54話 頭上に隕石が当たる確率より低いらしい
♡
席替え。
それは宝くじのような、確率の低すぎるギャンブル。
小中学校では、「好きな人と隣になったらどうしよう」とか「隣じゃなくて前後でもいいよね」とか、ありもしない夢を見ては、幾度となく現実に突き落とされ、なのに雑草のようにムクムクと育ち、次の席替えには同じような夢を持つ。
宝くじの当選確率は知らない。ただ、この世で最も当たらないギャンブルということは知っている。
例えば「十億円の宝くじ」を当てるのなら、「十億円分の宝くじ」を買わないと当たらないらしい。一等の賞金を狙うには、それと同じぐらいの資金を用意しなくてはいけない。
もうわかっただろうか?そう。十億円使って十億円当てる。それは自販機に百円入れてボタンは押さずにレバーを下ろし、入れた百円をそのままお釣り受けに落とすような行為。
流石にここまでとは言えないのかもしれないけど、好きな人と隣になるなんて夢のまた夢。割りに合わない賭けだ。
私は数学が得意じゃないし、あいつに聞けばそれなりの数値は出てくると思うがめんどくさいから聞かない。
例えば我々37名の1年3組で、私と龍斗くんが一緒の席になるには、私を抜かした36名の中からピンポイントで龍斗くんを引き抜かなくてはいけない。前後左右の席で考えて4回引けるとしても随分な数字になる。
宝くじよりましだが、どう考えても当たらない。
だがそれは同じ割合で、武田と離れる割合でもあるわけだ。
36名から武田が前後左右の席に座る確率は、とても低い。ある意味、とても割りのいい賭けだ。
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"…………」
「ゾンビみたいな面だ。あ、元からか?」
「特大ブーメラン。鏡みろカス」
だからその賭けに失敗した私は、ここ最近で一番落ち込んでいる。生まれ変わったら貝になりたい。
残念な事に今回も前後の席になってしまい、36分のいくつのハズレ宝くじを当ててしまった。唯一救いとすれば、人気の窓側後方の席で、前回とは逆転し、私が後ろであるということだ。
前回というか初期の席順番は、出席番号順で私の後ろに武田がいた。しかし今回は私が後ろ。背後は人間の死角であり、ムカついたら授業中でもどつける絶好のポジション。そう言えばシャーペンで刺されたこともあったなぁ。授業始まったら、消しゴムのカスを襟の中に入れてやる。ウケケ。
「そいじゃあ現代文のテスト解説はおわり。回収はしないから各自、持ち帰ってくれて構わない。テスト明けでみんなやる気ないだろうし、時間もそんなないから今日は授業しないけど、課題は確実に出せよ。平常点がつかないどころか、減点されるかも知れないから気をつけろー」
担任である星草先生はそういうと教卓横にある荷物置きに近い椅子にどっかり座り、
「あ、そうそう。合っているのにペケついてる奴は今出せ。この時間しか受け付けないから。そこは俺のミスだからちゃんと持ってこいな。ちゃんと加点する」
よっこらせと立ち上がり教卓へ立つ。何がしたいんだあの人。さてはノープラン?
私は現代文が得意だし、間違った問題なんてほとんどない。あってるのに減点されてる場所はないはずだ。
「ほら砂流。先生が間違い直ししてくれるってよ。この世に生まれてきてしまった間違い、直してこいよ」
「お前こそ地球の進化論に外れた生き物として生まれた間違い直してもらえ」
「来世はミジンコとして生きていけるよう、早めの進路相談してみてはどうだ?」
「その言葉そのままお返しするぜ」
「私は(BL)マンガ世界なら、主人公のワイシャツの第二ボタンとして生まれたかった………」
「ダメだこいつ。早くなんとかしないと」
勢いよくベットに押し倒され、スルスルとネクタイは解かれ、力尽くでパァンって破かれて、どこかに飛んでってしまうボタンになりたい。やっべ、鼻血が………。
「武田ティッシュくれ」
「なんだかんだ言って元気だよなお前。無人島に放り込んでもしぶとく生きてそう」
「無人島になんでも一つ持っていけるなら、私は龍斗くんを持っていくっ!」
「鼻血拭け。さもなくば出血多量で死ね」
「BLで死ぬなら本望だ!!」
3限目。現代文テスト解説後の席替え。ほぼクラス全員が妄想を打ち砕かれ現実に涙する中、1人だけ妄想を膨らませて鼻血していた。
こうして記念すべき高校初の席替えは幕を下ろした。
窓際後方にいる変態たちは、周りに聞こえない声量で、喧嘩のような茶番のような、雑するぎる雑談に花を咲かせていた。鼻血による。
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