19話 棒で玉を突き、落とすゲーム
♤
右腕をいじめた玉転がしをやめて、またしてもエレベーターで階を跨ぎ、着いたのは比較的薄暗いホール。
ここはビリヤードコーナーである。
玉転がしとしては先ほどとは変わらないのかもしれないがしかし、圧倒的に違うものがある。それは、
「スタイルが……」
そう。スタイルが丸見えなのだ。
ビリヤードをする風景を見た事はなくても、想像はできるだろう。
様々な角度から打つためにお尻を突き出すようなそのシルエット!ほぼ真上からしか打てないので、台に片足を乗せる事で発生するパンチラ!まぁアマチュアはそんな事しないし、スカート履いてる奴は、よほどの脳味噌でない限り、そんな事はしない。するとしたら前者だけだ。
「何か言った?」
「なんでも」
それを証明するように直立姿勢でビリヤードをする砂流。
本人は未経験のビリヤードなのだが、持ち前の運動神経か手先の器用さか、はたまた見様見真似か、理由はいずれにせよ、その姿は様になっている。
ビリヤードの棒(正式名称があるんだろうけど知らないので以降、棒と呼ぶ)を後ろに引き、一気に突き出す。
カーンッ!
白い球は一番の黄色い球にぶつかると、衝撃が拡散して、一箇所にあったカラフルな球が、あっちこっちに散らばる。
そして次は二番の球。壁に一度当てて、死角になっていた二番の球にぶつける。
確かビリヤードには色々なルールがあるらしいが、今回はあくまでお遊びで、一人でやっているから問題ないだろう。
「…………」
ビリヤードに集中しきってる砂流の横顔は、悔しくも綺麗だった。それは周囲の客がチラ見して見惚れるほど。
まぁ元々美系の部類だし、今更なのだが、やはり集中しきって黙っている彼女は美的だった。黙っていれば美人とはよく言ったものだ。
しかしどうしたものか、あまり予想外すぎる。
周りには女性はほとんどおらず、いたとしても低レベルの女性ばかりだ。
手が整ってなかったり、ファッションセンスがなかったり、ずんぐりムックリだったり、そもそも年齢不詳だったり。あまりに酷すぎる。
そうすると消去的に、砂流が一番のファッションとスタイルを持ち合わせた女になってしまう。
合コンで周りの人のレベルを下げて、自分のレベルを底上げするダサいOLみたいだ。
これでは俺の楽しみが無いではないか。
「暇だし俺もやるか」
ビリヤード未経験だし、棒の持ち方やルールも知らない俺だが、見たかった美少女のビリヤードポーズが見れないとなると、暇を持て余してしまう。
仕方なく壁に立て掛けられていた棒を一本抜き取り、正式名称の知らない棒の先をグリグリする道具で先端を青くする。どういう意味があるのか知らないけど。
「この玉って、白いやつ除いて15個あるんだろ?」
「ん?あぁ、そうだね」
集中しきっていたのか急に話しかけられた砂流は指を滑らせ、意図しない方向へ玉を突く。
コロコロと転がる玉は次の標的である5番ボールに擦り、関係のない9番の玉にぶつかる。
そのままコロコロ転がり、何一つポケットに入らないショットとなった。
「………………」
頬を膨らませる砂流。
「あぁ。悪かったよ」
面倒くせぇ女だなまったく。
「もうすでに4つ玉が無い状態だから、今の玉数は11だ」
「そうだな」
「んじゃ一つ賭けをしないか?『お互い数字の端っこから玉を落としていき、先に10番を落とした方が勝ち』ってルールで」
「私は5番スタートで武田は15番スタート?」
「そう。相手の玉を落とした場合は相手の得点としてカウントされる」
「なるほど」と砂流は呟き、
「『自分が落とすべき数だけ落として、そっちの玉を落とすと、ただ塩を送る事になる』ってこと?」
「そういうことだな。ワンショット交代で白を落とした場合は二回休みでどうだ?」
「おっけ。んで賭けの内容は?」
「うーん、そうだなぁ」
提案したものの、カジノじゃあるまいし、チップを賭けるわけにもいかず、ジュース一本じゃあ面白くない。
「昼飯の店を決める権利とか?」
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