26話 that談

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 そんなこんなで、チラチラと海鷺さんたちを監視してる間に、隣のトト○並に隣にくっつく彼女とぼちぼち仲良くなった。


 彼女と言っても第三人称の彼女であって、決して付き合ってる男女の、ラブラブチュッチュするダーリンとかハニー(ウォエ…)とかじゃない事をご承知願いたい。


 彼女の名前は「秋常あきつね 可那かな」。俺と同じ15歳の女子高生らしい。趣味は散歩に天体観測と、今の現代人としてはいささか珍しい趣味をしている。


 ゆるふわウェーブのかかった黒より明るい髪に、レッドブラウンのカラーコンタクト。童顔と呼ぶのか、年齢より幼く見える顔立ち。幼く見えるのは、目が大きいからか、ニッコリした笑顔のせいか知らないけど、なんというかこう、コスプレ欲を掻き立てるものだった。


 このまま交流を深めたいところだが、しかしそうもいかない。深めたくない理由がある。


 通ってる高校が同じ高校なのだ。


 しかも隣のクラス。


后谷きさきっていくつ?」


「俺に値札はついてないぞ」


 少なくともこの100円コーヒーよりかは高いはず。


「あと30年もすればバーコードはできそうだよね」


「ハゲは遺伝で決まるらしいが、俺のご先祖様は全員毛根が強いから心配ない」


「で何歳?」


「15」


 そんなくだらない話をしていた。


 出会ってそんなに時間たってないのに下の名前で呼ぶなんて、馴れ馴れしいとゆうか距離が近い。精神的にも物理的にも。


「わーぉ。すごい偶然だ、私も15。ってことは高校生?」


「イエスキリスト」


「どこの高校?」


「森仲」


 ん"っ!!


 口に出した瞬間気づいた。


 俺、今通常モード。一般人的モブの男子高校生。しかし、学校では女装している。スキンケアしてメイクして、髪型バッチリ決めてから学校に来てる。スキンケアは今日もしてるけど。


 もしこれで高校まで一緒なら、一気に女装バレの確率がぐーんと上がる。まるで甲冑を外して本来のスピードになれば、残像出せるぐらいぐーんと上がる。


「へー、ほんと偶然」


 オワター………。


 ってわけで、結構なピンチに立たされております。


 どうしよう。誤魔化すか?「あ、間違えた。隣の高校だよ」って?でも高校を隠すような奴はほとんどいないし、逆に怪しまれるか。


 それならどうするべきか。


「后谷のお昼コーヒーだけ?少食もそこまで行くと逆に不健康な気がするけど、それで足りる?」


「いや、昼は別のところで食ったんだ。ここは…………」


 友人を尾行し入店したから、コーヒーだけ頼んで時間潰してる、なんで言えるわけもなく、


「友達と約束しててさ、随分と遅れるらしいからのんびり待ってんの」


 それらしい嘘をとっさに吐く。嘘をつくなら絶対に高校のくだりで言うべきだった。俺の口は天邪鬼あまのじゃくか?この役立たずめ!


「へー、そうなんだ。…………じゃあ私お邪魔だったかな?」


「っ!!」


 墓穴掘ったな!この天邪鬼め!


「い、いや別に大丈夫だよ?ほ、ほ、ほら、俺の友達よく遅刻する奴でさ、全然ぜんぜん前々ぜんぜん漸々ぜんぜん大丈夫だよ」


 こんなスタイルの女の子と知り合えたのに簡単に逃してたまるかっ!


「それに待ち時間暇だったし、話し相手がいるといいなーって………」


「…………さっき、私めっちゃ露骨に嫌な顔されたんだけど……」


 あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁっ!!!!


 それらしい言い訳が思いつかない。数分前の俺を殴りたい。君が泣くまで殴るのをやめないッ!!この汚らしい阿保がぁ!!


「…………その節は失礼しました」


「あはは。うむ、素直でよろしい」


 ムフンと変な鼻息を立て、腕を組む。


「では仲直りの印と友情の証として、LINE交換しましょう〜」


 そう言って小さな鞄からスマホを取り出し、笑顔を咲かせる。


「……………………」


 欲しい。欲しいよ、連絡先。仲良くなりたいし、めっちゃくちゃ欲しい。けどさ。


 俺のアイコン、女装中の俺なんだよね。


 いやさ、変えればいいんだけどさ、男に帰るわけにもいかんやろ?だって海鷺さんも友達登録してあるんだし。


 そして考える。アドレスはもらえるけど女装バレしない、男性も女性も使う、中性のアイコンってなんだろう。


 写真なしにすれば解決だが、今まで写真をアイコンにしてた奴が、急に消したら怪しまれるのではなかろうか。


 だとしたら動物か?猫や犬の写真を……、いや、そもそも持ってない。


「ちょ、ちょっと待ってて」


 スマホを取り出してLINEのアイコン変更をタップ。ライブラリーを確認するやっぱりない。しかし今からダウンロードするほど時間はないし、それらしい写真を…………。


「お、お待たせ」


 そう言ってスマホを差し出す。


 これなら大丈夫なはず。たぶん。


「ほいっ、読み取れたかな〜っと。………………」


 読み取った先にある俺のアイコンを凝視する。そしてそのまま俺に向ける。


「…………なぜカビキラー?」


「…………もしかしてファブリーズの方が良かった?」


 俺のアイコンはたまたまあったカビキラーになった。なぜあった。

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