35話 俺の尸を超えていけ!

 ♡


 昼休みの昼食は、マンガ的に言えば武田の目からハイライトが消えて、闇落ちヒロインと化して幕を閉じた。


 山火事をいち早く察知したネズミのように、私は急ぎ足で焼きそばパンを口に入れて、「お大事に!」と言って逃げてきた。


 しかしまぁ、私も都楽くんを探ってみるべきかな。海鷺さんは律儀な人だけど、都楽くんはテキトーなとこがあるから、素直に話してくれるかもしれない。


「………………待って、2人で飯食ってたら………。黒じゃないか?」


 付き合いたてのカップルは意味もなく昼飯を共にしているのが多い。とくに中庭の方は2人掛けのベンチが並んでいるから、パートナーを見せびらかす絶好の場所。学校側もリア充作りで差別化を図っているゾ。


「…………武田と飯食ってる場合じゃなくないですかぁ!」


 善は急げ。私は中庭の方へ行き先を変えて、歩き出す。


 道中、私と同じく昼飯を食べ終え廊下でもイチャイチャするリア充共に、こっそりと、ポケットの中で中指を立ててすれ違う。


「……………いないか……」


 窓から確認するに、都楽くんと海鷺さんの姿はなく、何気に期待していた男同士なのにベンチ横並びで一緒に昼飯を食べる勇者たちを探していたが、そう易々と見つからない。


 考えてみれば都楽くんは教室でご飯を食べるし、人目があるとこには近づかないタイプ。だとすると教室でお昼をしているし、そのままパソコンを構っているのでは?


 なら中庭に来たのは無駄足だったか。


「……………課金しますかぁ」


 昨日は大量の服を購入という思わぬ出費でいささか財布が軽いのだが、口を割らせるためにお菓子でも買って行こう。


 購買はそこまで遠くないし、チョコボールでも買いますかね。


「お?そこにいるのは碧さんの弟くんじゃないですか?」


 窓に張り付くのをやめて購買に足を向けた矢先、後ろから声をかけられた。


 碧などという存在しない身内の名前を知っているのは、私が知る限り世界に1人しかいない。


「………………………………」


「おいおいおいおい無視はねぇだろ!」


 ツンデレ設定を守るために、あえてそっけない態度を取る私。完璧演技!


 1人しか思い浮かばなかったが、予想通り後ろに立っていたのは真木だった。


 高速違反ギリギリの茶髪は昨日と同じだが、さすがにピアスは透明なものだった。ネクタイをゆるく締めて第一ボタンを外す様は、ヤンチャ系の鏡だった。


 ただチュッパチャップスをおしゃぶりの様に加えてると、なんか、その、………和む。


「ベタベタするな暑苦しい。梅雨はまだ先だぞ」


「冷てぇこと言うなよ。俺とお前の仲だろ?」


「グヘェ………!」


 い、今のセリフを保存したかった。人目があるところで「俺とお前のナカだろ」なんて…………!ダメだ。耐えろ!耐えるんだ夜麻!ここでツン期を卒業するのはあまりに早すぎる!


「なんか用?」


「用がなかったら話しかけちゃダメか?」


 ポケットの中で太腿をつねって耐えたのに、追撃するなよぉ。馴れ馴れしく喋るのは今後の展開に大事だけどさぁ、ちょっと気に食わないぐらい思ってよぉ。


 まぁおそらく、女バージョンの私である碧に、変なイメージ持たれたくないから、弟設定の私にもいい顔してるのかもしれないけど。


「どこ行くんだ?」


「購買」


「何買うんだ?」


「菓子」


「ついてっていい?」


「嫌」


「……………会話するある?」


「ない!」


 だから言ってるだろ。今はツン期なんだから甘くないの。チョコボールもチュッパチャップスも激甘だけど、ちゃんとあとで倍返しにして落とすから覚悟しておけ!


「てか便所行かね?」


「ヴグゥ…………ッ!!」


 まさかここで誘います!?連れションっすか?チ○ポコの見せ合いですか!?是非ともスケッチブック持って行きたいのだが、マジでアウトなので遠慮します。


 クソッ!ネタがあちらから来ているというのに、見逃さなくてはならないとは………、マンガを書くものとしても一個人としても、辛い決断になる。


「……………さっき、行ったから…………いい」


「だからなんで目から血が出るんだよ。………しかも泣いてるし」


 コインロッカーの時と同じく、目から幸せの赤い液体を流す。


「砂漠に住むなんとかトカゲは、敵に襲われた時目から血を出して攻撃するんだってよ」


「お前のそれ攻撃だったのか!?」


「そのあとほとんどが出血多量で死ぬ」


「死ぬの!?」

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