10話 デートとは

 ♤


 そして現在に戻る。


「いやぁ…………あれは……そのぉ………ですねぇ…………」


 砂流はバツが悪そうに目をキョロキョロと泳がせ、言い訳を考え始める。


「どこ見てんの?話してる時はちゃんと話してる人の目を見る」


「いやだって、目を合わせると石化しちゃう」


「……………………」


 メデューサじゃねぇよ、などと突っ込んでやるものか、と無言で返す。


「……………………」


「……………………」


「………すいません」


「真面目に答える」


「……ハイ…」


 ビクビクと震えながら答える砂流はストローを吸ってコーラを飲もうとするも、ズズズズと音を立てて、中身の入ってないコーラを飲んでいる。


「ねぇもしかしてアレ、痴話喧嘩?」

「浮気かしらねぇ」


 小さなその声は先程から窓際を陣取っていたおばさんグループのものだった。


 いわゆる女子会って奴だろうか。どう考えたって女子ではないが。


 痴話喧嘩ならどれほど良かったか。


 浮気ならもっと良かっただろう。


 この脳みそが腐った腐女子が普通に喧嘩し、普通に浮気をしてるような普通な女子高校生ならどれほど良かったか。


 あぁ、でも今は俺が女装して砂流が男だから、砂流は今他の女の子に浮気したって状態に見えているのか。まぁ何気にモテるからなこいつ。主に男装時、女子に対して。


「で?何か言い残すことは?」


「無罪です」


「有罪だわバカタレ」


「それでも僕はやってない」


「冤罪でも無いわアホ」


 アレはどう見繕ってもアウトだ。


 幸い、他学年の生徒が来て階段を通るためにすぐに起き上がり、何事も無かったように片付いたが。


「まぁ、多分薄々気付いてるんじゃねぇのか?感のいいやつは」


 こいつがBL好きってことは。男装は知らんけど。


「え?マジで?」


「誰のせいだと思ってんだ?」


「ハイ、すいません」


 はぁ。前にも釘刺したはずなんだけどなぁ。


「まぁ過去の事はどうしようも無い。今更悔やんでもどうすることもできない」


 砂流がその一言を聞くや否や、

「ですよね!」

 と、水を得た魚のように元気になり、

「反省するのが反省会な」

 もちろん早めに水抜きをする。


「話進めんぞ。改善点はBLネタを見つけた時の反応をどうにかする事だ。とりあえず解決法は三つだ」


 そういって俺はテーブルの真ん中にあるポテトを摘んで砂流に向ける。


「プランA。砂流が『まとも』になる。普通の女子になる事だ」


「無理だな!」


 知ってる。ポテトを自分に向け食べる。


 またもう一本抜き取り向ける。


「プランB」


「L?」


「やかましいわ」


 ポテトがなぜかフニャっとしなった。


「声帯をくりぬき今後一切喋らず、手話で意思の疎通をする」


「嫌に決まってんじゃん」


「まぁな。一番金かかりそうだしな」


「そっちじゃねぇよ」


 知ってる。しなしなのヘタレポテトを食べる。


 またしてもポテトをついばむ。


「プランC。一回、記憶喪失になってもらい、一から人生をやり直す」


「あのー、無難な方法は無いですか?」


 そうか?どれも簡単だと思うぞ。問題解決の最短距離である。


 何かないかしら。砂流を殺さずに直す方法。


「無難な方法かー。んー、努力」


「はい?」


 ポテトの先っぽにケチャップをつけて砂流に向ける。


「根性でどうにかするしか無い!」


 と、俺はどこぞのスポ根漫画のような顔つきでポテトを突き出す。


「雑じゃね?」


 そう言って砂流は俺の指からポテトを奪い取り、口の中に放り込む。勝手に食うなよ。

「でもそんぐらいしかないぞ。地道な努力こそ一番」


「んー。………じゃあさ」


 多分このポテトで一番長いであろう一本をとり、砂流は俺に向けて言う。


「武田が私のそーゆー所を見つけたら言ってよ。自分じゃよくわかんない」


「つまり相談役?」


「そ」


 砂流はなぜか嬉しそうに、クスリと笑う。


「……………」


 その笑顔に。男バージョンながら中性的な見た目な彼女に。その自然な笑みに。


 不覚にも、心がざわついてしまった。


 あの頃と同様に。


「……そりゃ一段と、長そうだな」


 ヒョイっとその手からポテトを奪い取る。


「あっ!返せコラ!」


「お前も取っただろうが!」


 喚く声も無視してモグモグと咀嚼する。


 そのままコーヒーで流し込みそそくさと片付け始める。


「あーそうだ。トータル853キロカロリー摂取おめでとうございます!」


「ぶっ殺すぞ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る