な動きのないスムーズな動作でバナナを突っ込んだ。


 液体とのバランスなどお構いなしに、何度も何度も出したり入れたりしてバナナの色が見えないくらい液体をつけた。


「………………なんかエッチだな……」


 取り出してみると光を反射させキラキラするバナナを、この場でしゃぶりたいのを我慢して、これを量産する。


 閃いた。次の新作これにしよう。スイーツを元にした甘くてほろ苦いボーイズラブストーリー。素晴らしい。


「砂流さん見てください!こんなに美味しそうなクレープが出来ました!」


「すごい!完璧だね!」


 よし。作品ではヒロインにクレープ生地の服を着させて「僕を食べて♡」にしようそうしよう。


「私もチョコフォンデュやっていいですか?」


「なるほど3pね」


「…………は、はい?」


「……………ごめん今のは忘れて下さい」


 いつものペースで返しちゃダメなのに。砂流、一生の不覚。


 私がやってたのはチョコフォンデュでした。と言っても勘違い要素少なかったし、結構気づいたと思うけど。バナナも本物だしね。


「それにしても、少し作り過ぎなのではないでしょうか?」


「………………しまった」


 やり過ぎ都市伝説。


 皿の上はフォンデュ済みの物が大量に積まれていて、竹串が剣山と化していた。黄金比につけたフルーツ類も、上から流れてきたチョコで染まってしまい、ほとんど何がなんだかわからない状態。しかしバナナだけはわかる。


「……………みんなで食べよう」


 私一人で食べるには無理がある。




 ♤


「今日のは写真に撮らないの?」


「前に撮ったし別にいいかなって」


「そっか」


 甘くないサイドメニュー最高。


 ついこっちばかり食べてしまいそうになるが、ここは女子らしく甘いものと交互に食べねば。


「それに、人が食べてる最中に写真撮るってあまりいい印象無いじゃない?」


「まぁ確かに……」


「みんなと一緒に食べるから、食べる時のマナーみたいなのは大事にした方がいいと思ってね」


「なるほどね………」


 口の中にショートケーキの苺を放り込んだ。


 そのせいで都楽くんがボソッと呟いた「特に華月の前ではね……」に突っ込む事ができなかった。


「……どうかした?」


「あ、いや、うんん。なんでもないよ」


 果たして蒸し返すべき事なのか。


 たしか海鷺さんと都楽くんはいとこ同士と言っていた。だが、他にも二人の関係には色々あるのではないか。そうでなくとも、都楽くんや海鷺さんのどちらか片方だけが持ち合わせている感情もあるだろうし。


 いや良くない。ありもしない想像をして、二人を疑うのは良くない。誰だけの失態を晒して何も学ばなかったのか俺は。


「もしかして、写真撮りたい?」


「え?」


「ほら、今時女子って映えに敏感肌って聞くし、武田さんも写真撮りたいのかなーって」


 沈黙が長かったせいか、勘違いをさせてしまったのか。


「あ、ありがとう。………それじゃあ一枚お願いしようかな?」


「オッケー。じゃあそれっぽいの作ってくるよ」


 そう言って都楽くんは立ち上がり、「ついでにメロンソーダ入れてこよっかな」と呟いた。


 俺はコーナーを曲がって彼の姿が見えなくなった瞬間にスマホを取り出し、イン○タやツ○ッターでスイーツ画像検索し、映えてるであろう写真を漁った。


 自分の女子力の無さを痛感した。

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