28話 ずっと可那のターン
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入店してから約1時間経過した。こんなに長く話すとは思わなかったから、最初に注文したコーヒーが切れてしまって追加した。出費が痛い。
しかしメイド喫茶でもアイスコーヒーを頼んだし、さっきここでも飲んだ。これ以上のカフェインは体に良くないと思い、可那カツアゲ含めてバニラシェイクを二個たのんだ。
「ほい」
「ど〜も〜」
パシリにされてるみたいだ。高校入学してからの初パシリが購買や自販機じゃないなんて、変な感じだ。
ストローの袋を破いてプラスチックの蓋にぶっ刺し、中の液体か固体かわからないアイスのような物を吸う。
シェイクという商品名はついているが、はたして正式名称はなんと呼ぶのだろう。アイスクリームにしてはドロドロだし、ジェラートでもなかろう。ならばこれはなんだ?
最近の高校生、特に女子の間ではタピオカが流行っていて、俺も女装しているからそれに乗っかりタピオカ女子を名乗っているが、アレもアレで何食ってんのかわかったもんじゃない。初見はカエルの卵だと思った。
「じーーーーーーーー……………」
「凝視を口で言う人初めて見たー」
「そっち何味?」
「可那の心の声。『何味でもいいから一口もらっちゃおー』」
「イェス!」
「何がイェスだ」
中身は同じだよ。
「お友達遅いねー」
「そだな」
さっきの可那についた嘘はあながち間違ってはいない。砂流は買い物に行って遅れているし、友人と表記するのは不服だが待ち合わせをしているのはたしかだ。
だが買い物にしては遅すぎる。そりゃまぁ尾行のための変装なのだから抜け目ない方がいいし、準備に手間取るのはわかるが、ちと遅すぎるのではなろうか。
「じーーーー」
「………んだよ」
「
「……………なんなんだよ」
女子が好きな手相占いだろうか。そーゆーの好きだよね女子ー。恋愛とかめっちゃ好きだけど、行き過ぎてボーイズの恋愛いかなければ許容範囲内。あいつは手遅れ。
シェイクを持っていない左手を出す。
「ん」
ぷにぷに。ふにゃふにゃ。
「ふむふむ。なるほど」
「………………」
女子に手を触られてると、なんだか変な感情が湧き上がってくるが、可那が俺の手を思いっきり折り曲げた時に、変な感情が丸々痛みに変わった。
「おりゃ」
折ゃ。
ちゃんと指が折り曲がる方に曲げたが、ボキボキボキッと音を立てれ、中指が生命線(手のひらと手首の境目まで伸びる線)を超えてまで曲げられたら、誰だって悲鳴を上げる。
「お前何しやがるんじゃゴルァ!」
とうとうお前になった。お前って言うのが失礼とかいったな。あれは嘘だ。
「ついカッとなってやった」
「でも反省してないだろお前!」
「てへぺろ☆」
「てへぺろが許されるのは小学生までだ」
複雑骨折はどう考えてもてへぺろでは済まされない。複雑骨折じゃないけど。
「爪」
「何が?」
「后谷の爪さ、めっちゃキレイ」
「……君のような勘のいいガキは嫌いだよ」
どうしてそこに目をつける!
毎日手入れをしてるからな!風呂上りの爪が柔らかいときに切ったり削ったりするのがオススメだぞ♪じゃなくて!
さっきもそうだったが香水やら肌やら爪やら、お前は妻の気づいて欲しくないところを気づくダメ夫か!ちょっと太った?は砂流専用のセリフだ!
「……いや間違えた、昨日ちょうど切ったんだよ」
「それに后谷、男の子にしては声が高い」
「……君のような
だから何でそこに目をつけるんだよ!妙な観察能力を発揮するな!見た目は子供、頭脳は大人的な、毒針打ちまくる小学生みたいなことするな!真実はいつも〜。
「一つ!柑橘系の香水」
「…………は?」
危ない発言するなよ。お偉いさんに怒られかねない。俺が言い出しっぺだけどさ。
「二つ!お手入れされた肌に整った爪」
「………………」
「三つ!男の子にしては高い声」
「………………」
「そして今思いついた四つ!」
今かよ。
「華奢な体格」
「………………」
全てのパーツが揃ったらしく、口頭部に青いイナズマがピキーンと光る。
「犯人はお前だ!!」
「………………ポテトを食い尽くした犯人は可那だけどな」
「えへへ〜」
シェイクを買ったときにはもうポテト消えていて、綺麗に折り畳まれた紙容器だけ残ってる。何がえへへだ。
「こほん。つまりですね、私は睨んでいるのですよ」
「ポテト捕食事件の犯人なら口拭いてから推理しろ」
キュッキュッキュッ。
「………………あのですね、后谷さん。これは大変言いづらい事なのですが」
「………………はぁ」
バレたな。
もう腹をくくった。
初の女装バレがまさか男状態で見破られるとは思わなかったが、まぁ仕方ない。
香水をつける男子もいなくはないが、肌のケアを怠らず爪を整えて、その上地声が高い男子なんてそうそういるはずもない。
女装するなら徹底的にやると決めたわけだから、毎日の鍛錬は怠らないようにしていたのだ。それが今回裏目に出てしまったわけだ。
でもまあバレたのが隣のクラスの奴ってのは不幸中の幸いとも言えなくはないし、隣のクラスなんて学校で接点は少ない方だろうから、そんなに重く捉える事はない。
重要なのは「内緒にしてほしい」と言う事だ。
しかし女子のグループで内緒とは「ねぇねぇ、○○さんって○○らしいよ〜。内緒だからね」という後付けで流行するのがお決まりだ。
それは絶対に回避しなくては行けない。
ここからは俺がどうこう出来ない問題だから、誠心誠意、心を込めて、命乞いをすべきなのだ。
深々と頭を下げて土下座ならぬ椅子上座をする。ただ座ってるだけだ。
「頼む!学校の奴らには黙っててくれ!」
「ん?え、いや、たしかにそーゆーの珍しいけど、別に隠さなくてもいいんじゃない?」
「ダメだ。ここだけの話にしてくれ」
「………………うん。わかった。でもさ一つ質問いい?」
「それで黙っててくれるなら」
もう後には引き返せないなら質問の一つや二つ関係ない。
「じゃあさ………………」
そう言って周りをキョロキョロと見回し、誰も聞いていないことを確認して、小さな声で可那は喋る。
「あの、そーゆー人でも、子供を産みたいって欲求は、あ、あるのでしょうか………?」
「…………………………は?」
「いやだからさ、体の構造的には出来ないけどさ、心はそっち側なんだから、子育て的な欲求があるのか気になったんだけど……」
「ちょっと待て、なんの話だ?」
「なんの話ってそりゃ」
きょとんとした顔から出てきた言葉は。
「心と体の性別が一致しない人。なんだっけ、トランスフォーマー?トランスジェンダーだっけ?」
トランスフォーマーは変形ロボットおもちゃだ。
「あー………………」
なるほど。察した。
可那は俺を、心は女で体が男もしくは心が男で体は女のLGBDと呼ばれる、性同一性障害めいた、変な人だと思っているのではなかろうか。女装趣味の浅い知識なので詳しくはググってください。
瞬間、俺は脳内で
このままイェスと答えた場合、心は女として可那とは話すことになる。しかし俺はあくまでも女装趣味であって、女の子になりたいわけでも、なっているわけでもない。女装は女の子により密接に近づくための手段でしかない。
だとすれば答えは………。
「……………いない」
「え?」
「あっちの席にいた2人がいない!」
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