32話 お茶していない。コーヒーしている。

 ♡


 そんなわけで、駅近のスタバにてコーヒーしてる。


「ズビーーー………。ボボボボボ…………」


「もうちょっと美味しそうに飲んでくれないかな?俺の奢りなんだから……」


「姉ちゃんに近づくヤ○チン野郎に奢られても美味しかない」


「ヤリ○ンじゃねぇっての」


 なんとかフラペチーノのクリームだけストローで吸ってみる。うん、味がしない。


 服屋の設定をまた引っ張り、私は仮想の弟として振る舞っている。そしてそれを疑うことなく真木は鵜呑みにした。


「だからさー、連絡先ぐらいくれたっていいじゃんかよー。別に姉ちゃんさんに彼氏がいるって訳じゃねぇんだろ?ならいいじゃねぇか」


「だからさ、真木みたいなヤリチ○に近づけたくないの。姉ちゃんだって彼氏が欲しいって願望あるけど、理想の彼氏は真木じゃないの」


 私はボーイズなラブがしたいわけで、ただのラブがしたいわけじゃないの!そして彼氏はどっちかっていうと都楽くんだし、君にはぜひ目の前の弟くんとして欲しいねん!


「だからさ、俺は○リチンじゃねぇっての。別に連絡先ぐらい大丈夫だろ?合ってすぐ告るって訳じゃないんだからよ」


「テメェそれでもヤリ○ンかよ!強引にホテル詰め込んでさっさとヤれや男同士でオラァ!」という心の叫びをしたベロを噛んで耐える。


「それでも結局告るような奴と合わせられん」


「お前は結婚を認めない頑固親父か」


 星一徹、最終奥義。ちゃぶ台クラッシュ!!


 私としては磨けば光る岩石である真木の連絡先はぜひとも欲しいのだが、しかし、アカウントは一つしか持ってないし、この場で弟用アカウントを作るのは面倒くさい。


「頼むよー。一生のお願いー」


「たぶん50回ぐらいは使ってるお願いだよなそれ」


 それに今IDを渡してしまったら、即入力するだろうし、そしたら私のスマホの通知が鳴ってしまう。自作自演がバレ上に弟くんとのルートが粉々になる。


 うーん。どうするべきか。


 ムムムと考え、出てこないと判断した私は時間稼ぎと空腹に負けて、真木の背後にあるカウンターを指さし、


「そうだね。俺はチョコレートチャンクスコーンの温めた奴が食べたいな」


「人をヤリチ○と侮辱しておいて、奢ってもらえるとでも思うのか」


 伝わった………だと………?


 結構ニッチなギャグなのだが。波長が合いそうだな、ぜひカップリングを。


「釣りはいらないよ」


「足りねぇよ」


 100円玉をテーブルに置いてパシらせる。真木は真木で許してもらったと思ったのか、ウキウキしながらレジ待ちの行列に並ぶ。


 腕組みをしてうーんと悩む。


 先程も言ったが連絡先はむしろ欲しいのだ。しかし、弟のルートを塞がずに、そこそこいい空気を醸し出しつつ、男装バレしないような連絡先の渡し方が思いつかない。


 何気に頭の回る武田なら、脊髄反射のようにいい案が出るのだが、私にはない。


 武田に助けを求めたらたぶん「は?」で終わる。


 助けてドラ○もんと叫んで取り出すのは、秘密どころか一般販売されているひみつ道具、スマホ。


 検索欄にポチポチと入力。


『連絡先のもらい方』


「………そうだ。もらえばいいんじゃん………」


 私はあげることばかり考えていて、その選択肢を忘れていた。


 そうだ。そうだよ。何もあげなくても相手がくれるって言うならもらっちゃえばいいじゃんか。あー、なるほど。


 ググらずに解決してしまった。


「ほらよ。チョコなんとかかんとかだ」


「チョコレートチャンクスコーンだ」


 パシリもとい、おつかいを終えた真木は椅子に座って、


「で?くれるってことでイイんだよな?」


「…………さすがにチョコレートチャンクスコーン一個だと釣り合わないから、そうだね、月一でスタバを奢ってもらおう」


 こうして弟とのフラグを立てる。


「えー………」


「嫌なら構わないよ。俺はこいつ一個の料金を払って今の話は無かったことに………」


 かぷりとくわえた瞬間にチョコの甘さが口いっぱいに広がる。


「はははー。仕方ないなー………」


 どうだ。武田の罵声合戦で鍛えた我が会話術は。


 しかし喉も乾くなぁ。どうしよっかなぁ。初回サービスとしてなんとかフラペチーノおかわりといこうかしら?


「わかった。じゃあ、ID書いてくれ。それ姉ちゃんに渡しとくから」


 机の端からナプキンを一枚とって、バックからボールペンを出す。


「は?お前と連絡先交換すればいいだろ?そっから送ってくれれば………」


「真木なんて汚らわしい連絡先を俺の中に入れたくない」


「だからヤ○チンじゃないっての」


 渋々ながらペンを受け取り、インクがつきにくいナプキンに数字を書いていく。


「はぁ……。仕方ないから好みのタイプも探っておくよ」


「マジ!?やったーっ!!」


 有頂天になり真木は椅子から転げ落ちるほどのけ反り、体全身で喜びを表現する。


 私もミッションをクリアして、お姉ちゃん思いのツンデレ弟という設定を忘れていた。いかんいかん。


「これでまた会えるな!待ってろよ!未来の花嫁!」


「セクハラしたらケツ蹴り飛ばすから」


 それかお前のケツに「自主規制ピー」を突っ込む。むしろそっちの方がイイね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る