31話 運命じゃない出会い

 ♡


 結局、私は空想の弟の服と、自分が気に入った女物の服を買った。約30分ほどで上から下まで揃えられる店員さんのセンスは凄まじいものだったが、それ以上に漫画のキャラに着せたい服が増えちゃって、なんだかんだで買ってしまった。出費が痛い。


 スケッチブックの入る大きなバックでも、大量の服が入るはずがなかったので、駅の横にあるコインロッカーを借りて服を詰め込むとした。


 私の子供の頃とは違い(高校生はまだ子供だという定義は置いといて)、驚くことにコインロッカーがコインじゃなくなっていた。


 Suicaだった。


 たしかに私もSuicaで電車に乗ったから、駅のコインロッカーが電子決済でもおかしくないのだが、つい「時代だねぇ」と思ってしまう。


 そんな小さな発見だが、その発見は大きかろうが小さかろうが、インスピレーションを沸かせ、漫画を書いている人間だけでなく、すべての創作人にとって大変ありがたいものである。


 そんな発見を漫画に持っていけず、インスピレーションを尾行活動にさくのはもったいない気もするが、都楽くんのためだ。仕方ない。嗚呼仕方ない。仕方ない。


「それ以上のネタ提供を期待しますよん。うっしっしー」


 コインロッカーの前で一人の少年が笑っている光景は、周りから見たら頭おかしいようにしか見えない。


 ちなみに駅に来る前に、服屋の近くにあったショッピングモールで買った男装服に着替えて(ここで生お着替えのサービスシーンですかね。需要迷子)、着ていた服は買い物袋と一緒にロッカーの中。


 なので完全に変装完了。砂流夜麻、男バージョン完成。


 終わったのでLINEを開き、終わったと連絡しようとしたところで、


「ちょっといいかい?」


 声をかけられた。


 返事をする前に息を整えて、男の低く落ち着いたトーンを意識して口に出す。


「なんでしょうか?」


 振り向いた瞬間後悔した。


「君さ、お姉さんか妹ちゃんいないかな?さっきの子にそっくりなんだけど…………」


 既視感があった。その短めの茶髪に。


「連絡先聞きそびれちゃってよ、アレだったら教えてくれないかな?」


 今気づいた。片耳に寄せられたピアス。


「俺、『真木まき』っうんだ。よろしくな」


 ニコッと人当たりの良い笑顔を向けてサラッと握手を求めるのは、私たちとは違う根っからのリア充星人だ。


 夏まであと一ヶ月ほどあるのに健康的に焼けた肌と短い茶髪。大学生っぽくはないから高校生だろうか。しかし高校でピアスは高速違反なのでは?


 細マッチョぐらいの筋肉もあるからスポーツ好きか。私もバスケをやっていたから、スポーツマンの体つきでどんな種目をやっているかは、おおよそ推測できる。


 焼けた肌と肩幅の広い体格。脚は全然太くないから脚力を生かしたスポーツではない。しかし体全体の筋肉はバランスよく各部位が鍛えられてる。


 水泳とかなら全身バランスよく焼けるかな。いや、趣味で肌を焼いているなら屋外スポーツは関係ないのでは?


 しかし何よりも…………。


「……………………」


 やはり攻めだな。


 圧倒的に攻め。


 外交的な性格だから男を何人も手玉に取り、筋肉質な体で押し倒した挙句、寸止めの天才でイイトコのお預けをさせてムグフフフフフゥ…………。


 いゃ〜、でもあえて受けってもの悪くないのでは?


 部活の先輩としていつもは引っ張ってくれるけど、夜では意外にウブな感じで〜。この人当たりの良い笑顔を彼氏くんは独占したい欲が湧いて、翌日から笑顔にぎこちなさが現れ始める!闇落ちヒロインも可ァッ!


 うわっほぅ〜!ギャップ萌え〜!


「お、おい大丈夫か?目から血出てるけど………」


「これは目から出る幸せの赤い水だよ!たまにあるから!大丈夫!」


「……………病院行ったほうがいいんじゃないのか?」


 それより保健室行きたい〜。受けか攻めか確かめたい〜。もしくは両方でもイイっすよ〜!どちらでも私は受け入れられる!

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