25話 相席居酒屋ってこんな感じ?
♤
いやさ、注目を集めるファッションだと、もし学校の連中に見つかったら、面倒だからって意味なんだがな。ほら、あやつの男装は女子にモテるし。
でもそんな顔を真っ赤にしてまで起こりますかいね。
「とりあえず電話するか…………」
とうおるるるる ぶち。
ピロリン。LINEのメッセージ。
『電車の中じゃボケ』
「…………………」
そんなに遠くに行く必要あるかな?まあ買った後は各自持ち帰るわけだし、好きなもの選んでくれて全然いいが、ちとこだわりすぎじゃね?
はっ!もしやお気に入りの店員さんがいるとか?わー、浮気だ浮気。
ロック解除しキーパッドで入力する。
「じゃあ何があったら連絡する」
「そっちも何があったら連絡くれ」
『御意』
どこの時代の人だよ。
よくよく考えてみたら電話する必要は少ないし、移動したなら現在地を共有すればいいわけで、メンヘラ彼女でもないのだから、逐一報告はやりすぎか。
「んー…………」
だとしたらこの時間は結構暇だ。あちらが動くまでこちらも動けない。
この4人がけの席に俺1人はなかなかの贅沢感と虚無感がある。出来れば窓際の1人用席に座りたいがそうにもいかない。尾行すると決めた以上、そんなに離れるわけにも行かないし、そもそも窓際の席は埋まってる。
店には申し訳ないがもう少しお一人様でゆっくりさせてもらおう。
それにしても、最近のマックコーヒーはうまい。これが100円ほどで飲めるのだから、原価いくらだよと考えてしまう自分がいるが、コーヒーを飲んで洗い流す。
「すいません」
「………え、俺?」
「はい。俺さんに聞いてます」
何だこの人。
「相席いいかな?どこの席も埋まっちゃて………」
少女が話しかけてきた。少女と言ってもほとんど同い年の高校生ぐらいの女子。
なるほど相席か。個人的にはあまり好きじゃないし、いつもなら「もう帰るとこなんでいいですよ」なんて言って席を開け渡す俺だが、今日に限ってそれはできない。
「………どうぞ」
「ありがとう」
そう言って横に座る。
ひまわりスマイルが真横。
「………………あのー」
「……大丈夫。私全然気にしないから」
俺は気にするんだが。
相席は嫌だけど店内は満席だし、少人数のテーブル席は女子会しているおばはんと、キャッキャウフフしている若者ばかり。砂流にあたりがキツイ俺も、一般人に罵詈雑言を吐きはしないし、あのマダムグープやキャピキャピチームに混ざれなんて、血も涙もないことは言わない。
仕方なく座るのはいい。だが、横に座りますか普通?一般常識的には間に机を挟むと思うんですけど。
「…………………」
普段は開かないネットニュースを開き、スマホを眺める。無視じゃ無視。
「え?何スマホいじってるんです?お話しますよ」
「え?話すの?」
「当然です」
「…………………」
「露骨に嫌な顔しないで」
露骨にもなるわ。こんな変人なら席開けちゃおうかしら。
「これも何かの縁だよ、いっぱいおしゃべりしよ?」
「………………」
なんだこの人。
てか、よく見たらこの人、めちゃんこ可愛いぞ。
というかスタイルがすごい。ウエストが引き締まってるし、首筋がすごく綺麗。指は爪の先まで整っているし、二の腕が細すぎず太すぎずのベストコンディション。
だが、この人は海鷺さんのようにバストやヒップの発育がすごいわけじゃなく、普通なのだ。
しかし、だからこそ、スタイルが整っている、整いすぎてる。海鷺さんがパワータイプならこの人はバランス型。男受けしやすいスタイルの海鷺さんに対してこの人は男女どちらも魅了するような、そんなスタイル。
「ねぇ、聞こえてる?」
「…………………………」
ふぅ。落ち着け、俺。
まずは深呼吸だ。1秒間に10回の呼吸をして、10分息を吸い10分息を吐くのだ。そして素数を数えて落ち着くんだ。
2、3、5、7、11、13、スタイル良すぎ、17、19、23、海鷺さんがシェイク飲んでる、29、飲み終わったカップでいいから欲しい、31、37、41……。
「もしもーし」
砂流がいない以上、俺の暴走を抑えられるのは俺の自制心のみ。ここは我慢だ。ひたすら我慢。
しかし逆に考えてみれば砂流がいないのだから好き勝手できるし、せっかく発散したストレスをここで貯めるのはよろしくない。
いやでも海鷺さんが目の前(斜めの席)にいるのに浮気などあってはならないし、もし海鷺さんたちの追跡が遂行できなかったら砂流に殺され、俺も俺を殺すだろう。
ちくしょう!俺はいったいどうすりゃあいいんだよ!!あァァァんまりだァァアァ!
「あのー、大丈夫?」
「何がですか?」
「め、目から血が出てるよ!?」
「大丈夫。これ食紅だから」
「何がどう大丈夫なの!?」
たしかに人体の構造で目から食紅は出てこないよな。ケチャップの方がよかったかな?
すいませーん。270キロカロリーのナゲット追加で。
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