人を呪わば

ピクリン酸

1

 吉草佳能子にとって、嘘をつくことはハードルが低く、よく用いられる選択肢のひとつだった。しかし、彼女は周りから嘘つきのレッテル(レッテルも嘘の類義語である)を貼られることはなく、それは彼女が持っている技能のためであった。

 佳能子は、もし嘘をついたならば、そのついた嘘をできるだけ事実にするために行動し、嘘をつくときも、それが実現可能かを主に物理的な側面から検討することを忘れなかった。であるから、彼女にとって嘘とは、事実と理想との中間体であり、嘘をつくということは、その場しのぎ以上の意味を持つ行為であった。

 そして、佳能子は今、嘘を事実にする作業の真っ最中である。

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