40話 とは限らない

 ♡


「えっと、じゃあ、つまり。………海鷺さんの服をチョイスするために買い物に行ってて、俺はそれをデートと勘違いしたってこと?」


「そう」


「海鷺さんは頼れる人がいなくって、『従兄弟いとこ』である都楽くんが選ばれた」


「そう」


「だからアレはデートじゃなくて、ただのお買い物であり、ロッテより販売されているラクトアイスは?」


「…………爽?」


「正解!」


 私は今ファミレスに来ている。


 数百円のドリンクバーを頼んで数時間いられるここは、学生のたまり場になりやすいが今日はあんまりいない。


 都楽くんに「昨日何してた?」と振ったら呆気ないぐらい軽々と渡された「華月と買い物してた」というどストレート爆弾に、私は思わずコーラをむせた。


 話を重ねていくとどうやら我々の誤解であるらしいが、どうだろう。彼が気づいていないだけで、海鷺さんは好意があるのでは?


「…………だいたい僕が休日にデートするようなリア充みたいに見える?」


 見える。今私とデートしてる。


「そりゃ僕も男子だから、恋愛ごとに興味がないと言えば嘘になるけど、そのために時間を削り努力して枯れると知ってる恋をするなら、美味しいもの食べていたい」


 そう言ってメロンソーダを吸う彼。


 うん。白っぽいなこれ。あ、下ネタじゃないよ?白濁液とは一言も言ってないよ?


「都楽くん………、俺は信じていたよ!都楽くんが勝手にリア充になるような人でなしじゃないって!」


「リア充も人だよ」


 そしてついでに真実の愛は男同士である事を教えてあげよう。こっち来いよ!


「………華月は昔から不器用なくせに生真面目だからね。こうと決めたことはやり遂げようとするけど、変な方向に進む上に自分でそれに気づかないから厄介だし…………」


「…………………」


 今呼び捨てにしたのを私は見逃さなかったよ!華月って言った!華月って!私だって下の名前で呼ばれたことないのに!親父にも打たれたことないのに!


「だから妙な誤解はやめてほしいな。何度も何度も言うのは時間の無駄だし、リセットした高校でも変な噂広がったら、僕の居場所がなくなる」


「ん?」


 私があなたの居場所を作ってあげたいのは山々なんだけど、その前に一ついいかい?


「高校でも?」


「あー、言ってなかったっけ?僕と華月は同じ中学出身だよ」


「…………マジっすかー……」


「マジっす」


 私と武田も同じ中学だから人のこと言えないけど、やたら馴れ馴れしい口調はそのせいか。あとは従兄弟同士だからかな。


「もう聞きたいこと終わった?」


「余計な詮索してすいませんでした」


「いいよいいよ。夜麻くんのそこら辺は僕も信用してる。噂好きで本人の気持ちも考えずに、勝手に広めるモブキャラじゃないからね」


 言葉にトゲがあるがそこら辺も含めて愛してる。


「じゃあ友情の証としてさ、ちょっと不公平を治したいな」


「ん?と言いますと?」


「僕も下の名前呼んでほしい。夜麻くんは苗字で呼ぶのに、僕ばっかり『夜麻くん』だと、なんだか上から目線で言ってるみたいで心苦しいんだよね……」


「……………………………」


 あぁ、都楽神よ。いや龍斗神よ。あなたは人間の姿をした神様だったのですね。私は自らの心がどれほど荒んでいるかを知りました。さらにそのような褒美を与えてくださるとは………。身に余る光栄です。


 感謝の品とお供え物として今度BL本あげるから熟読してほしい。


「あー、そうだ。あともう一ついいかな?」


「なんなりとお申し付けください龍斗様」


「……………………あ、うん。……あのさ、実は昨日の買い物で華月に付き合わされて、色々とウロウロしてたらさ、駅近で夜麻くんらしき人見たんだよね…………」


「……………そう……ですか………」


 いたの!?あそこに!?しかも男装後に!?すれ違いは恋愛漫画だけでいいから、そこはちゃんと交われよ!物理的にも肉体的にも!?


 なにつかず離れずのラブコメしてるわけ!?そういうのはBL本でしようよ。リアルでも可!


「あれ?もしかして人違い?スタバに夜麻くんぽかった人いたけど…………」


「………………いました……」


 スタバにいた。ということは、あやつに連行された後である。通常版である碧さんに落ちたらしい真木との、男装状態でスタバデート。


 すなわち、浮気現場を見られた。


「あの、…………大変見苦しいかと存じますが、誠に申し訳ございませんでした」


 深々と土下座ならぬソファー上座をした。

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