36話 ガールズトーク(男子入り)
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海鷺さんに振られた妄想を勝手にして、絶望感を洗い流す様にブラックコーヒーを飲んだあと、教室にいるであろう海鷺さんを眺めようと廊下を歩いていた。
そして道中、血の涙を流す砂流を発見した。病院行ったほうがいいぜ。頭の方で。
廊下で内股歩きを意識しながら喉仏を潰して、スカートを直し前髪を確認。女モードのスイッチを入れる。
教室の扉を開けるまでには完璧にし、集まる男子の「やっぱ可愛いなー」という目線に気づかないフリをして席に座る。無論、窓側に座っている海鷺さんの目の前に。
「海鷺さんってお昼休みはずーっと本読んでるよね?」
「はい。面白いですから」
はうぅ。笑顔に浄化されるぅ。ずっと眺めていたい。
入学してから何度も見ている光景だが一向に飽きない。コスプレで使う私物の一眼レフを持ってこようか迷ったからな。
「何読んでるの?」
読書好きの彼女は愛用のブックカバーがあり、ぱっと見は本を変えていないように見えるが、本全体の厚さや栞が挟んであるページを見れば、前読んでいた本と同じかどうかは見分けられる。あと決してストーカーではない。
「今は太宰治です。前にも『人間失格』は読んだのですが、中学生ではまだ解釈不足だったので高校生なら読めるかなと思い」
「すごいね!私そもそも太宰治読んだことないよ!」
そして、その外見は既に高校生のレベルを超えている。中学時代はどのぐらいだったのか、ぜひ教えていただきたい!
「小説かー、本はどっちかっていうと漫画ばっかり読むからなぁ私。読んでもライトノベル止まりで、そういうザ・小説ってのは読んだことないなー」
ま、嘘ですね。会話を弾ませるためにはワンクッション必要なのですよ。あえて知らないフリをして会話を長続きさせるテクニックっす。ガンガン攻めるのは素人っすよ。
「そうですか?読みやすい純文学もありますしよ。夏目漱石とかもそうですし………。よかったら何かお貸ししましょうか?」
「いいの!?」
「はい」
ほら見たことか。戦略的勝利。
この本を熱弁すれば海鷺さんに好印象を持たれる可能性大。それに会話も盛り上がるし俺のオススメとかも通しやすくなる。近々ファッション雑誌渡そう。
「でも私もライトノベル読みますよ。結構面白いですし」
「マジ!?」
おっとこれはファッション雑誌追い越してコスプレ雑誌でもいいのでは?そっちに理解ある人にはファッションよりコスプレに興味が偏るから………。
いや、一概にも言えないか。ここは慎重に進めて行こう。今は焦る時期じゃないから、一歩づつ確実に。
「じゃあ今度オススメの本交換しようよ。私もそれまでに考えとくしさ」
「いいですよ。明日あたりにはこれも終わりますし」
「…………マジで?」
「マジです」
「すっご」
「オススメですから」
ニッコリスマイルありがとうございます!この笑顔百万円!
「でも私、太宰治って教科書で見たメロスしか知らないよ?」
「メロスはメロスで面白いですが、この人間失格は私小説、いわば自分の人生を小説に起こしたものなんです。そして書いた後に太宰治は自殺したことから、遺書とも呼ばれています。他にも素敵な本は沢山ありますが、それでもこれは私のお気に入りです」
おー。そこまで好きなのですか。
これはおふざけでは介入していけない範囲ですな。帰ったらもう一度読んで、明日までに熟読しなくてはいけないレベルだ。
「…………終わったら読ませてください!」
「はい!ぜひ」
「私も読んだことあるよ人間失格。いやーっあれを書いた太宰は天才だねぇ」
「ですよね。素晴らしいと思います」
「うん。…………とりあえず海鷺さんは急な参加者に驚いてほしいな。そして秋常さん、なんでそこにいるのかな?」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!!」
「呼んでないよ。あと具体的には上半身が窓から飛び出してるね」
廊下側から見たら下半身を突き出している様に見える。ぜひ学園アニメレベルの膝上20cmミニスカでやっていただき…………。あれ?
「…………ごめん海鷺さん、話また後で。ちょっといいかな秋常さん」
てか、なんでいるんだこいつ。
「いいですよー。んじゃ海鷺さん、今度の機会に人間失格を語りましょう!」
「は、はぁ……。行ってらっしゃい………」
「「行ってきます!!」」
なぜか可那と俺の返事が被った。
完全な蛇足、どうでもいい後日談だが、この俺と海鷺さんと可那が揃った時、「三大天使の降臨」としてクラスにいた男子間で密かに話題となったらしい。
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