27話 ヒロインの追加購入

 ♤


 なかなか席を離れない海鷺さんと都楽くんに合わせて、俺はポテトを追加注文した。流血用ケチャップとしてナゲットをさっき、2話ほど前に注文してたな。あれは嘘だ。


 そのLサイズポテトをシェアして食べてる。悪い言い方をすれば奪い取られている。……あなた、先程同じもの食べていらっしゃらなかったかしら?


「ねぇねぇカビキラーくん」


「なんだいファブリーズ」


「君ってさ、人の名前をなんだと思ってるの?」


「………………………」


 あんたが言ったから合わせたんじゃろがい!1話前のボケを引っ張るほど、この物語はネタ不足していねぇよ!


「私の名前教えたよね?忘れた?」


秋常あきつね可那かな。聞いたばっかなのに忘れたら記憶障害か認知症だよ」


「もしかして認知症?」


「バーコードの年齢飛び越して頭皮真っ白だよ!!」


「じゃあ障害者?」


「もうただの悪口だよ!!」


 さらりとひどいことを言う。


 でも真面目な話、距離感が掴めないのだ。


 対等な関係なら俺も下の名前で呼ぶべきだが、馴れ馴れしい上に海鷺さんすら下の名前で呼べてないのに、こっちを先にとは不平等だ。


 かと言って「秋常」と呼ぶのは違和感がある。それに「お前」と言うには失礼だし、「君」なんて呼び方はマンガの世界の住人だけだ。と勝手に思っている。


 そもそもこの類の人類と遭遇したことがない。猿とは幾度も遭遇しているが。


「ハッキリしなさい!『可那』と『秋常』、どっちが好きなの!?」


「確定していない浮気を問い詰める彼女みたいなことを言うな」


「個人的には『可那』って呼ぶことを推奨します!」


「両方とも同じだけどな」


 秋常も可那も、総じて秋常可那だ。


「ならこうしよう」


 ピコーンッと頭から豆電球を出し発光させて(物理的にだったらもう事件だ)、俺の買ったポテトを一本取り、口に加える。


「私と后谷、お互いに両端からポテトを食べ始める。より多く食べt」


「ポッキーゲームなんてしないぞ」


「やだなー。ポテトゲームだよー」


 ポッキーの正しい遊び方はキャンプファイヤーの木組みみたいに積むことだ。


 食べ物で遊ぶなって言うけどさ、ならどうして「笛ラムネ」は販売されているんだ。


「じゃあコレを5秒以内に食べ切れれば私の勝ちね」


「アンフェアだ!ポテト一本に1秒もかかんねぇよ!」


「では鼻からポテトを……」


「食べ物で遊ぶなーっ!!」


 ポテトは鼻血止めティッシュの代用品にしては不適切すぎる。


 なんだコレ。すごく疲れる。砂流を相手にしているみたいだ。


「はぁ……。わかった、かわかったよ、わかりました。可那って呼ぶから、それでいいだろ?」


「ふっふっふー。世は満足じゃ」


 お主悪よのぅ。俺は違う。

 少し冷めてしまったポテトを一本摘む。


「満足ついでにもう一ついいかな?」


「なに?」


 可那からお代官様へ呼び方変更か?


「后谷って香水つけてる?」


 ギクゥゥゥゥッ!!!


「さっきのポッキーゲームならぬポテトゲームで、唇が触れ合う距離になって気付いたんだけどー」


「そんな事実は存在していないし、視聴者に誤解を招くような発言はやめろ!」


 わたくし武田后谷は無罪です。


「隣に座った時に思ったけどさ。后谷いい匂いした。香水の匂い?」


 体臭が香水の匂いだったらそいつは花の妖精かなんかだ。


 香水はしている。普段から出かける前にワンプッシュする習慣がある。それを今日もやってしまったのだ。今日は砂流しか合わないからまぁいっかと思っていた。


 不覚だ。隣のト○ロもとい隣の可那は、俺の痛いところを的確についてくる。未来は立派な足つぼマッサージ師になれちゃうね☆


「くんくん。すんすん。ぺろぺろ。…………うん、いい匂いする」


「明らかに違う擬音が混ざってますよ」


 臭いを嗅ごうとして近寄る可那から距離を取ろうにも、これ以上離れると椅子から転げ落ちてしまうため、座席の半分は空気椅子状態だが、お構いなしに近寄ってくる。


 ちな、個人的にはぺろぺろよりレロレロの方が好きだ。


柑橘かんきつ系の香りかな?」


「………exactly《その通りでございます》」


 俺が逃げようとしてとった距離と、置かれた距離以上に近づいてくる可那。客観的にはイチャイチャしてるようにしか見えない。具体的には抱き合ってるようにしか見えない。


 もうコレ誤解される体制ですよオイ。


「んー…………、お肌のケアもしてる?」


「ぬワッツっ!?」


 吐息が緊張した肌を撫でて、変な声に変換して口から出る。鼻は俺のかけていた香水とは別の匂いが漂う。おそらく可那のシャンプー。


 他人の気も知らずに可那はもっと近寄ってきて、いつもよりかは手抜きの肌を、俺の頬っぺたを触れる。


「すごいスベスベだし、柔らかくてもっちもち。すごく美味しそう……」


「俺は今現在、可那に捕食されてるけどね」


 なるほど、俗に言うマグロとはこれか。


「あの……、いい加減離れてもらえません?腹筋きついっす………」


 空気椅子の上に、上半身を後ろに倒しているので、異常なほど筋肉を使う。せっかく女体再現で筋肉落としたのに、変な筋トレさすな。


「どいて欲しい?」


「食べないでください」


「シェイク一本、バニラ味でどうだ」


「……………新手のカツアゲだー」


 とにかくどいてもらわないとマジで俺の背骨がポッキリいきそう。ギックリ腰ならぬポッキリ腰だ。ポッキー腰。

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