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 佳能子がなぜ嘘をつかなければならなかったのかを説明するには、時を少し遡らなければならない。

 佳能子の所属するクラスでは、新たな学級委員を選出することになった。学級委員は学期ごとであり、学期が後期に突入したからである。立候補者が誰もいなかったので、後期の学級委員の選出には、全員投票による選挙が用いられることとなった。

 クラスの担任教師は、選挙は社会的に最も用いられる方法であり、公平が保証される方法であることを強調した。しかし、佳能子は選挙が公平性を保証しないことを知っていた。かといって、他の方法をとるべきだと提案することもせず、自分以外の誰かが無事に学級委員に任命されることを望んでいた。

 学級委員は佳能子にとって就きたくないものの一つだったが、彼女は自分が学級委員の職からおおよそ遠い位置にあると思い込んでいたので、その不公平と思われる選任選挙に対して、とくに何か手を打つのでもなく、甘んじて自分の票を投じた。

 一クラスにおける学級委員選任選挙に、全校を挙げて行われる生徒会選挙ほどの設備が準備されることはなく、選挙管理は前期の学級委員が行い、投票箱は担任が段ボール箱で急造したものであった。

 そのためか、選挙において求められる、公平を期そうとする感覚は、投票者側にも管理側にもなく、投票は放課に入る直前に急ぎ足で行われたし、投票箱はクラスの一角に翌日の開票まで放置された。

 放置されたからと言って、誰かがその投票箱を覗き見たり内容をすり替えたりすることもなく、生徒たちは下校していった。佳能子も同様で、とくに興味も示さず、そのままにして下校しようとしていたが、ちょうどその日は彼女が日直であり、日直日誌を書いて担任に提出する業務のために教室に一人残らねばならなかった。

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