4話 あいつがム○カなら、私はバ○スと叫ぶだろう。

 ♡


 この世にデスノ○トがあるのならば、私は全部の全ページの全段落に書いてでも、殺したい人間が一人いる。


 無論、武田后谷たけだきさきという男だ。


 数分前、高校の入学式当日である今日にバッタリ遭遇した危険人物だ。政府はこの危険人物を野放しにして何をやっているんだ。さっさと指名手配犯にして仕舞えばいいのに。死体でも受け取り可能にして。そしたら私は合法的に奴を殺せる。


 学校の玄関には、私の同級生となる新一年生がごった返していた。


「おー。さすが現役女子高校生。制服が破壊的に似合っている」

「うっわキモ」

「おっと自己紹介ありがとう」


 プッツン。


「キモいのお前だからな。女子高生をじろじろ見て」


 ムカついたので私も反撃してみる。


「あーあ、残念だなー。逮捕状でてたら即逮捕なのになー、この凶悪犯罪者」


 チラリと隣のブタさんを見る。


 しかし武田の野郎は涼しげな顔して、


「今俺女子高生だから、同じ女子高生を見ても怪しまれないし罪も問われないんだよねー。残念だけど砂流のカウンター効果ないぞ」


 と、バカにするように言う。いやむしろバカにしているんだと思う。


「そもそも、俺は女子高生を見てるんじゃなくて制服とプロポーションを見てるんだ」


「同じだろ」


 私がピシャリと言い払うと、


「何言ってんだ全然違うだろ!」


目をくわっと開けて前のめりになりながら言い放つ武田。女子高生忘れてるぞこれ。


「大人っぽくなりつつも、未だに幼さを感じるそのボディ。それをさらに磨き上げる究極のファッション!それこそ制服なのだ!」


 ガッツポーズをして目を輝かせる武田は水を得た魚だ。


「しかし悲しいかな。高校生とは経済的にも社会的にも劣勢。すなわち、コスプレをする事は困難だ。今しか成立しないそのプロポーションを最大限に発揮できるのは制服だけという。これほどまでに悲しい事はないッ!」


 熱っぽく語るそれは常人にはついていけない。


「だからこそ!その制服という一番星を我々は敬意を表さなくてはならない!神が与えてくれたこの希望を我々人類は守らなくてはならない!」


 勝手に人類の宿命にすな。


「………ついていけねーよ。このコスプレヲタク」


 そう。コスプレヲタク。


 この武田后谷は重度のコスプレ好きのコスプレヲタク。


 ゲームやアニメのキャラクターが身につけている衣装を、次元の枠を超えて、3次元でも身につける趣味、コスプレ。


 積極的にキャラクターの衣装を身に纏ったり、キャラクターになりきったりすることを俗にコスプレイヤーと呼ぶ。


 まぁここまでは普通。ちょっと変わった趣味としては許容範囲内。そういう人も何気に多いらしいから、これとして咎める必要はないと思っている。


 だがしかし、この男に関しては別だ。


 この男は一言で言えば度が過ぎている。


 武田はコスプレを『する』のと、コスプレを『撮る』のは当たり前。衣装を自作するのも朝飯前。キャラクターになりきるのも息を吐くようにできる。


 ただ、それを他人にも強要するのだ。


 スタイルのいい人を見つければ男女問わず声をかけ、「ヘイ彼女!今から俺と遊ばない?」ぐらいの気軽さで「ヘイ彼女!この服着てみない?」とナンパするのだ。


 とてもいい迷惑。


 そして結構露出度のある服を普通に勧めるし、平気で路上とかで写真撮影会をする。


 本人いわく、


「ちゃんと許可取ったし、通報されないよう根回しもしてるから大丈夫だ」


とのこと。いや何がどう大丈夫なのだろう。


 そして何よりこの武田后谷はなんと、性別を乗り越えられる。


 衣装はもちろんだがスタイルや顔、口調や仕草なども女子のように振る舞うのだ。


 喉仏なんて元から無かったようにヘコみ、女子顔負けの可愛らしい声が出る。


 キャラクターに成りきるのではなく、成る。


 女子の真似ではなく女子そのものになる。


 レベルが高過ぎて男子に告白されたという話もチラホラ。


 現にこのレベルだ。無理もない。


 手入れされた髪、大きくつぶらな瞳、整った鼻先、華奢な肩、すらっとした手に程よい肉付きの太もも、細い足首。


 本当の性別を私ですら騙されてしまうレベルの高さ。というか実際騙されたぐらい、女子でも憧れる理想の女の子スタイルだ。


 けれども、そのプロポーションに唯一の弱点がある。


 それはまさしく胸部。そう、おっぱいがないのだ。当たり前だ、どんなに頑張ろうと所詮男なのだから。最近は大きく見えるブラジャーとかパッドあるらしいけど、それをつけるのはコスプレイヤーとしては屈辱的だろう。


「……………………」


 じぃーーーっと武田の胸部を見て、


「ふっ…………」


 と微笑を浮かべる。


「…………んだよ。気持ち悪い笑み浮かべんな薄ら寒い」


「今の語り手私で、今読者は私の味方だから、攻撃しない方がいいよ」


「おいメタ発言やめろ」


 一矢報いた。


 変化球同士のキャッチボール話をしていると、


「にしても、なんつうか、こう、いい人いないなぁ……」


「何が?」


「いやさ、やっぱりそう完璧なボディしてる人いないなーって」


「は?」


 意味のわからない事をほざく変態高校生。


「だからさ、顔が良くても手がブサイクだったり、足の太さと長さにスカート丈が合ってない人がいたり、靴下短めの方が似合う人がいたり、あとは」


「待て!ストップ!お座り!」


「お座り?」


「そんなに言われても脳みそで処理が追いつかない!あと、目線完全おっさんじゃん通報するぞ」


「安心しろ。今は俺、女子高生だから」


「その言い訳いつまでも使えると思うなよ」


 キリッとドヤ顔する武田。


 ジト目を向ける私。


「同級生のスタイル確認する前にクラスの確認しろよ」


「それもそうか。同じクラスだったらいつでも見れるから、別クラスのやつを目に焼き付けた方が得だ」


「そーゆー話じゃねぇよ」


 群がる彼ら彼女らを縫い歩き前に出る。


 すると大きな白い紙に大きな表が張り出され、それぞれ1組、2組、3組と順繰りに振り分けられていた。


 すると、隣からブヒブヒと汚い声が空気を汚す。無論、武田だ。


「あーあ。これでクラスまで一緒だったら死ぬわ」


「……神は言っている。フラグ回収乙と」


「?…………あっ…………………」


「えっ、マジ……!?……ちょっとやめてよ」


 汗だらだらで、恐る恐る白い紙を見る。


 砂流……砂流…………あった。


 気に食わない名前の上に


「嘘でしょ……?」


 まさかの速攻フラグ回収。


「番号一つ後ろて……」


 ないわー。いやないわー。もう泣きたい。


 1年3組


 名簿番号15番、砂流夜麻。

 名簿番号16番、武田后谷。


 私と同じように絶望している武田は頭を抱えて顔を伏せる。


「夢だ……これは、悪い夢なんだ……」


「いや吉良さんごっこしてなくていいから……」


 落ち込みたいのはこちらも同じだ。


 クソ。制作者のゲスいく浅ましい思考が見て取れる。「クラスメイトにしないと面白くならないよなー」というメタい思考が。


「とにかく教室行けよ。生ゴミがあるとご近所に迷惑だ」


 しっしっと手を払いながら鼻を摘む武田。


「へぇ自覚あったんだ?」


「間違えた。萌えるゴミだから可燃ゴミか」


「テメェ表でやがれ」


「ここ生徒玄関な」

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