8話 見た目以上に中身も相当です

 ♤


「有罪で」

「何が」


 第一声から間違っているから会話にならない。


 檻下先生の授業のあと、俺は砂流に連れられて今、階段の踊り場にいる。


「あんたはさぁ、人がすやすや居眠りをしてる人を起こす人でなしか?ブタなのか?」


「ブタじゃないしそもそも、居眠りをしてる奴なんてわざわざ起こさねえよ」


 あとブタは余計だ。


「私が怒ってんのはね、せっかく人がすやすや妄想してたのに!シャー芯で刺すなんていう頭のおかしい行動に怒ってんの!」


 すやすや妄想とはなんぞや。


「謝れ!」

「断る」


 何度でも言おう。会話ができてない。


 サルには日本語まだ早かったかなぁ。あっちゃー。失敬失敬。


「あのさ。俺も一ついいか?」


「何が?」


「お前本当に女隠す気ある?」


「……あるけど、それが?」


「………………」


 あれを無意識にやってることに俺は改めて引いてる。


「腐女子モード入ってる時、キモい声出てた」


「…………うそ……」


「真実だ。……自覚ねぇのかよ」


「全く全然記憶にございません」


 政治家みたいなこと言うな。


 思い出すだけでも鳥肌が立つ。


 ノートに映し出されるように瞬く間に仕上がっていくBLノート。保健室発言をした男子生徒を見つめる腐女子モード全開のいかがわしい目。しかもそれが男子なのだから。


「隠すんならさぁ、もっと慎重にやったほうがいいぞ。はたから見てると、男が男をエロい目で舐め回しているようにしか見えない」


 見えないんじゃなくて事実その通りなのだが。


「舐め回している………ふ………腐腐……」


「うわっ」


 さすが砂流さんドン引きっすよ。ドンドン引き引き。


「でもさ、武田も人のこと言えないからな?」


「俺?」


 ドン引きしすぎてドン小西になるんじゃないかと考えてると、思ってもみない方から指摘が来た。


「俺は完璧だったろ」


「どこが?」


「んじゃなんかダメなとこあったか?」


 砂流は顎に手を当ててうーんと悩むと、「まずはあれか」と独り言をして。


「顔が変」


「……元からこの顔だ」


 化粧してるからだいぶマシだというのは、俺のプライドを削るだけなので飲み込む。


「あっ間違えた。表情が変」


「テメェわざとだろ喧嘩売ってんのかこの野郎」


 いちいち俺の神経を逆撫でしないと気が済まないのかこいつは。


「あんたも女子をいやらしい目で舐め回しているって言ってんの」


「違う違う断じて違う。俺はただ新しい友達を探すべくしてクラスの女子を見ていたんだ。決してエロい目では見ていない!」


「………………」


 砂流は目線で訴える。「本当かよ」と。


 まぁ100%とは言えない。少量ながらそういう目で見ていたわけでもなくはない。


 いやだって仕方ないじゃん。右斜前にべっぴんさんがいたんだから。


「あの黒髪の子でしょ?たしか……えーっと…………う……海、……海何とかさん」


「海鷺さんだよ」


 海何とかってかなり失礼だぞマジで。


 海鷺華月うみさぎかづきさん。黒髪ストレートの超絶美少女。


 背筋をしゃんと伸ばし、綺麗なその様子に一目置いていた彼女。俺の座席からすると右斜方向にいる、こいつより百倍も可愛い彼女。


 中の上ほどの身長と、細過ぎず太過ぎずのシルエット。そして白く滑らかな肌に、腰ほどの長さほどある黒髪。


 少し垂れ目だけど、そのたたずまいあって可愛いと綺麗の両方の印象を生む。


 内心「AAランクプラスだな」と谷口ごっこを振り返っていると、


「その子をあんためっちゃ見ていた」


 ぐうの音も出ない指摘をされた。


 言わずもがな、見ていた。よく見ていた。


 目測88はある強靭な乳房を!


 だってさー、高校生がしていいスタイルじゃないじゃん。なんだそのヘビー級ボディは。


 あれだけ高レベルなスタイルだったら色々な服を着させてみたい。だがどんな服を着せても制服が一番似合うだろうなー。ならば他校の制服を着せてみるも悪くない。気もしなくはない。


「ほらその顔」


「……………………」


「わかる?あんたも人のこと言えない」


「…………なるほどな。わかった」


 ふふん、と勝ち誇った笑みを浮かべる砂流にムカついて、


「じゃあ互いに監視し合うってのはどうだ?」

一つ提案をしてみたら、

「……………は?」

まるで宇宙人にでもあったのかのような顔をされた。


「だから、自分達では気づかないミスを出さないために、そして暴走しないように互いに互いを監視する。おけ?」


「は?意味わかんない。普通に隠し通せるから私」


「じゃあさっきのBL落書きは?」


「……………………」


 砂流の顔面で、変な汗がナイアガラしてる。


「じゃあ俺教室戻るわ」

「いや、私まだ言いたい事あるんだけど」

「じゃあLINEしろ」

「いや、なんでよ」


 こいつ本当はポンコツなのではないかと最近思う。


「クラスの連中が俺らで変な噂させないように、適当な理由でっちあげないと行けないんだ。でも時間がかかりすぎると信用されにくい。だから早く帰る。おけ?」


「………………ナ、ナルホド」


 本当にわかってるのか。


「呼び出された言い訳はこっちに合わせろ」

「なんでよ」


「はぁ……。『みんなに内緒で相談する奴』と『相談された奴』。はたしてどっちが周りに話しますか?」


「え?…………あぁ、そっか」


 やっと理解した砂流をほっといて歩き出す。


「バーカ」


「あ?」


「気に食わない?じゃアホ」


「どっちも同じだろうがぶっ殺すぞ」


 殺人予告されたので歩くペースを少し上げる。


 教室を入ると一瞬クラス全員の目線が集まるも、すぐに分散されていく。


 クラスの人に俺は質問された。コスリスト(コスプレが似合う人達の略)に入れてある犬川さんだ。今は女子なので当然女子に聞かれてる。


 そっちから聞いてくれると、わざわざ公言しないで済む。有難や。


「ねぇねぇ。砂流くんと何話してたの?」


 この一言にクラス全員の耳が傾いた気がした。


 自分で言ってはなんだが、クラスの美男美女が二人いきなり抜けて、秘密のトークをしだしたんだから、みんな興味あるに決まってる。


 緊張しながらも、丁寧かつ流暢に喋る。


「あーなんかね、中学の友達のLINE知りたかったらしいよ。ほら私、砂流と同中でさ」


 クラスの緊張が途切れる。


 安堵して胸を撫で下ろす人、さらに険しい顔をする人、何やら葛藤している人、つまんなそうに見てる人、そもそも聞いてない人。


 クラスの皆がいつもの空気に向かう。


 が、せっかくなので俺は砂流に一発、エグい爆弾を落とす事にした。


 無論、アイドル顔負けの満点スマイルで。


「あーあとね。パンツ何色?って聞かれた」


「んなこと聞いてねぇだろうが!」


 前の席に座りかけていた砂流(男バージョン)が勢いよく突っ込んできた。


「ごめん間違えた。パンツちょうだいだっけ?」

「そっちでもねぇし俺を変態にするのはやめろ!」

「あっはは。相変わらず砂流くんは面白いなー」


 チッ。上手く避けやがる。


 内心苦虫を噛み潰したような顔をする俺。


 ちなみにこの日のパンツはライトグリーンだ。誰得?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る