7話 日常にBLという花束を

 ♡


「…………保健室……!?」


 何だその甘美な響きを持つ部屋の名前は!?


 最高じゃないか!?


 もくもくと妄想を拡大していく。


 身長を測るという理由で保健室に入るなり、「やっぱり俺の方が高いなぁ」と背の低い男子が測っているのに顔を近づける男子A、「うっ…………(顔が近い)」と意識する男子B。「どうした?顔赤いぞ、熱?」と心配し、額に額を当てて体温を測るA。「(ち、近いよぉ)」と内心焦るB。


「ちょっと寝れば楽になると思う」と口実をつけて逃げるBに、「いや、良くなるまで側にいる」とイケメンなA。


「汗ベッタベタじゃねぇか……」とA。「誰のせいだよ……」と内心呟くB。


 そしてお決まりのサービスシーン!Aから発せられる衝撃の一言!「おら。服脱げ。拭いてやる」


 手際良くネクタイとブレザーを剥ぎ取っていくAの攻めに、「わかったから!自分でできるから!だから……」と僅かながら抵抗するB。


 しかしBの抵抗も虚しくワイシャツのボタンを一つ、また一つと外していき……。


 ブスリ。


「い"っ‼︎‼︎」


 痛っ‼︎何っ⁉︎


 背中からの激痛に思わずのけぞり、とっさに傷口を手で覆う。


 背中から刺された。チクッと背骨に刺さる感触から推測して、おそらく凶器はシャーペンだろう。もちろん後ろの武田が犯人だ。


「だから煙がずっと……えーっと砂流さんだっけか。どうかしたか?」


「え?」


 熱弁中の先生がこちらに目を向けた。


 そして檻下先生が私をチョークで指差している。


 やっべ。いきなりで驚いたあまり、大声出して無意識に立ち上がったみたいだ。


 まずい。何かそれらしい言い訳せねば。


「い、いやぁわかります。めっちゃ酷いっすよね。これってテスト出ますか?出てくれれば高得点狙えますよ」


 苦し紛れに言葉を繋ぐと、

「そうかそうか。いやな、テストは俺が作るかどうかまだわからんから、何ともいえないけど、少なくとも出る筈だ」

 と心底嬉しそうに先生は返した。


 安堵して席にゆっくり座って、ノートの端っこを破り取る。


 その切れ端に「何だよ」と書いて折り畳み、自分の椅子の背もたれの隙間に差し込む。


 後ろから手が伸びてきて紙が擦れる音がする。


 武田が見た。そしてカリカリ音がして、また椅子に紙が挟まれた。


 抜き取って開いてみると、「サルが汚ねぇ妄想してたから正義の鉄槌を」と書かれてた。


 私は反撃すべく「だからってシャーペン刺すな!」と書き、椅子に挟む。


 すぐに返信は帰ってきて「男子高校生の儚い貞操を守るためだ。致し方なく」と。反省の色無し。


 ムキーッ!とした私は殴るように紙に「死ねブタ野郎」と書くも、


『キーンコーンカーンコーン』


とチャイムが鳴る。試合終了のゴングだ。


「あぁもう時間か。じゃ次回から授業なー。ちゃんと教科書とノート準備しとくようにー」


 檻下先生はスタスタ教室を出ていく。


 クラスの中は緊張感から解放されたようにザワザワし始める。


 私は早々に立ち上がり、

「武田さん。ちょっと話があるんだけどいいかな?」

 と、家畜にはもったいない丁寧な口調で話しかける。


「はぁ。いいですけど……」


 現在乙女モードの武田が上から目線の上目遣い言っている。「何だこいつ」と。それはこっちのセリフだ。


「いいからちょっと」


 妄想を邪魔されたんだ。愚痴の一つや二つ言わせろや。

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