3話 感動の再会?いいや。黒歴史の間違いだろ

 ♤


「近寄んな。くっさ。獣臭」

「そっちこそ近寄んな腐女子がうつる。感染する」


 互いに鼻をギュッとつまんだり、二の腕をサワサワする。


 クソ。朝っぱらから最悪だ。この変態と鉢合わせるなんて、今日はとんだ厄日だ。


 原因は3メートル横に歩いている奴だ。離れたいのだが先に行くも、立ち止まって距離を取るのも、なんだか負けた気がして結局この形になった。


 たとえ並んで登校していても、決して仲がいいわけじゃないことをご理解いただきたい。なんせ3メートルだから、道の橋と橋だ。


「あんさ、お前何で男装なんてしてんの?キモ」

「あ?キモっつったか?だいたい、気持ち悪さでいえば女装の方が上だからな、豚野郎」

「お前より上に立てるならたとえ気持ち悪さでも構わないね。上から見下せるからなぁチビ」

「ぶっ殺すぞ」


「安心しろ君を人殺しになんてさせない。いざとなったら『キャー痴漢よー』って叫ぶから。物理的死より社会的に死んだ上で生きてもろて」

「叫べないようにこのネクタイで首絞めて半殺しにしてやる」


 あーあ。世界は残酷だなぁ。せっかく新しい人生をスタートさせる機会に巡り合えたというのに、よりにもよってこのサル野郎と一緒だなんて。


 砂流夜麻すなながれよあさ


 別名、サル。名前をトータルで音読みすると「サルヤマ」になるからサル。


 やけに整った顔はまあまあ美形で、小中と芸能事務所にスカウトされたことがあるとかないとか。100人中、99人が振り向く美少女高校生。


 なぜ100人が100人全員振り向かないかといえば、俺はこの女が嫌いで、酷く忌々しく思っているからに他ならない。その100人に俺なが入っていようものなら振り向かない。むしろ振り返るどころか、この女が視界に映ろうものなら時速50キロで逃げる自信がある。走るのは苦手だけれども。


 そしてこの女、まあまあな美少女と言われるくらいの見た目とは裏腹に、相当な趣味を持っている。


 先程もチョロっと言ったかもしれないだが、改めて暴露しましょう。


 何を隠そう、BLだ。腐女子という奴だ。


 そう。この女は、男同士の恋愛、もしくはエロスが大好きなのだ。いやもう愛してると言っても過言ではないのだ。


 でも、ここまでならばまだ一般人としてもまかり通るのだ。そっち系が好きな、物好き一般人。


 だが、問題はここから。


 この女、砂流夜麻は、極度のBL好きで、初恋の彼氏に、BL本を、誕生日プレゼントで渡すやからなのだ。その上、彼氏をモデルとしたBL本をネットのフリーマンガサイトに掲載したり、コミケで販売したりしていたのだ。


 皆様、ここまで説明すればお察しいただけるだろう。「あっ、こいつやばい奴だ」と。頭のネジが数本、数十本足りない腐女子であると。


 表向きは完璧美少女。しかし蓋を開けてみれば生ゴミより腐った脳を持つ、ヘビー級腐女子。甘いマスクして、素顔はえげつないものだ。


 なぜそのようなことを知っているのかという質問にはお答えできない。もうご想像にお任せする。これ以上語りたく無い。名前を出すだけでも嫌なのに。


 ようするに俺は、この女には二度と会いたくなかったのだ。


 というのは嘘で、会いたくなかった言うのなら、一度だって会いたくなかったのだ。


 それだけはわかっていただきたい。


「もうこれ以上俺の人生を踏みにじるようなマネはすんな。俺の半径500キロメートルに近寄るな」


「そんなんこっちもお断りだ。私の楽園に入れるのはイケメンだけだし」


「楽園?地獄の間違いじゃねぇの?」


「あぁごめんなさいね。イケメンじゃないあんたには関係ない話だったね」


 互いに数秒睨み合って、

「「ふんっ!」」

 と腹を立てる。


 相変わらず可愛くない女だ。そんなんだからフラれるんだよブス。

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